第50話 アレックスの焦りと信治へのナターリアの攻勢 戦術論もあります。

信治はほけーとナターリアさんたちが着替えて、ミーティングルームに来るのを待っている。戦術面の確認をするために大きな黒板の前に立っている。いつも自信を崩さず冷静なアレックスが焦燥感を感じている様子だった。

「アレックス、焦っている様ですが大丈夫ですか?今は勝っていますよ。焦る必要は無いと思いますよ」

「加入したばかりの信治に言われるとは恥ずかしい。実はUJIZANEを中盤に引き出したことは始めたなんだ。奴は起点になれる。そして思い付きでプレーをするから、先が読めない。何か対策を立ていないとと焦っていたな。少し冷静にならないといけないな」

「UJIZANEのプレースタイルはスペースがあっていくつかの選択肢がある場合により、発揮されると思います。中盤のトップ下の位置はUJIZANEには狭すぎると思いますので、アレックスがタイトなマークにつけば防げると思いますよ」

「言われて見れば確かに」

「そうですね」

いつも雪の優しい声がミーティングルームに聞こえる。

「遅れてすみません。信治さんの言う通り、UJIZANEはスペースがあるとプレーの幅が広がりますがそれ以外は普通のプレーヤーです。トップ下の位置では選択肢が狭まると思います。アレックスさん、ナターリアさん、スミスさん、ジョージアさんが連携すれば防げると思います。ゴール前の混戦は防ぎようがありませんが、一対一に強いジョージアさんが泰朝さんのマークについて、ゴール前の混戦はジェシカさんに無理を言いますが、こぼれ球を処理してもらえれば失点は防げると思います」

「任せろ。空中戦やゴール前の乱戦は望むところ、久しぶりに俺の仕事を見せてやるぜ。円、雪、ナターリア、ミドルシュートとロングシュートだけは打たせないでくれよ」

ジェシカは強気にいった。確かに乱戦時のミドルシュートとロングシュートはゴールキーパーがセーブしにくい。シュートを止めるとビッグセーブと呼ばれるよなと思う。

円がその言葉を受けて言う。

「相手にシュート打たせない様に頑張るね」

雪は微笑みながら答える。

「ロングシュートはキャッチしにくいですよね。エクスにクロスすら上げさせないようにマッチアップします。ナターリアさんはカバーとパスで走ることになると思いますけど、役割は果たせそうですか?」

「ん~♪。やることはいつもと同じなの。信治はナターリアが頑張るとうれしい?」

ナターリアさんの声がする。

信治は自然とそちらに目がいく。ナターリアは両腕を頭の後ろで組んで、ユニフォームを突き上げる胸を強調して、ユニフォームの下から褐色の肌とおへそが目に入る。

信治は思う。

刺激が強い。

まずい。

「一緒にサッカーができるのならとてもうれしいよ」

動揺を隠せずに意味不明な事を述べる。

きっと世の中のたわけはこんな感じなのだろうか?

「信治君、冷静に戦術を語っていた割には興奮しているのね。ナターリアも既婚者なんだから若い男性を挑発をするのはやめなさい」

環が言う。助かった。

「え~。好きな人にアピールしているだけなの♪気にしないで良いよ」

「頭痛くなってきた」

「お姉ちゃん頑張って」

「円も信治君に好意を持っているのなら少しは頑張りなさい」

「お姉ちゃん恥ずかしいよ」

真っ赤になってうつむく円。

信治は何の話をしていたのだっけと思う。

そうだ。UJIZANAE対策だ。

「まだジョンのプレースタイルが分からないけど、アレックスがUJIZANEのプレーを防いでこぼれ球をナターリアさんが拾う事で対策は立てると思います。後はUJIZANEにボールが行かないように中盤でサッカーをしない事だと思いますけど、円さんへのサイドチェンジは読まれていると思います」

信治は再び自分の意見を述べた。

「言われてみればそうだな。UJIZANEのマークは俺が付こう。攻撃はどうするかが問題だな?連携の取れていない状態でエクスが上がってきてくれたらいいんだが」

「そこは修正してくると思います。いつもの通り、王子をボランチのマークに、シュタールさんのワントップ気味に、私と王子で試合を作っていくのが良いと思います。攻撃参加ができるのであれば、環さんや信治さんに参加してもらいたいですね。守ってばかりだと集中力が続かず失点する可能性が高まりますからね」

「それもそうだな。バランスよく戦おう。ボランチの仕事、ナターリア頼めるか?」

「信治はナターリアがボランチの仕事をすると、助けてくれる?」

真剣な目で見てくる。

チームに迷惑をかけたくないしナターリアさんも助けたい。

「もちろんだよ。サッカーは個の能力が必要だけど、それと同じくらいチームメイトとの連携が必要なスポーツだからね。いくらでも使って欲しい」

「今晩も?」

「へっ?」

「女の子にそれ以上放させるなんて、恥ずかしい事なの」

ナターリアは両手をほほにあて、何かとても幸せそうにしている。

「何のこと?」

信治は分かっている。だけど答えたく無かった。

ナターリアさんの気持ちを傷つけることになるけど、何も知らない女性を気軽に良いよと受け入れる度胸は無かった。

ナターリアは戦いは今決まると思っている。

自分自身軽い女性じゃない。どちらかと言うと一途だと思っていし、貞操観念もしっかりしていると思っている。

だけど恋は、一度走り出した気持ちは止めるべきじゃないとも思う。

他の誰かのものになる前に、他の誰かに奪われる前に、運命によって引き裂かれる前に恋を貫きたいと信じている。

「この既婚者が!」

「やーん。環がいじめる。信治怖い。」

ナターリアはそう言うと信治の後ろによってきて、首筋に両手で後ろからつかまり豊かな胸を押し付けてくる。

「この鈍感にぶちんさん♪」

そう耳元でナターリアはささやく。

「ナターリアさん、ミーティング中ですよ。席に戻ってください」

雪は笑顔を浮かべていたが、目は笑っていなかった。むしろナターリアをにらみつけている。

「はいなの」

そう知って余裕を失ったナターリアが自分の席に戻っていく。

「雪ちゃんが怒るのを初めてみた。びっくりしたよ」

雪地震こんなに感情的なっている事に驚いている。いつから忘れた感情なのだろう?

意中の男性に近づく女性に対する嫉妬だ。冷静にならないといけない。

「はい。ミーティングを邪魔する人には厳しいですよ。対策はこれくらいで良いでしょう。後はピッチに上がって、ストレッチとかしましょう。アレックスさん時間が近いです。いつものかけ後お願いできますか?」

「おう。バランスよく守り、バランスよく攻めよう。全体で連動しよう。勝つぞ!」

「はい」10名の掛け声が重なる。

後半も走れるなと確信する信治だった。 

                                    続く

                                                                                                                                                                                                                                                                

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