第48話 前半 ラストプレー みんなの想い
「UJIZANEは前から思っていたけどキャラかぶりお!クリアボールは俺にまあすお!」
「良いけど策はあるのか?」
アレックスが問う。
ぴー
試合再開のホイッスルが鳴る。信治の予想通り、ロングスローが投げ込まれる。
ニアサイドに張っている地方騎士団の泰朝がヘディングでボールをファーサイドに逸らす。
マークをしているジョンに正確なボールが来る。
ジョンは信治のマークだった。
信治に負けるかとジャンプし、何とかボールを跳ね返した。
本来は左サイドに跳ね返すのが安全策だ。
しかし信治は王子を信じてあえて王子を狙ってボールを跳ね返す。
「良い仕事だお、信治」
王子はそう言うと、胸でトラップして、ほかの地方騎士団の選手たちが来ない間にターンを行い、ボールを相手ゴールと王子の中間点に蹴った。
「シュタール、頼むんだぉ」
「任せるんじゃ。こういうのは得意な展開だ」
シュタールは走り出す。ドワーフ族の特徴として、瞬発力に劣るが筋力が発達していて、長い距離と長時間走る事を得意としている。ゴール前のセットプレーで地方騎士団のルーズボールを取る役だったエクスも走り出す。人間族の平均より早い瞬発力で走り出す。もちろん走るのも早い。シュタールとの競争になる。地歩騎士団も全員、自陣に帰っていく。
「ラスト1分。雪、円、信治、環カバーリング頼んだぞ。シュタール、シュートで終われ!」
アレックスの怒号がフィールドに響く。
「早さ勝負なら負けへん」
そう言ってエクスがスライディングタックルを仕掛けてくる。
シュタールは読んでいたのか、ボールを蹴りだすとジャンプしてかわしていた。
しかし、シュタールは態勢を少し崩す。
そこをロングシュートの警戒よりもボールをクリアすべきと決断した地方騎士団のゴールキーパーがボールを大きくクリアする。ボールは右タッチラインを割って試合が止まる。
「みんな急ぐなよ。勝っているが一番危険なスコアだ。慎重に入れ」
そう言いマークの確認をするアレックスだった。
環は考えている。
誰にスローインをするのが安全なのかを。
アレックスは敵のトップ下に張り付いているし、ナターリアは遠い。
だからどうすれば良いのかを。
ふと円が目に入る。
地方騎士団の左ボランチと左サイドバックとの間合いを上手く開けている。
ワンプレー、フリーでボールを触れるかもしれない。
そうだ。
いつも選択肢は1つだった。
円にボールを渡せば何とかなる。
環の事を感じたのか円が叫ぶ。
「おねーちゃん」
「頼んだわよ。円」
円は思う。
試合の前半を早く終わらせないといけない。
プレーを切れば、試合は止まるはず。
狙うのは1つ。
私はいつだって大物を狙っている。
それにみんなに走って欲しくない。
後半の試合があるのだから。
だから私のプレーは。
円はボールを受けると反転して、ロングシュートを放つ。
地方騎士団のゴールキーパーはあわててゴール付近に戻る。
詰め切れなかった地方騎士団の左ボランチと左サイドバックは懸命に足を延ばしていた。
シュートは枠内を捕らえる事ができなかったが、そこでアディショナルタイムが終わる。
天使の審判は時計を見て、試合の時間を判断した。
そして、前半終了のホイッスルを吹いた。
「よっしゃ」
普段、喜びを大きく表現しないアレックスが喜んでいる。
「円、ナイス判断」
「お姉ちゃん、信じてくれてありがとう」
「信治さんお疲れ様です。信治さんのおかげで前半勝ち越す事ができました
雪が微笑みながら信治に話しかける。
私はいつも微笑んでいるけど、異性を意識して微笑むのいつぐらいだろう?
忘れていたときめきを思い出す。
それの感情を外に出すほど私は若くない。
「雪さんたちのプレーが良いからですよ。後半も頑張りましょう」
「もう信治ったら。雪にデレデレしないで。ナターリアの彼氏なんだからね。略奪は許さないわよ」
そう言って信治の左腕を両手で掴むと胸の谷間に挟み込む。
「信治、今日の試合勝ったら、信治の宿舎で気持ちいい事たくさんしようね。試合の終わった後の開放感の後にするとすごいんだからね。でもマナーは守ってね。いやん」
信治は困っていた。
ナターリアさんの直球の好意はうれしいけど、常識からずれていと思う。
だけどしたいかしたくないかといえばしたい。
何より腕に大きくて柔らかいものが当たっている。
溶けるんじゃないかと思う。
「こらこら、神聖なフィールド内でいちゃくんじゃないお。それにしても信治ナイスプレーだった。後は俺にボールを回すぉ」
王子が信治とナターリアの中を割り込んでくる。
「王子の国のことわざにないの。カップルの中を引き裂くと馬に蹴られるんだよ」
「ナターリアの国にも無かったと思うぉ。当然俺の国にも無いぉ。早く信治、ロッカールームに行くぉ。そして後半も点を取って必ずかつぉ」
「はい。王子」
信治はナターリアから離れられて少し安心する。
柔らかかったなぁと思う信治だった。
続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます