第41話 少女たちの前夜祭、月夜の誓い編

円さんの手に引かれ、信治は打ち上げ花火がよく見えると言う戦場サッカーコートに来ている。戦場サッカーコートは関係者以外立ち入り禁止なので、信治たちが使っていても問題が内容だった。

そこには言い争いをしている環とナターリア、それを困った様に微笑んでみている雪がいる。

「お姉ちゃんー!」

円は左手で大きく手を振って環を呼ぶ。

「円なの。信治の手をつないでいるの。許せないの!」

「良くやったわ」

「どこが良いの!円はとんだ伏兵なの!」

「まぁまぁせっかくの花火大会ですし、楽しみましょう。信治さん早くこっちに来てください」

「はい。円さん行こう」

「はい、信治さん」

そう言うと信治と円はみんなの所に行くのだった。

「ねぇ、円はいつまで信治と手をつないでいるのかな?」

「そうだよね。でも信治君は初心だから手を放すタイミングが分からないかも?」

そう言いながら信治の右隣に環が立とうとする。

「私は借りを回収したいタイプだからね。二つの借りを返してもらうわよ」

「今日はみんなで仲良く花火大会ですよ」

環を妨害するように、雪が信治の右側に立とうとした。

「みんなずるいの。信治の隣に立つのはナターリアなの」

「既婚者はあきらめて。思い出に浸ってて」

にゅっと雪と信治と環の間にナターリアが割り込んでくる。

「一度死んだのだから、生きている頃の結婚関係は関係ないの」

ナターリアはボールとアタッカーの間に入る要領で環と信治の間に入ろうとする。

「ナターリアじゃ私の体幹と重心は崩せないわよ」

「そろそろ花火が始まりますよ」

二人を押し出すように雪が強引に信治の右側に立つ。

「そうね。信治、借し三つと言う事にしといてあげるわ」

そう言いナターリアと触れ合っていた環はナターリアから離れようとする。

「あっ。ごめんなの」

そう言ってわざとバランスを崩して、雪ごと信治に倒れこむナターリアだった。

信治は二人分の体重をこらえようとする。

それもつかの間、そのまま円を巻き込むように信治たちはグランドに倒れこんだ。

背中にやわらかいものと良い香りが流れてくる。

「いやん」

いやん?右手がなにかふくよかなものにあたる。

現状を早く確認しないと信じは思う。

「信治は意外と積極的なの?」

「ナターリア、これは不慮の事故よ」

唯一巻き込まれなかった環が冷静に告げる。

「信治さん、少し恥ずかしいよ」

円さんの声もする。

「今、起き上がりますね」

良い香りの正体は雪さんかと信治は思う。

それにしても柔らかかった。

と邪念を持った自分を戒める信治だった。

右手はナターリアさんの右胸にあたっているというより鷲頭紙にしている。

頭から血が引き、下半身に血が集まるのを感じる。

それを振り払うように左側を見ると、円の浴衣に手を掴みこんでいる。

「ごめん」

信治はそう言うと円の浴衣から左腕を出しながら、ナターリアの胸からも手を放そうとする。円さんの浴衣が乱れるのが月夜に照らされて、興奮と混乱に信治の頭が支配される。

「雪手伝って」

「はい。二人で持ち上げましょう

信治は早くに立ち上がった雪と環に抱き起される。

「ありがとう。円さんごめんね」

「だめ、今こっちを見ないで」

「ごめん」

「ううん。浴衣がちょっと乱れただけだから。それに貧相な体でごめんね」

「そんなことないよ」

「そうよ。円。円が貧相なら私はどうなるの」

「でも環お姉ちゃん、雪ちゃんやナターリアちゃんみたいにスタイル良くないし」

浴衣が乱れてまだ着なおせていない円の方を見ながら信治は言う。

「円さんも魅力的だと思うよ」

「きゃ、こっち見ないでください」

「ごめん」

そう言い信治はうつむく。

「男の性なの。仕方ないよ。信治さっきの続きしようか?」

「ダメに決まっているでしょ。ナターリアの色情狂」

「環は固すぎるの」

「ナターリアが緩すぎるのよ」

「誰でもいいわけじゃないの、信治が良いんだよ」

「まぁまぁ、円さんの服装も整ったことですし、花火を見ましょう。もめないように信治さんを中心に背の高い環さんと私が信治さんの左右に立ちますね。その前列に円さんとナターリアさんは立ってください」

「しかたないの」

「はい、雪ちゃん」

パーン

最初の花火が打ちあがる。

「信治さんが怪我しませんように」

花火の音に紛れるように円がつぶやいた。

信治の耳には届かないがナターリアは気づく。

信治への円の想いを知り、ナターリアも花火の音に合わせてつぶやいた。

「信治、好きなの」

空にはいろいろな色の形や色の花火が打ちあがる。

ぱーん

何発も花火が打ち合がある。

信治はそれをとても美しいと感じている。

いつにましてもきれいだ。

ただ子供に戻った様に無邪気に花火を見ている。

突然、花火が止まる。

「最後が奉納花火で大きな花火が打ちあがるんですよ。心で強く念じると願いが叶うと言われています。神様のいる世界で叶うと言われているというのも変な言い方ですけどね」

どん

大きな音がして花火が打ちあがる。

信治は明日の試合に勝てますように祈る。

雪は信治に迷惑をかけないように祈り、環は絶対に明日の試合は右サイドは破らせないと祈り、ナターリアは信治へ想いが届くように祈り、円はずっと信治が怪我しないように祈っている。

「終わりましたね。こんなに楽しい花火大会は久しぶりです」

「そうなの。男の子がいるとだいぶ違うの」

「ナターリアの色情狂」

「明日は勝とうね」

「みんなで力を合わせて勝とう。約束するよ」

月の優しい光に照らされて、勝利への誓い花火大会を終わる信治たち一行だった。


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