第40話 少女たちの前夜祭 夜祭の想い 円編

信治は早足で自分の宿舎に戻っている。

初めてデートをすると言う行為がどれほど緊張して、同時にどきどきするかを知ったからだ。幸せな感じを考えて、その末に約束の時間より早く来る気持ちは分かる。

温泉の時、円さんはデートしたことないと言っていたのを信治は覚えている。

信治が寝泊まりする宿舎の玄関に飾られた提灯にかけられたライトの魔法で、浴衣を着た円の姿がスポットライトを浴びたように浮かび上らせている。信治はその姿を見て胸が少し高鳴る。円は青色に撫子の花をあしらった浴衣を着ている。

信治はとても似合っていると思う。

円さんはうつむいている。

「待たせてごめんね」

信治はうつむいて視界が狭まっている円に話しかける。

円は嬉しそうに微笑みながら返事をする。

「私が勝手待っていただけだから、それより環お姉ちゃんの時間じゃないですか?」

「円さんが待っているからって早く行ってほしいと言われたよ。この借りは後で返してもらうとも言っていたけどね」

「うん。私もお姉ちゃんに宿舎を追い出されてたんです。どの浴衣を着ていくのか迷ってるうちに時間だけ過ぎて行ってしまって」

「デートの時に来ていく服装は悩むよね」

「そんなに軽くないです。浴衣の柄になっている花言葉とか考えたら重すぎないかなとか逆にしらけさせたりしないかなとかとても真剣に考えたんですから。花束を贈ったり、花柄を身に着ける時には花言葉の持つ意味は大きいんですよ・・・ごめんなさい。重かったですね」

「ううん。そこまで悩んでくれてありがとう。その気持ちとてもうれしいよ」

後で花言葉調べておこうと思う信治だった。

「信治さん言葉が軽いですよ。でもお礼に私に何か思い出深い初デートをプレゼントしてくれたら許してあげます」

「円さんの初デートの権利をもらえる事をうれしく思う。エスコート頑張るよ。その、あの浴衣とても似合っているよ。これは本心だよ」

「この青い色になどしこの花柄はとても好きで初デートの時に着たいと思っていたんです」

とてもうれしそうに円さんは微笑む。

それはライトの魔法に照らされて、信治はとても美しい思う。

信治は円の微笑みを見ているととても幸せな気持ちになる自分を再発見する。

「そろそろお祭り見に行こうか?」

「ふふっ。ダメです。もっと格好よく魔法をかけるようにしてエスコートしてください。わがまま言っちゃいました」

信治はその冗談に乗ることにした。

異世界で中世くらいの世界だし良いよねと信治は思う。

信治は円の前に立つと最敬礼をして、右手を出した。

「円お嬢様、今宵は私とお付き合い願えませんでしょうか?よろしければお手を取ってください」

「ふふ。喜んで」

そう言って円は差し出された信治の左手を右手でしっかり握った。

ちなみに信治は気持ち手が緊張で少し震えていて、円の手も震えていた。

「ふふっ」

「あははは」

お互いの緊張を知った二人は、同時に笑い始めるのだった。

笑いの衝動が収まった後、円に信治は言う。

「そろそろ行こう」

「はい♪」

円は信治に釣り合う女の子を演じようとか思っているのだが、すでに信治と同じ時間を過ごせるだけで良いと思っている。

信治も円といると充足感が満ちてい来る。

二人には噴水広場に向かっていく。

「行きたい所あるかな?。特になければ屋台を回ろうと思うけどね」

「実は教会に行きたいと思っています。明日の試合のお祈りをしたいんです」

「じゃぁ教会に行こう」

道中、信治がいろいろな女の子とデートしているので信治に向かっていろいろささやかれる。

信治もげろ、あそこもげろ。

円ちゃんまで手を出しあがって。

男の視線が信治に突き刺さる。

いいなぁ。

うらやましいなぁ。

円さんは見せつけたいタイプだったのかしら?

円さんに対しては女性の声が聞こえる。

どちらにせよ注目されているのだ。

「なんだか注目されて恥ずかしいね。円さんはどうかな?」

「当たり前の事を言っています。恥ずかしいに決まっています」

「それもそうだよね」

信治は自分の恥ずかしさと円さんの気持ちが和らいだら良いなと思って、手をぎゅっと握る。円も握り返した。

そのまま教会に進んでいく。

「・・・」

「・・・」

その間に二人を沈黙が襲う。

でも信治も円もその沈黙は苦では無かった。

手を握っているから。

教会について、礼拝堂に進む。

手を放し、二人は祈りの姿勢を取る。

信治は願う。

明日は勝てますように。そのためならいくらでも走ります。

円は祈る。

信治さんが怪我や悪質なファウルを受けませんように。

そんな二人の願いと祈りを聞き届け祝福を与えるように教会のベルが鳴るのだった。

二人は祈りを終える。

「そろそろ花火の時間です。今度は待ち合わせの場所まで私がエスコートします」

そう良い円は右手を出してきたので、立ち上がり素直に円の手を取る信治だった。

そんな二人を祝福するかのようにベルはなり続ける。

                              続く

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