第34話 重たい扉と会議は踊るよ
信治は円と王子に案内されて村唯一の協会に行く。村の兵士すなわちサッカー選手を受け入れられる大きさを持つ施設はサッカーの女神様を祭った教会しかないからだ。
信治の目にいかにも重たそうな木製の扉が見える。
王子は後ろに下がり、円さんも珍しく嫌そうな顔をしている。
仕方なく信治が開ける事にする。
とても重たい。
「信治君ごめんね、避難所の機能も兼ねているから教会の扉は重たいんだ。普段は開いているんだけどね」
「これは僕が試されているね。意地でも開けるよ」
そう言って信治は両手に力を込めて押し開けようとする。
少しずつ扉は動き始める。
「割と早いぉ?」
「私は開かなかったから」
この手の物を開けるのは腕力じゃない。腰と脚力なんだと思いながら信治は扉を開けていく。
扉は開かれる。
「///やるぉ」
「王子も乙女だね」」
「そんな事無いぉ///」
王子がなぜか照れているのに、少し違和感を感じながら扉を開けるとたいまつやろうそくではなく、明るく天井から優しい光で室内が照らされていた。
信治は少しの間、その光を見ていた。
「早く扉が開けれたな。因みに見上げている光はライトと呼ばれる精霊魔法だ。扉を開ける試練と魔法の実在を目にした時、人は同じ反応をする」
アレックスが扉を開けた信治に語り掛けていた。
気を取り直した信治は協会の中を観察する事ができた。
1m半位の高さを持つサッカーの女神像が一番奥に飾られている、それ以外は石造りの簡素な建物だった。四つの木製の机が四角になるようにあわされている。そこには机と一緒に並べられた木製の椅子に座っている。
空いている椅子は三つ。信治はどこに座るべきか迷う。
「空いている席に座ってくれ。ポジションごとに座るべき位置を決めたりはしていない。ポジションごとの争いごとを起こすし、みんな平等に発言をして欲しいと言う意味もある。後扉を閉めてくれ。一応軍議だからな」
「突然離されて困っただろうけど信治さん行こう。現実を受け入れよう」
円に言われて信治ははっとした。
「それもそうだね」
信治はそう言って一番奥の席に向かう。空いている席の横に雪がいたから安心できると思ったのだ。
アレックスは全員が座ったのを確認すると、立ち上がり話し始める。
「これより、ゴブリン戦の反省と地方騎士団との演習についての話をする。議題はこの二つだ。毎年負けているが今年こそ地方騎士団に一泡吹かせたい。ゴブリン戦に関しては守備に問題は無かったはずだ。クロスをほとんど上げさせなかったからだ。攻撃面でも良かった。これをチーム戦術に高めよう。そして地方騎士団との戦いに備えたい。地方騎士団4-3-3のフォーメーションを取ると思われる。右ウィングのUJIZANEと左サイドバックのエクスが右サイドにいるから左サイドを毎度同じく崩してくるはずだ。左サイドに信治も入ったし、守備と攻撃を重点的に話し合いたい」
「じゃぁナターリアとUJIZANEの必殺技を防ぐ訓練をするの」
ナターリアが元気よくどこかうれしそうに話す。
「それを言ったら、UJIZANEのマークと右サイドバックのエクスの防ぎ方を考えるべきです」
雪さんが右手の眼鏡を治しながら話す。
「それなら信治さんからのロングボールで大きくサイドチェンジをしてお姉ちゃんと右サイドから崩して、UJIZANEにもエクスにもサッカーをさせない様にしようよ」
円さんが元気よく話す。
「それもいいけど、ディフェンス間のサイドへのスライドの調整を念入りに訓練したいわね」
環が冷静に話す。
「どれも個人技だ。全体的な話がしたい。こういう時、都督と軍師がいてくれたらなぁ、苦労も減るのになぁ」
アレックスがぼやいた。
「都督と軍師とはなにかな?アレックス」
「ああ、この世界の専門用語で早い話、監督とコーチ陣の事だ。自警団では雇うだけの余裕がなくてな。結局戦術論までいかなくて個人技でなんとなく守備力があるチームと言う特色があるチームになっている。みんな聞いてくれ。地方騎士団との演習は一か月後だ。明日から演習、早い話強化試合に向けて練習を始める。左サイドの強化を中心に行う。これにて今日の軍議は終了する、信治ついてこい。寝る場所も必要だろう。自警団の寮がある。案内しよう。明日はUJIZANEの必殺技を雪に再現してもらうから、対策を一緒に考えてくれ」
信治は深くうなずいた。
続く
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