第25話 とどめの一撃

タッチライン際をドリブルする信治の右側をシュタールが駆け抜けていく。

信治を追っかけて走る王子の姿もあった。

ゴブリンの右サイドハーフは後ろから追いかける姿になるが、誰を止めに行くかを迷っている。その迷いがポジショニングを狂わせた。

王子とシュタールはプレッシャーを受ける事無く走り続けている。

ゴブリンの右サイドバックは信治を追いかけているが、元から足は速くない。その差は埋まらない。3人はゴール前に近づいている。ゴブリンのボランチが慌てて信治のマークするために走り出した。トップスピードに乗っているので急に信治は止まれない。

それでもゴブリンのボランチが進路上に立つ時には止まる事ができた。

ゴブリンの右サイドバックも右サイドハーフも追いつく。顔を上げて、ゴールに張り付いているゴブリンのボランチの立ち位置を確認してから右前方に開けているコースにパスを出した。シュタールがボールを受ける。さすがに残りのゴブリンのボランチもボールダッシュに行かなければならなかった。シュタールは反転するとフリーになっている王子に向かってパスを出した。

王子はそのまま右足を振り抜く。ボールは簡単にゴールに入った。

「はぁはぁはぁ、使うなといっているだぉ」

地面に倒れこんで大きい声ではなしていた。

王子は全力で走ったのだろう。肩で息をしている。

ゴブリンの主審はどのようにして得点が無かった事にするか迷っている様だった。

オフサイドでは無いのでオフサイドの反則は取れない。

第4の審判である天使がそれを絶対に認めないからだ。

怪我を誰もしていないからキュアカードも使えない。

そして、この場面をしのいでも、簡単にカウンターを食らう事をゴブリンの主審は思い知らされていた。人間達は守備を固めると思っていたからだ。

主導権を握れると思っていたのに、全く主導権を握れない。

ついに第4の審判が黒い板をあげて笛を吹いた。

「ゴブリンの主審。人間側の得点です。ゴブリンボールで試合再開です」

「ぴー。人間側の得点ぎゃ。それぞれポジションに戻るぎゃ。パワープレイはゴールキーパーを除いてやめぎゃ。4-4-2で戦うぎゃ。ラインを高い位置を取って、人間側を追いつけるぎゃ。1分で1点取るぎゃ。後5分あるぎゃ。まだまだ戦えるぎゃ」

ゴブリンの審判は叫んでいる。しかしゴブリンたちはやる気をなくして、とぼとぼと自陣に戻っていた。それを見た信治は、4点目を取られてゴブリン達の心が砕けたのを感じていた。

                                  続く   

                            

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