社会復帰録タマミ 9

25.

2209年9月12日(火) AM10:00


「今までありがとうございました。」

あたしはルカさん達にお礼を述べる。

昨日はあたしの誕生日と送別会を兼ねて盛大にお祝いしてもらった。

ルカさんはこのままここにいてもかまわないよと言ってくれたけれど、あたしはここを出て一人で暮らす決意をした。

とはいっても、これからもジムで会えるし、ルカさん宅にもちょくちょくお邪魔もさせてもらうつもりだ。

あたしがそれでも一人暮らしをするのは一種の決意のようなものだ。

ルカさんからもあたしの部屋はそのままにしておくからいつでも遊びに来てほしいとのことだ。


迎えのコミューターが来たのであたしはそれに乗り込む。

ルカさんをはじめ、みんなが手を振ってあたしを見送ってくれている。

あたしもコミューターの外からは車の中の様子が見えないにもかかわらず、見えなくなるまで手を振り続けた。


26.

2209年9月12日(火) AM10:15


「行ってしまったな…」

タマミさんを見送り俺は少し寂しく感じていた。

実の所、去年、管理者から依頼を受けた時は、タマミさんがこの時代に馴染めるかどうかは半信半疑だったが、今の彼女ならしっかりやっていけるだろう。

「子を送り出す親の気持ちってこんな感じなのかな…」

俺は自身の過去を振り返って郷愁にふけっていた。

「ルカ、話がある。」

「どうしたの、ミカ。」

「あなたとの子供が欲しい。」

「子供なら既に2回作ったじゃないか、ミカ相手なら何回でもかまわないけれどさ。」

結婚があたりまえじゃないこの時代、大抵の子供は3か月ほどで母体より取り出し、人工子宮に移される、そしてそのまま国が運営する育児施設で育てられる。

片親でもかなり少ない、両親で育てられる子供というのは本当にごく僅かだ。

それでも子供を作るというだけで、この時代の日本では多大な貢献をしたことになる。

「そうじゃない、次の子は施設に送らずにあたしが育てる。ルカ、あなたも手伝って」

相変わらずの無表情だが今までここまで強い圧を感じた事は無い。

それにこれは事実上のプロポーズだ。

「あのアルバムであなたとあなたの前の妻、そして息子に何が起きたのかはわかっている。」

どうやらミカは俺の息子が当時実用化されたばかりのフルダイブVRに引きこもってしまった事を知っているらしい。

それが原因で妻とは離婚することになった。お互い、自身の子供がああなったことに責任を感じていたのだ。しかしお互いその重荷を一緒に背負って歩く事はできなかった。

「もし、あなたがそれを拒むというのならあなたの遺伝子だけもらえればいい、後は一人で育てる。」

実の所去年、ミカが俺の家に居座った頃から自分の答えは決まっていた。

ただ、タマミさんというイレギュラーが発生したのをいいことに後回しにしていただけだ。

「いや、一緒に育てよう、俺と結婚してくれ。」

「いいよ、結婚する。」


どうやら俺の人生の終わりはまだまだ先のようだ。


26.

2214年6月10日(火) AM9:00


ルカさんの家を出てからあたしはメガロシティ内の高層マンションの一室を自宅として使っていた。

あたしの市民ランクはC級ランク、ルカさんレベルの広大な土地と立派な家を持つにはさすがにAランク以上じゃないと厳しいらしいが、あたしのランクでさえ、こんな広々とした家で悠々自適な生活ができるのは、本当にありがたい。

あたしがルカさんの家を去ったあと、ルカさんとミカさんが結婚することをハナさんからのメッセージで知った。

あたしがあの家を去ってからわずか15分後の出来事だったらしい。

あれからもルカさんの家にはよく遊びに行くが、ルカさんとミカさんの子供、ナツキちゃんは本当にかわいい。最年少だったミクちゃんにとっては初めての妹分ということで、ナツキちゃんにミクねぇと呼ばれてご満悦だ。

さて、今日は何をしようか、自分のスケジュールを確認する。

そういえば夏コミの自分の原稿をそろそろ仕上げないといけないし、ルカさんからはまたエンジンブロックの研磨、ハナさんからもアシスタント作業のお願いが来ている。

窓の外を眺めながら予定を考えてると、愛猫のテンがやってきて足元にすり寄ってきた。

あたしはテンを撫でながらこう思う。

地球は相変わらず人口絶賛減少中で、暗いニュースも少なくない。

それでもこの23世紀の時代で生きるのは悪くない。

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