社会復帰録タマミ 6
12.
2208年11月16日(水) AM9:00
明日からはハナさんといっしょに行動予定だったが、ルカさんより明日はみんなで出かけるから、タマミさんもついてきてほしいとのこと。
いったいなにをするのであろうか?
13.
2208年11月17日(木) AM10:00
その日、ルカさんは珍しく自分で車を運転しようとはせず、コミューターを手配した。
あたしたちがコミューターに乗りついた先は葬儀場であった。
ルカさんから今まで見たこともない真剣な面持ちで今日の事は絶対に忘れないでほしいと言われた。
葬儀場に入ると見た感じそこまで暗い雰囲気ではない。どちらかといえば明るめの雰囲気だ。冷凍睡眠前、曽祖父が90で大往生した時の雰囲気によく似ている。
会場に入ると喪主、というよりこれから亡くなる本人が会場内に立っていた。
知人、友人と思わしき人がその周りを取り囲んで各々に別れの言葉を伝えている。
「今日、あの人は自死をする。不老不死だからといって永遠に生きる事はない、いつかは自分で終わる時を決めないといけないんだ。」
故人(予定)の年齢は御年140歳、ひと昔前なら超が付くほどの大往生だ。
人によっては故人(予定)にやっぱり逝かないでくれと懇願する人もいる。
しかし故人(予定)は優しい笑みを浮かべながらもうきめたことだからと相手を諭している。
時間がやってきた。
故人(予定)は部屋の中心に置いてあるポッドに寝そべる。
堪えきれずに泣き始める人たちも少なくない。
故人(予定)は穏やかな様子でそれを諭す。
職員のB級アンドロイドが時間であることを告げ、ポッドのキャノピーが閉じる。
体とデータセンターの常時バックアップ機能を停止。
頭の上にあたしが人格移植をした時と同じであろうバイザーが顔を隠す。
そのまま30秒ほど経過したであろうか?バイザーが再度収納された時には故人(予定)は故人となった。
脳のデータはアーカイブとして中央のデータセンターに保管され、これらの膨大なアーカイブはA級アンドロイドを作るための資源として活用されるらしい。
当然このアーカイブから本人を復活させることも可能だが、実際にそれがなされたことは一度もないらしい。
ルカさんは俯いてずっと黙っている。
それから、あたしたちは無言で葬儀場を後にし、近くのレストランで食事をとった。
誰も必要なことを除いて一言もしゃべらない。
いつもは元気なミクちゃんですら今日は何もしゃべっていない。
「遅かれ早かれ自分自身でその終わりを決めないといけない。それでも俺のエゴだけどみんなには少しでも長生きしてほしいといつも願っている。」
帰りのコミューターの中でルカさんは静かにこうつぶやいた。
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