社会復帰録タマミ 5

7.

2208年10月16日(日) AM11:00


ルカさんと一緒に仕事をする最終日。

インプラントのシミュレーション機能を使ってあたしが研磨したエンジンブロックの調子をルカさんが確認している。

最初の一個はバリ取りが不十分でいろんなところがキズまみれに、次の一個は削りすぎ、燃料やオイルが漏れているらしく失敗だった。

今回のエンジンブロックはあたしとしてはいい出来だと思う。

ルカさんは時間を100倍速にして、様子を見続けている。

シミュレーションが終わってルカさんはなんか複雑そうな顔をしている。

「あの、やっぱりだめだったんですか?」

「いや、その逆だよ。俺が今まで研磨したエンジンブロックよりタマミさんが研磨したエンジンブロックの方が調子がいい。」

どうやら合格のようだ。ルカさんはあたしが研磨したエンジンブロックをスキャンしている。

このエンジンブロックをもとに新しいエンジンを組んでいくとのこと。

「ところで一か月、一緒に仕事してみてどうだった?」

「あたしは結構楽しかったです。あたしは何かをコツコツやる事が結構好きなんじゃないかと思います。」

「多分それが一番の長生きの秘訣なんだと俺は思っている。明日からはミカが担当だけど、タマミさんなら次も楽しめると思うよ。」

本当にあっという間の一か月だった。冷凍睡眠前のあたしなら、この仕事は投げだしていたように思える。

健全な魂は健全に宿る(ルカさん曰くこの言葉、ラテン語の誤訳らしい)ではないが健全な生き方が健全な魂を作る。あたしはそんな気がした。


8.

2208年10月17日(火) AM9:00


ミカさんはルカさんと一緒に月、水、金の週3回ジムに通っているので、今日が実際のミカさんとのお仕事となる。

ジムのトレーニングは相変わらずきついがジム内でも友人ができたし、これからも継続していこうと思っている。

ミカさんの趣味は絵画だ。まるで写真のようにひたすら緻密に書き込んでいく。

あたしにはこれは真似できない。一日頑張ってみたがどうやらあたしには向いていないらしい。


9.

2208年10月19日(木) AM9:00


ミカさんにあたしにはこの趣味は向いていないことを伝える。

「そう、それじゃあ他の書き方を試してもいいし、絵を描くこと自体が向いていないと思うのなら、ルカの方の手伝いに戻ってもいい。」

そうミカさんは言って、あたしに色々な画材を見せてくれた。

この中からあたしがやってみたい事を好きにやればいいとのこと。

とりあえずあたしは水彩画にチャレンジすることとした。


10.

2208年10月21日(土) AM11:00


自分で決めた課題に沿って鉛筆で下書きをする。

今日のミカさんは絵画ではなくプログラミングをしている。

ルカさんの作っている車向けのプログラムらしい。

あたしの絵は下書きの段階からして不格好だ。

でもミカさんはそれがいいと褒めてくれた。

この時代の人たちは人を貶めるということを本当にしないように感じる。

それともあたしの周囲の人たちがそういう人ばかりなのだろうか?


11.

2208年11月15日(火) AM11:00


今日が実質ミカさんと何かをする最後の日だ。

あれから何枚も描いたがあたしの感覚ではあまり上達したような気はしない。

それをミカさんに打ち明けると、ミカさんは時間だけはいくらでもあるのだから気長にやればいいと言ってくれた。

ルカさんも同じようなことをよく言っていたような気がする。

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