21世紀喪女 8
12.
2208年9月16(金) PM1:30
あたしはルカさんの運転する車に乗ってメガロシティ内にある大型ショッピングモールにやってきた。
さすがにこのような場所ですら人が全くいないというわけはなくそれなりに人通りがある。
とは言ってもショッピングモールの規模を考えたらその10倍はいても本当はおかしくはないだろう。
「さすがにここまで大きいショッピングモールだと人もそれなりにますね。」
「本当にそう思うかい?インプラントのスキャンモードでアンドロイドと、人間をわけてごらん。」
あたしはルカさんの言う通りにインプラントのスキャンモードを通してあたりを見回してみる。
本当の人間は2割程度しかいない。あとはアンドロイドだ。
「アンドロイドといってもA級アンドロイドもそれなりにいるから、それも含めたら多少はましにはなるけどね。」
「A級アンドロイドって何ですか?アンドロイドはアンドロイドじゃないんですか?」
あたしの時代にもアンドロイドは存在したが、確かに人間そっくりではあるがやっぱり作り物感が否めなかった。
「ああ、そうか、タマミさんは第二次日中戦争の頃のアンドロイドしか知らないんだった。あの頃とは違って、本当の人間の脳と変わらない働きをするA級量子計算機を搭載したアンドロイドの事をA級アンドロイドというんだ。タマミさんの知っているアンドロイドは今の時代だとB~D級アンドロイドって呼ばれている。」
「A級とその他のアンドロイドってどう違うんですか?あたしにはいまいちよくわからないんですが…」
「A級アンドロイドは人間と同じように感情がある、いい出来事があれば喜ぶし、難しい問題に直面したら悩んだりね、僕としては一番の違いは新しいものを創り上げる力があるってことだと思う。僕の家族にも、二人A級アンドロイドがいるけど、うち一人は趣味で漫画を描いているよ。」
「信じられない話だけど、このメガロシティで結婚している人はほとんどいないんだ。関係は色々だけど、使用人として、兄弟として、父母として、恋人として、色んな理由でA級アンドロイドは求められ、そしてそれを必要とする人たちに与えられている。当然審査は必要だけどね。」
「あとは単純に都市機能を維持するためにだね。変な話だけど健全な消費活動を行うために足りない穴をアンドロイドが担っているんだ。」
「なんだか複雑ですね。」
「別に難しく考えることはないよ。A級アンドロイドは人間と同じように接すればいいだけだよ。それとタマミさんは大丈夫だとは思うけれど、A級アンドロイドにはちゃんと人権があるし暴行や虐待をしたら、犯罪として問われるからね。」
「でも、なんでみんな外に出てこないんでしょうか?大抵のサービスはタダだし、街中にはこんなに刺激があふれているというのに…」
「タマミさんはVR使ってみたことある?」
「はい、簡易VRダイブで管理者さんが作ったスタンドアロンでの空間だけですけれど…」
「みんなそこに引きこもっちゃうんだ…全てが現実より簡単に手が入って、現実以上に刺激的だからね。そしてその刺激に慣れすぎてそして最後は飽きちゃうんだ。」
「飽きるって何にですか?」
「生きる事にだよ、信じられないだろうけれど日本の平均寿命は58歳なんだ。今じゃ普通に男女が交わる事で作られる子供だけでは足りなくて、管理者側でVRに引きこもっている連中の卵子と精子を掛け合わせて子供を作る事で、どうにかこの人口を維持しているんだ。管理者の介入がなかったら既に崩壊しているだろうね。」
あたしは管理者があの時に物寂し気な表情をした理由がわかった気がした。
「さて辛気臭い話はこれまでにして、買い物を楽しもう!まずは家具を選ばないとね。」
ルカさんは暗くなった雰囲気を振り払うかのように明るくふるまった。
あたし達はあたしの部屋の家具を買うべく家具屋へ向かった。
「あの~ルカさん、このベッドちょっと立派すぎませんか?」
「寝具はいいの選ばないとダメだよ、それに大きいっていってもセミダブルだよこれ?」
「こんなの大きいの部屋に入りきりませんよ…」
「タマミさんの部屋は僕が準備したんだから、僕に任せておけば大丈夫ですよ。」
結局家具はルカさんに押し切られる形で大きいサイズの家具を買うことになってしまった。
「配達先にはエアーシップで特急便でお願いできますか?あと家具設置スタッフの派遣もよろしくお願いします。ええ…そうです。必要なリソースポイントは僕の口座から引き落としてください。」
「ルカさん!あたしは数日ぐらいなら寝袋とかでも大丈夫ですから…」
「客人にそんな真似させられないですよ、それに本当に特急便とかで支払うリソースポイントなんて大したことないですから気にしないでください。」
こんな立派な家具の山、普通ならこれだけでとんでもない額が必要のはずだ。
しかしこれでも家具本体そのものは無料らしい・・・
「さて家具の方はこれで片付きましたし、次は服を選びに行きましょう!」
そうだ服だ!あたしは未だにコートの下に着ている際どい水着みたいな服に抵抗があった。
「あの~ルカさん、できれば今風の服というより、レトロな、私の冷凍睡眠に入る前の時代ぐらいの服だと嬉しいんですけれど…」
ルカさんの顔がすごく残念そうだ!目がなんで体をみせつけようとしないの?って訴えかけてきている。
しかし私もここで引き下がるわけにはいかない、ここで引き下がったら最後、私の服は全て際どい服で埋め尽くされてしまう。
「あの…まだどうしても今の時代のセンスになれないというか…その…本当にお願いします。」
これで承諾してくれなかったら本当に終わりだ。あたしは恥ずかしくて部屋に引きこもる事しかできなくなってしまう。
「確かに僕が今の時代の感覚に慣れすぎていたかもしれませんね。もうちょっと行ったところに21世紀スタイルの服を扱っている店があるのでそこで買いましょう。」
「ええ行きましょう!ぜひ行きましょう!」
21世紀スタイル!どうやら神は私を見捨ててはいなかったらしい。
しばらく歩いたところにルカさんのいう21世紀スタイルのお店があった。あるにはあったのだが…
あたしは大きな問題を見落としていた。あたしは自分でまともな服を買ったことがないのだ!
中学生までは親が選んでいたし、家をでて引きこもってからはずっとTシャツとパンツだ。
まともに買った服といえば冷凍睡眠センターに行くために買ったあのサイズの合っていないブラウスと、ズボンだけだ。
「あの~すみません、この娘にあう服を何セットか適当に見繕ってもらえませんか?」
ルカさんが察したのか助け船を出してくれた。
そうすると店番をしていたA級アンドロイドさんが気を利かせて何着か見繕ってくれた。
やたらニット地や、体形が際立つぴっちりしたシャツとかを選ぶ傾向があるような気がしないでもないが、それでもあの水着みたいな服に比べたら100倍マシだ。
お店では下着も取り扱っていてくれたおかげで、下着もコーディネートしてくれた。
これで少なくとも私基準でも服といえる服が手に入ってようやく一安心だ。
「あとは部屋着ですね。」
ルカさんは未だに元気そうだ、一方私はもうヘトヘトでルカさんに黙ってついていくことしかできない。
着いた部屋着コーナーは思った以上に普通であった。
ルカさん曰く部屋ではTシャツとパンツ一丁がこの時代のスタンダードスタイルらしい。
なんということだ、ここにきてやっと時代が私に追いついてきてくれた!
23世紀では冷凍睡眠前と同様に家の中ではTシャツとパンツだけでうろついても誰にも咎められないのだ!
部屋着コーナーに着いた時、私はようやく安住の地が見つかったような気がした。
21世紀と大して変わらないダボシャツに無地のパンティ達!ああ…君たちが23世紀でも生き残っていてくれて本当に良かった…
しかし気になる事が一つだけある。やたらトランクスの種類が多いのだ。その上なんというか女性的なデザインの物も結構ある。それとやたら股の中心がゆるめというか、妙にもっこりしたパンティも気になる。
私がそのよくわからないもっこりパンティを手に取って弄っていると、ルカさんが教えてくれた。
「それは両方つけている人向けですよ。」
つまりは両方持っている人の御立派を収納するスペースらしい…
私には用のないものなので、そのもっこりパンティを棚に戻し、普通のパンティとTシャツを適当に選んだ。
時間は既に夕方の五時を回っていた。
ルカさんから家具の方は既に家に届いて、同居人の指示で既に設置済みらしい。
夕食は家族への紹介も兼ねて家でたべたいとのルカさんの希望もあり、あたしは再度ルカさんの運転する車に乗り、これからしばらくお世話になるルカさんのお宅へ向かった。
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