21世紀喪女 7

11.

2208年9月16(金) AM11:00


あたしがメカに案内されてロビーに到着すると、管理者と、生活支援ボランティアの女の人が会話をしていた。

「ああ、ちょうど来られましたね。この方がお話ししたタマミ様です。」

「どうも、初めまして、ルカと申します。」

ルカと名乗るボーイッシュな感じの女性は気さくな感じであたしに握手を求めてきた。

「初めまして、タマミです。」

あたしも握手に応じつつ、ルカさんを観察する。

身長はあたしよりちょっと高いぐらい、ショートヘアーの黒髪に日に焼けた健康そうな肌、胸は絶壁だが細く引き締まったウェストに小さめのお尻とスタイル抜群だ。

服は材質がよくわからない、なんかテカっているぴっちりとした全身タイツみたいなのを身にまとい、その上からかなり攻めた角度のショーパンとショート丈のジャケットを羽織っている。

露出こそ少ないが、ボディラインを強調したかなり攻めたファッションだ。

これが今風のファッションであれば、どうやらあたしの格好もおかしいわけじゃないらしい。

「それでは、タマミ様をよろしくお願いします。」

「わかりました、お預かりします。それでは行きましょう。」

ルカさんの後について表に出ると、道路にクラシックカーが一台停まっていた。

1980年代の歴史映像、あのレースクイーンの後ろに映っていた車に似ているような気がする。

ルカさんが運転席に座り、あたしに助手席へ座るよう促す。

あたしが助手席に座ると、シートベルトを着用するように促されたのでそれに従う。

ルカさんは左手でよくわからないスティックを動かして、私の知っている車の運転の仕方とは違う操作で車を発進させる。

乗り心地は私が知っている冷凍睡眠前の車と比べてもあまりよくないし、音もうるさい。

「あの…これからどこへ行くんですか?」

「ん~まずはお昼かな、それからショッピングモールに行って家財道具一式と、服を買いに行こうかなと思っている。」

あたしは車窓から23世紀の街並みを眺める。メガロシティというだけあって、あたしの時代の東京とは比べ物にならない高密度都市だ。

道路は上下左右、至る方向に張り巡らされ、建物は遥か上まで伸びている。

インプラントにアクセスするとロードインフォメーションという項目があったのでオンにすると、目の前に様々な標識が表示される。

さっきからルカさんはナビもないのにどうしてこんな入り組んだ場所を走れるのか不思議だったけど、どうやらこれを使っていたらしい。

車はどうやらメガロシティの外へ向かって走っているようだ。

「ところでさっきから気になる事はない?」

ルカさんが私に問いかけてくる。

「え~と、ごめんなさい。全然わからないです…」

本当によくわからないので、そう答える。

「人がいないでしょ?」

言われて初めて気が付いた。歩いている人はおろか、車すらほとんどすれ違った記憶がない。

「家から出なくても大体の欲求は満たせちゃうからさ、ほとんどの人は家から出てこないんだ。」

「そう言われると寂しい街ですね…」

車はメガロシティの外へ抜ける。メガロシティを取り囲むように工場群が立ち並んでいる、しばらく走るとそれも見えなくなり、今度は田園地帯と思わしき風景が広がるようになる。

こんな所に本当に食べる所なんてあるのかと思い、ルカさんに問い質そうとしたところで車は高速道路を降りる。どうやら本当にここで間違いないようだ。

片道一車線、23世紀ではなく20世紀にタイムスリップしたのではないのかと思うような道を走る。車窓から畑を見ると、ドロイド達が作物の収穫作業を行っている。

しばらく走ると、ポツンと一軒、20世紀からタイムスリップしてきたとしか思えない店が一軒建っていた。どうやらここが目的地らしい。

駐車場に車を停めて、店に入る。暖簾にラーメンますだと書かれている。

店内に入ると20世紀テイスト満点の空間が広がっていた。

「おう大将、今日はいつものメイド姉妹や銀髪のお嬢ちゃんと一緒じゃないのかい?」

「ああ、今日は新しい知り合いにこの店を教えたくてね。」

どうやら店主とルカさんは知り合いのようだ。あたしは席についてあたりを見回していたが、ふと店主の格好に違和感を感じた。

「注文は何にする?いつものチャーシュー麺大盛かい?」

「いや、今日はこの後行くところがあるから軽めに並でお願いするよ。」

「あいよ、そこの嬢ちゃんは?」

「あ…えっと…あたしも並でお願いします。」

「ホイ、並二丁ね。」

ルカさんがインプラント越しに話しかけてきた。

『あの店主、珍しいでしょ、今でも自分の体のクローン体を使い続けているんだ。』

言われて初めて気が付く。どうやら整った空間に居すぎたせいで、逆に冷凍睡眠前では普通だったことの方に違和感を感じるようになってきたようだ。

店主は慣れた様子で麺をゆで始め、どんぶりにタレを入れる。さらに煮汁を加えスープが出来上がり、その中に茹で上がった麺、チャーシュー、メンマ、ネギと見慣れた食材が盛り付けられていく。

「ホイ、並二丁お待ち!」

どんぶりを店主から受け取り、割りばしを割って麺をすする。すごくおいしい。今まで食べたラーメンの中でも一番おいしいかもしれない。

ルカさんがわざわざあたしを連れてくるだけあって相当の有名店みたいだ。

「そういやおやっさん、こっちの店の客の入りはどうよ?」

「あいかわらず大将とその知り合いしか来てくれないねぇ…」

「まったく、一度でもこっちで食べたらフードプリンターで作った方のラーメンなんて食えたもんじゃなくなるのにさ。」

こんなにおいしい店なのに客はほとんどこないらしい。しかしさっきからルカさんの喋り方が女らしくない、まるで男みたいな喋り方だ。

フードプリンタという存在も気になる。

先にルカさんが食べ終わり、それに続いてあたしも食べ終える。

「おやっさん、ごちそうさん。今日もうまかったよ。」

「ああ、また来るときは連絡してくれよな。」

ルカさんは店主と挨拶をかわしそのまま店を出ようとする。

「あの、ルカさんお代は払わなくていいのですか?」

あたしは慌ててルカさんを呼び止める。

ルカさんも店主もきょとんとした顔をしている。

「俺が趣味でやっている店だ、リソースポイントなんて取らないよ。嬢ちゃんまるで20世紀からタイムスリップしてきたみたいだな。」

ルカさんも悪そうな顔をしてそれに応じる。

「おやっさん、半分正解だよ。この娘、第二次日中戦争の頃から今までずっと冷凍睡眠してたんだよ。」

「50年寝ていた奴ですらネタにされたっていうのに、それを超えて100年以上寝ていた奴がいたって事かい!?」

本当は500年間寝るつもりでしたなんて恥ずかしくて言えるわけがない、あの男の50年間の冷凍睡眠期間、あれですら常識外れの長さだったらしい。

「あの…第二次日中戦争の時ってみんな何年ぐらい冷凍睡眠していたんですか?」

「大体3年から5年ってところじゃなかったかな?そうだよな大将?」

「そうだね、そんなもんだったと思うよ。」

「そういや大将はあの時冷凍睡眠したのかい?」

「あの時は息子がちょうど小学校入ったばかりでね、子供の事考えると逆に冷凍睡眠なんてできなかったよ。」

店主とルカさんが思い出話に花を咲かせている。

ちょっと待って、息子?小学生?私が冷凍睡眠した頃から既にルカさんと店主は生きていたことになる。

店を出て車に戻った所でルカさんにさっきからの疑問を投げかけてみる。

「あの…ルカさん、フードプリンタってなんですか?」

「自動で料理が作られるナノマテリアルプリンタの料理版みたいなものだよ、ラーメンますだはフードプリンターで製造された数で競われる年間ラーメンランキング10常連の名店なんだ。」

どうやらあたしがあの部屋で食べた料理はすべてフードプリンター製だったらしい。どうりで妙に出てくるのが早かったり、秋刀魚に骨がなかったりするわけだ。

「それとルカさんって何歳なんですか?それとさっきから喋り方が男っぽいというかなんというか…」

「インプラントのスキャンモードを使ってみな。そうすれば全部わかるから。」

ルカさんは一瞬きょとんとした顔になってから、またあの時の悪そうな顔になってそう答えた。

あたしはルカさんの言う通りにインプラントからスキャンモードを選択し、ルカさんをスキャンする。

『name ルカ age 222 body SYOアドバンスドテクノロジー製カスタムボディ』

SYOアドバンスドテクノロジーって確か男の娘、少年型専門のボディーメーカー…しかも222歳ってことは…

あたしは混乱しながらもインプラントを使い年齢から生年月日を逆算する。

「1985年生まれ…しかも女性でなく男性…」

「ぼく男の娘だよ?それでもいいの?」

「ええ~~!?」

23世紀のこの世界はあたしが思っている以上にどうやらとんでもない世界らしい…

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