21世紀喪女 2
4.
2208年9月13日(火) AM11:00
夏コミも無事に終わり、いつもの日常が戻ってきた。
いや、少し変わったこともある。
ミカさんがコミケ終了後もなぜかそのまま家に居ついてしまった。
四国の時もずっとふしどを共にした仲だし、別に問題はないのだが…
強いて言うなら僕っ娘スタイルが作ったものだというのがばれたくらいだ。
本人曰く、四国の頃からお見通しだったらしい。
どっちにしろミカさんと一緒に暮らすのは全然苦ではないので、ここは新しい家族が増えたことを歓迎するところなのだろう。
それとさすがに部屋が足りなくなってきたので家を増築した。
母屋の裏口を通路に改装し、その奥に別館を建てた形だ。空き部屋が何個かできてしまったが、そのうち何かに使うだろう。
そろそろ昼食でも作ろうかと、車いじりを切り上げ、汚れた手を洗っていると、管理者からのコールが届いた。
『ルカ様、お久しぶりです。あの後もお元気そうで何よりです。』
『正直四国のあの一件は堪えましたけどね…そういえばあの時離脱したエーリカや他のスタッフはどうなりました?』
『皆様全員、現在は無事社会復帰されております。私達としても前回のスタッフの様にならずにほっとしております。』
『それで管理者様が何の用もなくコールをするとは思えないのですが?』
『はい、今回はルカ様に一つお願いがございまして、ご連絡させていただきました。ルカ様は長期休眠防止法案はご存じでしょうか?』
『あいにく一度も冷凍睡眠したことがないし、知り合いにもいないもので…正直な所、小耳にはさんだ程度の知識しかないです。』
『ここ数十年、生き続けることも自死も決断できない方々が、500年、1000年といった超長期間の冷凍睡眠を選択されるというケースが常態化しておりまして、我々も増加の一方をたどる冷凍睡眠者を維持するリソースを削減するために、保存する部位を脳のみとするといった対策を、都度行ってまいりました。
しかしそれでもなお、冷凍睡眠者の維持に使われるリソース量は減ることなく、増加の一方をたどり、都市を運営するに必要なリソースに影響を及ぼしかねない状況になったことにより、これらの問題を解決するために施行された法がこの長期休眠防止法となります。
この法により冷凍睡眠期間の上限は50年、再度冷凍睡眠を行うには1年の待機期間を置かなければならなくなりました。
この法に伴い、現在冷凍睡眠を行っている方々には、50年を経過次第、順次再生を行うことになっているのですが、既に1件、当時設定された冷凍睡眠期間が500年、現時点で100年以上経過している冷凍睡眠者がいるのです。』
『それって第二次日中戦争の最中の人間じゃないんですか?確かにあの頃冷凍睡眠が流行りましたけれど、それでも長くて50年、普通は5年かそこらで起きてきてましたよ。』
50年も寝ていた男がニュースのインタビューかなにかに出ていた記憶がある。あの時はさすがに50年は寝すぎましたって半ば笑い話になっていたが、それを超える存在がいたとは驚きだ。
『我々もこの件をヒューマンエラーを含めた手違いの可能性があると判断し、当時の記録等を調査しましたが、やはり何らかの手違いによるものではありませんでした。しかし、どちらにしろ本法案に基づきこの方には起きていただかなければなりません。』
『それで俺に何をしてほしいのですか?』
『その方の社会復帰に協力していただきたいのです。日中戦争から100年以上経過し、この国もいろいろ変わりました。あの時代を知っていて、なおかつ今の世の中にも馴染んでいらっしゃるルカ様以外に今回の仕事は頼めないのです。』
『政情不安定な時代であった事を考慮したとしても、それでも500年も冷凍睡眠するなんて、半ば自死目的で起きる気なんてさらさらなかったようにも思えますけどね。』
『当時の記録から察するに、私達も同意見です。ただ以前にも申し上げました通り、我々の存在意義は人類が幸福である事です。彼女がどうしてこのような事を行ったかについては既に我々の方で結論がでており、対処済みです。ルカ様には彼女の社会復帰に専念していただくだけで十分です。』
『そこまで言われるならやるけどね…どうせ暇だしさ。』
『そう言ってくださると予想しておりました。それではこの日時に冷凍睡眠者再生センターにお越しください。』
そう言って管理者は日時と対象のデータを俺のインプラントに送信した。
三日後の16日ね…冷凍睡眠時の年齢が18歳、お姿はと…ああ、うん、当時の人格移植はクローン培養した本人の体でのみ、今みたいに性別も姿も自由自在じゃないから気持ちはわかる。
「ルカ、何しているの?お昼ご飯作ったからダイニングに来て。」
管理者と長話をしているうちにミカに昼食を作らせてしまったようだ。
どっちにしろこの件はみんなにも話さなければならない。
5.
2208年9月13日(火) PM1:00
「・・・というわけなんだ。」
「つまりほぼ第2世代の人間が今日までずっと冷凍保存されていた?」
「確かにあの頃を知っていて、存命されている方は決して多くはないですけど…それでもなぜマスターに?」
「良くも悪くも四国のあの一件で管理者様に気に入られたようでね。それに個人的にもおもしろそうだからってのもある。」
ミカは少し不満気だ。
俺も最初はミカはポーカーフェイスのクール系美少女だと思っていたが、ただ表情がわかりにくいだけで、実は感情が豊かな方だ。
インプラントの相性診断もお墨付き、彼女が何を目的に俺の家に居座っているのかも、ほぼ察しはついているのだが…
この件に関しては早めに結論を出さなければならないだろう。
「とりあえず16日の昼前に冷凍睡眠者再生センターに彼女を迎えに行くから、それまでに空き部屋を一つ使えるようにしておかないとね。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます