2208年京都の旅 2

3.

2208年5月7日(金) AM7:30


朝、いつもの起床時刻となり俺は目を覚ましベッドから身を起こした。

両脇ではハナとミクがまだ眠っている。

いつもなら俺より先に起きているのだがよほど疲れていたのだろう。

俺は二人の肩を軽くゆすって起こしてやると、ミクはいつもの調子で大きなあくびをしながら、ハナはちょっとだけばつが悪そうな顔をして目を覚ました。

顔を洗い、歯を磨いたのちに寝間着として着ていたルームウェアを脱ぎ捨て、昨日特急注文でオーダーした服に袖を通す。

こうして普段の格好に戻るだけで、昨日までの嫌な出来事は全て遠い過去の出来事に思えてくる。

ハナとミクも俺が注文した服装に着替えている。

持ってきた荷物は銃器類だけ宅配便で家に送り、あとは処分だ。

つなぎはともかく、あのレオタードは悪くなかったが、それでも持って帰るより再度オーダーした方が楽だ。

部屋を出てレストランに向かう途中、エレベーター前でミカさんに出会った。

ミカさんも最初に出会った時のそっけないつなぎにジャケットといった出で立ちではなく、白いNラバー製のレオタードに白いNラバー製のケープ、白のNラバーストッキング、白いショートブーツ、白いポシェットと見事に総Nラバーな出で立ちだ。

「ミカさん、おはようございます。」

「おはよう、お互い相性がいいとはおもっていたけれど、服の趣味も同じなのね。でもこれはいい想定外。」

「ミカさんの服装もよく似合っていますよ、あんなつなぎと違ってミカさんの魅力が十全に引き出されていると思います。」

「ありがとう、ところでこれからどうする?やっぱり家にまっすぐ帰る?」

「いえ、これから数日程京都観光をしてから帰ろうと思っています。」

「それも悪くない選択、あとこれ」

ミカさんから俺のインプラントにどこかの住所らしき文字列が送られてくる。

「私の家の住所、あなたならいつでも大歓迎。」

俺もお返しに俺の家の住所を送る。

「こちらの方こそミカさんならいつでも大歓迎です。ぜひ遊びに来てください。」

「そうね、夏コミの時にはお世話になると思う。」

「楽しみに待っています。ところでミカさんはサークル参加されているのですか?」

「一応一次創作で小説を書いている。だから多分配置は一日目。」

「僕はエロ創作なので多分3日目、それとハナはBLなので二日目に配置されると思います。」

「だったら一日目に店番手伝ってくれると助かる。」

「ミカさんのお手伝いなら喜んで。」

エレベーターが到着したので乗り込みレストランへ移動する。

本当に散々な仕事だったが、ミカさんやトオル氏と知り合えたのは本当に良かったと思っている。

俺達は一緒にレストランで朝食を取った後、一緒にチェックアウト、ミカさんは自宅へ、俺達は観光都市京都へ向かうのだった。


4.

2208年5月7日(金) AM11:00


ホテルからコミューターに乗り約一時間、俺達は金閣寺前の大通りに来ていた。

金閣寺はやはりその荘厳な見た目ときらびやかさでいまだに人気の観光スポットの一つだ。

とはいえ、やはり日本人の姿はそんなに多くない、いやはっきり言って少ない。

外国人観光客が9割、日本人が1割といったところだ。

観光案内や、レストラン、喫茶店、コンビニといった施設のスタッフは基本B級C級アンドロイドだ。

海外観光客相手でも大半の施設は無料だ。宿泊施設に関しては、海外観光客向けと日本人向けとで分けられており、海外観光客向けホテルは有料、ドルまたはユーロで決済だ。

とはいえ、宿泊費と交通費さえどうにかなればほとんどのサービスが無料で受けられるとあって、不安定な世界情勢下にあっても日本の観光人気は低くない。

目的は色々、家族みんなでのバカンス、自国とは比べ物にならないテクノロジーの数々を見るため、しかしもっとも多いのは変態達の性的要求の発散だ。

インプラントを使用したVRダイブほどではないにしろ、特殊生体スーツとHMDによるVR風俗サービスはお手頃価格でどんな相手ともセックス体験ができることで大人気だ。

街中を歩くだけでも刺激的な格好をした美男美女を鑑賞できるし、VR風俗でならその街中で見かけた好みの相手に対して自由に楽しめる。

ちなみに管理コンピューターがこのVR風俗を利用して客の遺伝子情報をいただいているとの噂もあるが真偽のほどは定かではない。

実際の所、既に俺達も彼らから熱い欲望の目を向けられているのだが決して悪い気分ではない。

そんな中一人の観光客が声をかけてきた。

『そこの美しいお嬢さん方、よかったら僕と一緒に熱い夜を過ごさないかい?』

外国語はインプラント経由で比較的本人に近い声に合成された音声で自動翻訳される。

ちなみに、元言語はドイツ語だ。

「残念だけど、法律で外国人との性交は禁じられているんだ。入国時にも説明あったでしょ?」

観光客の方も通信端末とリンクしたイヤホンで俺の声が自動翻訳される。

『わかっているさ。でもボディのデータをもらうくらいはいいだろ?』

「それくらいなら構わないよ、でもいいの?僕男の娘だよ?」

一瞬びっくりした表情をした後、彼はとてもいい笑顔でサムズアップした。

『むしろ我々にとってはご褒美です。』

なるほど、彼はなかなかの強者のようだ。

彼の端末に俺の身体データを送ってあげる。これで彼がVR風俗で俺のアバターを生成してお楽しみをした場合、幾分かのリソースポイントが俺に振り込まれる。

実際の所リソースポイントが振り込まれなくても、この自身の体に興味を持たれるだけでも気分がいいので俺は全然構わないのだが…

それに穢されるのは俺自身ではなく、俺の見た目をした何かでありそれは虚像でしかない。誰も傷つかずにみんな幸せになれるのだ。なんてすばらしい世界!

それに実際の所、寺社仏閣を見物しに来たことも目的の一つだが、こうやってちやほやされたかったのも目的の一つだ。

むしろ寺社仏閣見物を目的の一つにしている俺達は少数派だ。大半はただ、ちやほやされたいがためだけにここにきている。

そんななかある少女が俺の横を通り過ぎた。

「ほう、金髪狐耳美幼女ですか…見えるか見えないかのぎりぎりの薄さの小袖に、ミニというレベルを超越している緋袴、そこにあえてふんどしスタイルで見えないながらも妄想が掻き立てられるナイスな組み合わせ…リアル年齢は140歳、つまりは本物のロリババア…これはレベルが高い。」

「マスター…何ぶつぶつ独り言言ってるんですか…」

そんな金髪狐耳のじゃロリババアの周辺を鼻息の荒い男どもがカメラを構えてついてきている。

一生懸命撮ったところで出国の際に全部消去されるというのに健気なものである。

噂では貸与されたカメラや情報端末はいくら壊しても無償で補填されることを利用して、内部のデータチップを抜き取り、それを体内に隠すことで持ち出す猛者もいるらしい。

ミクが俺の服の袖を引っ張ってアピールする。どうやらお腹が空いたらしい。

よくよく考えたらもうお昼の時間だ。

俺達は再度コミューターを呼び、予約していた京懐石料理の店へ向かった。

さて、昼食を取ったら次はどこに行こうか、インプラントで観光マップを開き思案する。

しかし一か月以上もムギとミトに会えていないのも気にかかる。

まったく毎度ながら時間が有り余っているのも考え物だ。

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