2208年京都の旅

2208年京都の旅 1

1.

2208年5月6日(木) PM5:00


俺達は無事、メガロシティ大阪、レッツカールトンホテル大阪に到着した。

今日はここで一泊し、トラックに乗ってメガロシティ東京に帰ってもいいのだが四国で起きた一件の事もあり、とにかく何か気分転換したい気持ちになっていた。

「そうだ、京都へ行こう」

「マスター、急にどうかしました?」

21世紀の初めに大流行したフレーズなのだが23世紀では無事に死語の仲間入りだ。

「いや、このまままっすぐ帰るのも、もったいない気がしてね。せっかくだから京都観光してから帰ろうと思うんだけど、どうかな?」

「私もそれはいい考えだと思います。正直に申しますと、あの四国での出来事は私にもかなり辛い出来事でした。京都で観光をするのはいい気分転換になると私も思います。」

「ミクもさんせい!」


観光都市、日本に点在する古来の歴史的建造物、自然遺産等を保全する目的で作られた都市だ。遺跡の保全をするだけでなくそれらの資産を生かすべく観光都市という形で外国人を含む観光客を呼び込み、外貨の獲得及び、日本国そのものへのイメージアップを目的としている。

現在日本から海外へ旅行することは安全の都合、厳しく制限されているが、逆に海外から日本への旅行はこれらの観光都市群およびメガロシティの一部に限られるが門戸が開かれている。

ただし入国の際にはメタタグの埋め込みと、撮影機材、通信機器の持ち込み制限が行われている。

しかしながら撮影機材と通信機器については日本側で無償で貸し出しを行っており、撮影したデータは国外基準で問題とされる映像を削除した後に国外に持ち出し可能となる。

なぜこのような事を行われるようになったかというと、日本国内と海外において倫理観に大きな乖離が発生しているせいだ。

日本では自身の性別から外見まで自由にいじれてしまう上、全裸で出歩いても何も問題はないが、海外、特に21世紀初頭レベルの倫理観で止まっているEUでは人によっては存在そのものが違法ポルノになってしまうのだ。俺自身の格好もおそらく海外では違法ポルノ扱いだ。

このような余計な軋轢を避けるための折衷案として、このようなルールになったわけだ。


二人の了承も得られたので俺は管理者に連絡し、そのことを報告する。

既にトラックに人が乗る意味はなくなってしまっているため、管理者からも問題なく了承が得られた。


俺はホテルの部屋に入るとインプラントを起動し、よそ行き用として愛用しているNラバーのキャットスーツ、ショーパン、ショート丈のMA-1ジャケット、白いスニーカーを発注する。

ハナやミクの服も併せて発注する。こっちはいつも着せているメイド服ではなく普通のキャットスーツだ。

さすがに何も装飾がないのは寂しいので袖をバフスリープにするようオーダーする。それにコルセットに黒のローファーも注文。

本来なら無料でオーダーできるが、明日の朝までには欲しいのでリソースポイントを使い特急注文にする。

特急注文程度でかかるリソースポイントなんてものは本当に微々たるものだし、それで趣味じゃないつなぎから解放されるのなら安いものだ。

それとハナとミクの衣装をメイド服にしなかったのは、これから行く京都という場所柄の都合だ。

外国人観光客にアンドロイドと感づかれると色々めんどくさいのだ。

あとはさすがに手ぶらだと不便なので俺用にボディバッグ、ハナにはハンドバッグ、ミクにはポシェットを追加注文した。


今日はもうヘトヘトだ。

俺はベッドに倒れこむとそのまま眠りに落ちてしまった。


2.

2208年5月6日(木) PM8:00


空腹と共に俺は目を覚ました。

時間は夜の八時、ホテルのレストランはまだやっている時間だろう。

ベッドから身を起こしリビングに入るとハナがソファーに座り壁面と一体になっているモニターでニュースを見ながらくつろいでいた。

ミクはハナの膝を枕にして眠っている。

「マスターお目覚めですか?先ほど荷物が届きましたよ。」

さすが特急注文、仕事が早い。

「ありがとうハナ、ところでなにかめぼしいニュースでもあったかい?」

ハナがモニターを操作してあるニュースを表示させる。

モニターには拘束されてエアーシップに乗せられる愛沢が映っていた。

「やはり一番は四国の特区指定が外されたことですね。それと私達を襲撃した方々ですが、本日の裁判により、殺人、略奪、その他もろもろの罪状によりG級市民への降格が決定しました。」

「あれだけの事をやらかしたんだ、予想はしていたけどその通りになったか。」


G級市民、市民ランクの中で最も低いランクだ。日本国民は成人した段階で、一律5000貢献ポイントが付与されC級市民として登録される。そこから社会に貢献、または損害を与えることでポイントが付与、または徴収され1000ポイントごとにランクが変化する。

Cランクといっても21世紀初頭の感覚では十分に贅沢な暮らしができるし、VRに引きこもらずに普通に生活するだけで50年もしないうちにSランクに到達する。

俺は当然Sランクだ。

VRに引きこもった場合、VR内で何らかの研究をして成果を出すなりすれば当然貢献ポイントは上昇するが、漫然と生きているだけの場合は数十ポイント上がるか上がらないか程度である。

とはいえVR内限定とはいえCランクでもSランクと変わりがない生活を送れるので、その誘惑に勝てずVRに引きこもる者は後を絶たない。

それにF級市民であっても21世紀初頭水準なら中産階級にちょっと劣る程度の生活水準だ。

しかしG級だけは話が違う。生活水準だけで言えばF級と大して変わりはないが、VRを含めた行動エリアに著しい制限が課される。存在そのものが有害とされるため、隔離エリアで永遠に一人で過ごし続けるのだ。

しかしG級市民落ちなんてものは俺の記憶が正しければこの数十年いなかったはずだ。そういう意味では愛沢は歴史に名を残したといえる。


「それと例の対装甲車両向けの武器ですが、旧世紀に使われたRPG-7を部品ごとに製造したらしいです。」

なるほどよく考えたものだ。確かにRPG-7程度の武器なら詳細な設計図か実物が一本でもあれば、部品単位なら構造も単純なためにコンピューターでも予測はできない。

ただ実際に使ったらどうなるかまでは考えが及ばなかったようだが…


「ところでハナはもう夕飯は食べたのかい?」

「いえ、まだです。」

「それならルームサービスで軽く何か頼もう、ミクを一人置いていくのもかわいそうだしね。」

俺はインプラントでルームサービスを選択しサンドウィッチにスープ、他に何かかつまむものをお任せにして注文した。

ほどなくしてルームサービスが到着する。

サンドウィッチの具は卵と野菜、スープはオニオングラタンスープ、お任せの品はローストビーフだ。

ハナと二人で食べ始めたところで、食べ物の匂いにつられてミクが目を覚ます。

「ルカにぃとハナねぇだけご飯食べていてずるい!ミクも食べる!」

俺は苦笑いして、再度ルームサービスを選択し、なにかボリュームのあるものを頼むと追加オーダーした。

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