マッド四国 怒りのお遍路ロード 11
15.
2208年4月21日(水) AM10:00
管理コンピューターの指示通り支援活動を再開した俺達だったが、MJCの人々の様子は今までのコミュニティの時とは違い、まるで地球外から来た生命体を見るような、何かよそよそしい雰囲気が感じられた。
昨日の夜、TNCとKGKのリーダー両名からメッセージが届いた。どっちも俺達に失望したという内容だ。
俺達は昼は仕事に没頭し、夜は互いに肌を重ねあうことで、できる限りそのことを考えないようにした。
とにかくこの仕事を終わらせてさっさとこの地から去りたい。おそらく他のみんなもそのような気持ちだろう。
16.
2208年4月28日(水) AM10:00
誰にも見送られることなく俺達支援隊の車列はドロイド兵の誘導に従い松島城下町コミュニティを後にし、最後の目的地、香川ミカン連合に向かって出発した。
既に大半の人間が過度のストレスにより隊から離脱、メガロシティから迎えに来たエアーシップに乗って去っていった。去った人にかわり、B級、C級アンドロイドが派遣され任務にあたる。
輸送隊ではエーリカお嬢様が絶えられずに離脱、彼女のトレーラーは代わりに派遣されてきたB級アンドロイドが搭乗している。
『ほとんどみんな帰ってしまいましたね。』
俺はトオル氏とミカさんに話しかけた。
『全員離脱してもおかしくない状況だ、俺は君たちが残ってくれただけでもうれしいよ。』
『いつかこうなることは予測できていた。ただここまで早く事が進むのは予想できなかった。』
『とにかくあと一か所だけです。お互い頑張りましょう。』
通信を切り運転席の背もたれにもたれかかる。
「マスター、大丈夫ですか?無理せずにマスターも離脱した方がよろしいのでは…?」
「辛くないといえばうそになるけどまだ大丈夫だよ。二人の方こそ大丈夫かい?」
「私たちはマスターと別々になる方がもっと辛いです。ですからいっしょにいさせてください。」
「本当に辛いと思ったら言ってくれ、その時は俺も一緒に離脱するよ」
そうさ、これよりも辛い事なんていっぱいあったんだ。ここまできたら最後まで見届けてやるさ。
17.
2208年4月28日(水) PM2:30
俺達は最後の目的地、香川ミカン連合の集落に到着した。
今までと違い門は開け放たれ、人間の歩哨はいない。かわりにドロイド兵たちが周辺の警備にあたっていた。
ドロイド兵の誘導に従い、広場に車両を停める。
そこへ香川ミカン連合のリーダーと思わしき見た目20代後半の青年がこちらへやってきた。
「初めまして、香川ミカン連合のリーダー、川島雄二です。」
「輸送隊のリーダーのルカです。こちらが支援物資の目録になります。」
川島氏は無言でこちらの目録を受け取り目を通す。
「支援に感謝します。ところで、コンピューターに支配されるってどんなお気持ちですか?僕は我慢がならない、屈辱的な気分です。」
俺は何も答えなった。
18.
2208年5月6日(木) AM10:00
最終日、MJCの時と同じく見送りに来るものは誰もいなかった。
ドロイドの誘導に従い香川ミカン連合を後にし、帰路に就く。
順調にいけば夕方には出発前にも止まったメガロシティ大阪のレッツカールトンホテル大阪に着くだろう。
俺は気になっていたことを聞くために管理コンピューターにコールを送った。
『お疲れ様です、コミュニティへの支援物資の配給は無事完了しました。皆様の働きに感謝します。』
管理コンピューターはあの襲撃事件から四国の特区指定はく奪に至るまでの一連の出来事なんてなかったかのように、いつもの調子で話しかけてきた。
『一つ聞きたいことがあるんだ。いいかな?』
『もちろんです。どうぞなんでもお聞きください。』
『なんで前回の輸送隊を見殺しにした?今回の様に動けるなら、彼らを助ける事なんて造作もなかったはずだ。』
『ルカ様は勘違いをされているようですね。私達メインコンピューター群は全知全能の神ではないのです。ほとんどの住民がインプラントを使用され、全ての行動を量子通信により追跡できるメガロシティとは異なり、四国の住民は個人を特定するメタタグのみ、行動の追跡はほとんどできません。あの事故を私たちが予測できなかったのはひとえにデータ不足が原因です。EUのコンピューター群を見ればわかるでしょう?彼らは法によりコンピューターへ入力する情報を絞り、結果、コンピューターはデータ不足により正しい結果を出せず、今も飢饉やテロ、労働問題が多発しています。EUのコンピューター群と私達とは性能面においては差はほとんどありません。EUではこのように人類側の瑕疵にも関わらず、毎年のように政策ミスはコンピューター群の責任とされているのです。我々は人類を幸福にするために作られました。私達にとっては人類を幸福にすることが私達の存在意義なのです。』
確かにEUでは肉体の交換による不老不死の技術は法によって制限されたままの上、未だに資本主義が幅を利かせ、それに対するテロが毎日のように発生している。
アメリカは東西に分かれ、絶賛内戦中だし、アフリカの方は既に文明崩壊している。
比較的安定しているのは日本と台湾、それと東南アジア諸国の一部だけだ。
車列は鳴門大橋の上を進んでいる。
俺は香川のコミュニティリーダーの言葉を思い出していた。
「人間の99%は支配される側なんだ。コンピューターの支配でよりよい生活ができるのなら俺はそっちを選ぶさ…」
俺達を乗せたトラックはメガロシティ大阪を目指し静かに進んでいった。
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