マッド四国 怒りのお遍路ロード 5

6.

2208年4月10日(日) AM9:00


片道4車線の高速道路を俺たちを乗せたコンボイはメガロシティ大阪を目指して時速80kmで巡行していた。

このトラックはボンネットに搭載されたディーゼルエンジンとは別に、コミューターと同様、道路からの無線給電でホイールに組み込まれたモーターを動かして走ることもできる。

俺たちは運転を自動運転に任せ、揺れも少ない快適な車内でティータイムを楽しんでいた。

「ねぇルカにぃ、四国ってどんなところなの?」

「一言でいえば無法地帯かな?昔、全国民を五つあるメガロシティへ移住させる法案が可決されたときに、メガロシティは人間を家畜として飼育するための檻だと反発した人たちの集まりが四国に集結したのが始まりだったんだ。あとは犯罪者やカルト、過激派といった連中もだね。」

「しかしどんな連中であっても日本国民である事には違いないから、コンピューターも武力による強硬策はとれない、だから各コミュニティへの支援物資の供給と見返りに、そこに住まう人々の皮下にメタタグを埋め込むことを認めさせることで、多少とはいえ管理できるようにしてきたんだ。」

「しかしその皮下チップを取り除いた連中が前回の支援隊を襲ったと説明会では言ってたと思うのですが…」

「コミュニティに所属している分には皮下チップを埋め込まれるだけで各種物資や医療の支援等をうけられる等メリットしかないんだけど、そのコミュニティに馴染めない連中にとっては足枷にしかならないからね。そういう連中が香川うどん団のような略奪者集団になるんだ。」

「ただ以前からその手の略奪者集団の問題はあったし、それでも支援隊を襲う、ましてや全滅させるほどの武力をもった連中なんていなかったはずなんだ。」

「つまり今回もすんなりといく可能性は低いということですか?」

「おそらくね…ハナ、ミク、俺は今ペナルティを受けてでもこの仕事は降りるべきじゃないかと考えている。確かにその分報酬も大きいけど、それよりも二人を失う事を考えると怖くてしょうがないんだ。」

「私なら大丈夫です。それにマスターなら成し遂げられると信じていますよ。」

「根拠のない励ましはやめてほしいな。」

「根拠ならありますよ。マスターは確かに多少抜けている所がありますけれど、生きる事への執着心だけは誰にも負けていません。そうでなければ今日まで生きていられないでしょう。」

「ミクもルカにぃならやれると思ってるよ!」

「そうか…だったらやれるだけやってみようかな。」

トラックは支援隊の集合地点であるメガロシティ大阪を目指し走り続ける。


7.

2208年4月10日(日) PM6:00


無事メガロシティ大阪に着いた俺たちは、本日の仮宿となるホテルの前にいた。

レッツカールトンホテル大阪、メガロシティ大阪でも指折りの高級ホテルだ。

いくら衣食住がタダな世の中でもこのような高級サービスを提供するホテルは相応のリソースポイントを支払わないと利用することができない。

ちなみにVRでの利用ならこれもタダである。

特に努力しなくともリアルで生きるより快適に生きられるのだから、VR引きこもりが増えるのも当然の話だ。

案内された部屋はスイートルーム、部屋から見えるメガロシティの夜景が美しい。

しばし夜景を楽しんでいると、インプラントに通知が来た。

『これより懇親会をおこないますので、支援スタッフはレストランに集合してください』

レストランに行くと、医療支援スタッフや設備支援スタッフと思しき人達が既に10人ぐらい集まっていた。

そのうち人間は4人、残りはアンドロイドだ。

こんな高級ホテルにつなぎ姿で入って問題ないか少々不安だったが、みんな似たような格好で安心した。エーリカお嬢様だけは本来ならこれが正しい服装なのだろうが、この集団の中では逆に浮いてしまっている。

ひとまず情報収集のため、見た目20代半ばの女性に話しかけた。

「こんばんは、初めまして、技術支援スタッフの方ですか?」

「ええ、ヒバリと申します。あなたの方は先ほど到着した輸送スタッフの方ですか」

「そうです、ルカと申します、僕は四国への支援活動に参加するのは今回が初めてなので、ベテランの意見をぜひ聞きたいと思いまして…ヒバリさんは今まで何度この活動に参加されたのですか?」

「ごめんなさい、実は私も今回が初めてなんですよ。ベテランのお話を聞きたいのであれば、あそこにいるリーダーのミカさんに聞けばいいと思いますよ。」

どうやら技術支援隊のリーダーは向こうで無言でひたすらカニを剥いては食べを繰り返している、つなぎにジャケットを羽織った見た目15歳くらいの銀髪少女らしい。

ヒバリさんにお礼を言い、俺はカニを無心に剥いている少女に話しかけた。

「こんばんは、初めまして、僕は今回輸送スタッフとして同行させていただくルカと申します。」

「そう、私はミカ。よろしく。」

「ミカさんは四国の支援活動のベテランだと聞いたのですが…」

「暇つぶしに参加し続けていたらこうなっていただけ」

「前回の輸送隊が全滅させられた時は参加していたのですか?」

「前回はタイミングが悪くて参加できていない、でも前回の襲撃がどのように行われたのかは予想はできる。」

「では何が起こったのですか?」

「前回の車両の破壊状態からRPG-7などの対装甲車両向けの兵器が使用されたのがわかる。支援車両は小銃などの攻撃には耐えられるように設計されていたけれど、対装甲車向けの兵器までは考慮されていなかった。」

「まず武器をナノマテリアルプリンターで作る事は一般市民の権限ではできないはずでは?四国に出回っているのは、我々が自衛用に供給しているノステク銃と弾だけのはずです。」

「そう、今まで何度か襲撃を受けたことはあったけど、全て散発的な小銃による銃撃のみだった。

しかし今回、スクラップから解析された内容ではこれらの兵器が使われたことは事実。」

「我々が今気にするべきは、相手がどうしてその武器を持っているかでなく、その相手にどう対処するかということですか?」

「その通り、前回の襲撃を受けて今回の車両は全て、RPG-7に代表されるHEAT弾対策が施されている。パニックを起こして車両から飛び出すといった事をしない限りはまず安全と思っていい。」

「つまりは襲撃を受けたら車外に出て迎撃せずに徹底的に室内に籠るべきだと?」

「そう、今回は有事に備えて空挺ドロイド部隊が待機している。襲撃を受けた場合180秒以内に現場に到達する予定。」

事前説明会で管理コンピューターが言っていたように今回の支援体制はかなり厳重なものらしい。

「ところでミカさん、さっきから僕の下半身をまさぐっているのはなぜでしょうか?」

「これは懇親会、懇親会で互いの中を深め合うのは当然の事。」

周囲を見ると俺たち以外の周りの参加者は既に濃厚な身体接触で仲を深め合っていた。

さっきまでいたマックスやエーリカ、他に何人かのグループは会場からいなくなっている。

こういうのが苦手な人間はとっくに退避済みのようだ。

「華奢な体に似合わない立派なものをつけているのね、それに女性器の方もついている…あなたも入れるのも入れられる好きなタイプ、私と同じ。」

そういって見かけによらず積極的な彼女は俺のつなぎのジッパーを下ろし始めた。


-記憶領域に重大な損傷、回復不能-

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