2208年1月11日(月)祝日 5

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2208年1月11日(月)祝日 PM12:15


着替え終わりジムの2階入り口前、エントランス内のロビーでマッドブルを飲みつつ、ARモニターで小説を読み、ハナとミクの到着を待つ。

小説は今なお世界最長を更新中の冒険者ボーダンシリーズだ。

マッドブルを飲み終えた頃、出入り口のドアが開き、ハナとミクがやってきた。

二人とも朝のヴィクトリアンスタイルのメイド服とは違い、Nラバーで作られたラバーメイド服を着用している。

ハナとミクでデザインは異なりハナのメイド服は、黒いミニタイトスカート、襟付き長袖ブラウスにロングストッキング、白いヘッドドレスとミニエプロンという、いで立ちだ。

ミクの方は、黒いミニフレアスカートにノースリーブのブラウス、白いロングストッキング、ヘッドドレス、ミニエプロンだ。

ちなみにこのラバーメイド服は俺がデザインして作らせたものだ。

正確には好みやイメージをAIに伝えて、そこからAIが作り出したデザインなのだが…

ともかく才能がない自分でもAIの補助さえあればイメージ通りの服が作れる事は本当にありがたいことである。

「お待たせいたしました」

ハナがいつもの礼儀正しい態度で到着したことを報告する。

「OK、それじゃ早速行こうか」

「お腹すいた~、もう我慢できない~」

ミクもいつもの態度で空腹なことをアピールする。

「じゃあここに置いてあるプロテインバーでも貰っていきなよ、ただし食べ過ぎるなよ」

「ん~そうする!」

今の世の中は衣食住はすべて無料だ。陳列されている食べ物を適当に取って持っていてもそれが咎められることは一切ない。

後部座席にミクが、助手席にハナが座る、自分も運転席に座りシートベルトを着ける。

技術の進歩により車の安全性は飛躍的に向上したがそれでもシートベルトの着用は今でも義務付けられている。

最悪全身がミンチになっても死なないとはいえ、わざわざその経験をしたいとは思わない、そうならないためにもシートベルトは必ず着用している。

「それじゃ、出発しますか。」

ジムの駐車場を出て幹線道路に入る。道路を走る車の数は一千万人が住んでいる都市とは思えないほどに空いている。

それもそのはず、住んでいる人口は一千万人以上だがその大半が常時VRに接続して現実世界に帰ってこない引きこもりだからだ。

それらを差し引いても400万人ほどの人間と1000万以上のアンドロイドが活動しているのだが、家から出なくても全ての物がドローンでの空輸や、ナノマテリアルプリンターで制作することで手に入ることもあり、現実世界での外出を娯楽として捉えられる人ぐらいしか外出をしないのだ。

ましてや俺の様にノステクな車を走らせるような人間はさらに珍しい存在だ。

道路には速度制限の標識や行先表示の標識は一切ない。それらはの情報はすべてインプラントを通して、視界に直接投影する形で表示される。

制限速度に至っては道路の通行量、車両の状態、ドライバーのバイタルなどを考慮して、安全速度という形で安全に走れる速度を適時表示してくれる。

ちなみに今の安全速度は時速160kmである。自分のようなノステク車はこれらの表示を無視してさらにスピードを出すこともできるが、万が一それで事故を起こした場合、自身の貢献ランク、支給されるリソースポイントにも影響がでるのでわざわざそんなことはしない。

必要以上に飛ばしたり危険運転のスリルを味わいたいのならVRかサーキットに行けばいいだけの話だ。

ハナが少し不安げに質問をする。

「ところでどちらに向かわれるのですか?」

「そういや話していなかったな、メガロシティを出てすぐの所にラーメンますだが実店舗を建てたって話なんだ。そこへ行こうと思うんだがどうかな?」

ミクがそれを聞き、驚いて聞きなおす。

「ラーメンますだって、あの年間ラーメンランキングトップ10常連のラーメンますだ!?」

「ああ、そのますだだ、とはいえお店情報を見る限りマスター本人が作っているか、アンドロイドが代わりに店頭に立っているかはその日次第、気分次第ってところだからそこは行ってのお楽しみだね。」

「う~それ知っていたら3本もプロテインバー食べなかったのに…」

「注意はしたぞ、ミクがその注意を聞かなかっただけで」

「うう~…」

明らかに落ち込むミク

「ミク、そんなにいっぱい食べたいのなら明日フードプリンターで大盛を作ればいいだけでしょう?」

「ハナねぇはわかってないよ、その場、そのお店で食べるからいいの!ルカにぃ、明日も行こうよ!明日だったらミク、朝ごはんも我慢しておなかいっぱい空かせておくから!」

「ダメ、俺の明日の気分はスパゲッティなのだ、よってその提案は却下します。」

「あ~!それ絶対今思いついただけでしょ!」

そんなやり取りをしている間にメガロシティ東京の出口を抜け片道4車線のメガロシティ名古屋、大阪へ向かう道路に入る。

ナビに従いメガロシティを出てから一番目の出口で降り、片道1車線の道路に入り10分ほど走るとポツンと一件小さなお店が建っていた。

駐車場も併設しているがせいぜい5台程度ってところだ、昼の一時すぎ、まだまだランチタイムのはずだが駐車場には店主の車と思われる1台を除いて何も止まっていない。

少し不安に感じつつも駐車場に車を止め店の中に入る。

「…らっしゃい。お好きな席にどうぞ」

見た感じ齢40程度の店主が不愛想な態度で接客する。

デザインされたボディにはない体のいびつさ、スキャンしなくてもわかる、この店主は今でも自身のオリジナルの姿をそのまま使い続けている。

今の時代、ナチュラリスト以外でオリジナルボディをそのまま使っているなんてツチノコレベルの珍しい存在だ。

「そんなに珍しいものかい?俺にとってはこれがラーメン屋らしいラーメン屋なんだがな。」

俺が懐かしい雰囲気にあてられ、あたりをせわしなく観察している様子から20か30ぐらいの若者と勘違いしたらしく、ラーメン屋のおやじが俺に話しかけてきた。

「いや、どちらかといえば懐かしさの方がね…おっちゃんも第一世代だろ?」

店主もびっくりして聞き返す

「お客さんもひょっとして第一世代かい?確かによくよく考えてみれば、あんなノステクな車に乗るような若造はまずいないな」

「こう見えても自分も昭和老人会の会員だよ。」

「同年代に会えるとはうれしいねぇ、今日は出血大サービスだ、何を食べてもお代はいただかないよ!」

「いや元からただでしょ!」

席に着き俺はチャーシュー麺大盛と餃子、ハナはラーメン、ミクはラーメン(小)を注文した。

「ハナ、よかったら餃子シェアしないか?」

「その提案、よろこんでお受けします、餃子も興味あったのですが私一人では食べきれない気がして注文できなかったのです。」

「お客さんも珍しいね、今の御時世いくら食べ残したって誰も咎めないってのにさ。」

「わかっちゃいるけど子供の頃に教え込まれた食べ物をを残しちゃいけませんってやつ、それが200年たっても抜けなくてさ。」

「ああ、わかるよ。俺も似たようなもんだ、ホイ、チャーシュー麺大盛にラーメン並、ラーメン(小)お待ち!餃子もすぐあがるよ!」

スープを一口すすり、そしてラーメンの麺をすする。

ああこれだ、フードプリンタとは違う人間の手で作られた料理だ、オリジナルも化学調味料をガンガン使っているし、成分的には全く同じなのに、手作りとプリンター製ではなぜこうも差が出るのか…

「これは…おいしいですね…」

ハナも驚いた感じで感想を漏らす。

「うう~…おいしいのに…もっと食べたいのに…」

ミクはもっといっぱい食べたいのに食べられなくて悔しそうだ。

3人は終始無言でラーメンをすすり、後から出てきた餃子をかじる。

汁の最後の一滴まで飲み終えた時に、ここ最近感じられなかった不思議な満足感を久々に感じていた。

「ごちそうさま、また来るよ。」

「ああ、こちらこそありがとな、それとあんたがまたこの店に食べに来るなら連絡してくれよ、その時はアンドロイドじゃなく俺が店に立つからさ。」

おっちゃんから連絡先の交換要請が送られてきたのがARディスプレイに表示される、もちろん承認だ。

店を出ると、ラーメンを食べて火照った体に冬の寒い風が抜けてゆくのを感じた。

そして運転席に座ったものの、血糖値が一時的に上がった影響で眠気が押し寄せてくる。

この状態での運転は危険だと判断し、自動運転のボタンを押して車に搭載されたAIを起動させる。

『どちらに向かわれますか?』

「自宅だ、あまり揺らさないように静かに頼む。」

『承知いたしました、それでは出発いたします。』

「自動運転に運転を任せ、少しまどろみながら、後部座席で舟を漕いでいるミクを見る。

「ミク、まだ起きているか?」

「ん~おきてるよ・・・」

「明日の昼ごはんもここにしようか?」

「ほんと!いくいく、ルカにぃ、明日は朝ごはんいっぱい作らなくていいよ!ミクいっぱいお腹すかしたいから!」

「はいはい…」

車はメガロシティ東京の入り口にちょうど入ったところだ、さて帰ったらどうしようかな?

そのまま昼寝するのもいいし、車いじりも悪くない、夏コミの原稿のネタ出しもいいな、だめだ眠くて頭が回らない。

俺はそのまま深い眠りに落ち、家に到着したとハナに起こされるまで眠り続けたのであった。

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