2208年1月11日(月)祝日 4
4.
トレーニングエリアに入った俺は周囲を見回して、運動している面々を軽く確認する。
ほとんどが見知った顔である中、ベンチプレスのブースに初めて見るダルシャツにビキニパンツのマッチョガイがいることに気が付いた。インプラントのスキャンモードを使用し、本人の公開プロフを参照する。
このスキャンモードは使用しているボディのメーカー、製品名にカスタム内容といった外見情報の他、友達、セフレ、恋人といった関係別による、お互いの相性もわかる優れものだ。
マッチョ兄貴のスキャンモードの結果は、ボディはボディビルガチ勢向けのブランド、マッスルイノベーション製のヘビー級ボディのカスタム品、そしてマッチョ兄貴と俺との相性は友達としては並、セフレ、恋人としては無しといったところだ。
このジムにはガチ勢向けのジムだと似たような体系の人間しかいないので、それとは違う新しい出会いを求めて来たってところだろう。
まぁそんなところだろうなとスキャンモードを閉じたところでマッチョ兄貴と目が合った。
マッチョ兄貴は俺を見て、とても残念そうな表情をしている。
好みの見た目だったのに、脈無しってわかってしまったからだろう。
話しかける前からお互いの相性がわかるのは便利だし無駄もないが、当然こういうことも起きる。
今日はストイックに運動したい気分なので休憩スペースはスルーしてベンチリフトのブースに入りウェイトをセットする。セット量は80kg、このボディのスペックが対応している限界重量だ。
バーベルを持ち上げ、息を吸いながらゆっくりおろし、息を吐きながらもちあげる。ボディが対応しているというのと、それを楽にこなせるかは別問題だ。体からは汗が吹き出し感覚的にもきつい。
しかしこの限界ギリギリの状況が生きているという実感を感じられてとても気持ちがいいのだ。
いつも通り、無酸素運動のメニューをこなし、有酸素運動前の水分補給をしながら休憩していると、唐突に後ろからハグをされた。
ソーシャル設定でボディタッチOKは知り合いのみにしているので、今ここでハグをしてくる人は知り合いだということだ。
感覚的には身長160cmの自分よりも遥かに大きい180cmぐらい、押し当てられているおっぱいはすごく大きい、この特徴のあるボディはMOGファクトリー製のMOGspecialだ。
ここの常連でかつ、自分の知っている人の中でこのボディを使っている人は一人しかいない。
「ミユキさん、こんにちは」
「こんにちはルカ君、今日もいい体しているわね」
「ミユキさんも変わらずいい体ですね、でもおさわりだけなら全然構わないですけど、ここではそれ以上はダメですからね。」
「もちろんそんなことはわかってるわよ。そんなことより…ねぇ、今日はこの後暇?」
レオタード越しに俺の乳首を撫でながらミユキさんはストレートにお誘いをかけてきた。
しかし残念ながら今日は自分の方がそういう気分ではないのだ。
「ごめんなさい、今日はちょっとそういう気分じゃないんですよ、また今度誘ってください。」
「つれないわねぇ…私の方は今日はルカ君と一緒にいい汗かきたい気分だったのに…しかたないわね、今日の所はVRでルカ君のBOTを使って楽しむことにするわ」
「だったらそのプレイの様子、録画してあとから送ってくださいよ」
「言われなくてもそのつもりよ」
「それじゃ僕はトレッドミルで有酸素運動したらあがりますんで」
「ええ、でも次こそは相手してよね」
この時代、外見では元は男か女かはまったくわからない。公開プロフィールでも遺伝子がXXかXYかを公開している人は自分も含めてほとんどいない。
それに遺伝子がXXかXYかなんて、子供を作る時、お互いの精子と卵子で子供を作れるかどうかの問題でしかない。
それにお互いがXXやXY同士であったとしても、その時は遺伝子バンクを使用して、お互いの遺伝子に近い遺伝子を使用して子供を作ればいいだけの話なのだ。
それにリアルワールドでは相手にしてもらえなくても、VRで相手の姿を模したBOTを使用すれば、性欲は簡単に処理できる。
あのガチムチ兄貴もおそらく今日は俺のBOTを作ってVRで性欲を処理するのだろう。
姿、顔立ちだけでなく性別ですら自在のこの世の中では身体のコンプレックスを持つものは皆無だ。
お互いの好みとタイミングが合えばカジュアルにセックスし、合わなければVRで相手の姿を模したBOTを使って遊ぶなり、他の相手を探すだけだ。
「そうだ、ハナとミクにトレーニングが終わったこと連絡しないとな」
二人にメッセージを送った後、ジムでシャワーを浴び、着替えてジムのロビーで二人が来るのを待つ。
今の時間はちょうど正午、いつもと変わらない、しかし楽しい一日はまだ始まったばかりである。
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