承2
(ここは…どこだ…俺は泣いているのか)
箱を開けて途切れた意識を取り戻す。目の前の固定された視覚で情報を整理する。
(ああ、たしかにこれは嫌な記憶だわな。俺にとってはこれが1番暗い思い出なのか)
二十歳目前だった俺の体は幼い子どもになっていた。辺りはシトシトと雨が降っており一人の大人に手を繋がれ自分には馴染みがない玄関で立ち尽くしていた。
(この時はたしか6歳ぐらいの時か。俺の両親は急にいなくなって、優平叔父さんと一緒に預かってくれる親戚を探してたんだっけ)
私だって弥君の面倒をみてあげたい。だけどうちには子供一人でさえ育てていくだけの余裕が無いんだ。申し訳ないけど他を当たってくれないか
(本心だろうな。今となったら親戚たちの気持ちがわかる、子ども一人を育てる大変さが。断るのは仕方ない)
そんな…
他はもう既に当たっているんです。せめて働けるようになる年齢まで預かれないですか
(それは無理だ。俺は全ての親戚に断られて結局、施設に行ったんだ。まぁそのおかげで凛と薫に出会えたんだけどな。生き返ったら久しぶりにあいつらの顔を見たいな)
本当に申し訳ない。優平君は弥君を引き取ることは出来ないのか?
(幼いころの俺はたらい回しにされていると思ってた。勝手にそう思って2人に出会うまでよく一人でいたなぁ)
私は持病で長くありません。この子が大人になるまで一緒にいることは難しいんです
(そうだったのか。施設に預かられて少ししてから叔父さんが亡くなったのは聞いていたけど持病だったのか)
少しの間沈黙が続く。気がつくと雨足が強くなっていた。
もう夜の21時だ。外は雨も降っているし今日のところは家に帰りなさい
わかりました…
もし頼れるところがありましたら私にご連絡いただけると幸いです
ああ、わかっているよ。そのときは優平君に連絡する。だが、あまり期待しないでくれ
話に折り合いがつき、親戚の家から二人で叔父さんの家に向かった。
降りしきる雨の中、俺は家に着くまで泣き止むことはなかった。そんな俺を叔父さんは何も言わずに優しく手を握ってくれていた。
家に着くと叔父さんはタオルを持ってきて濡れた俺の身体を拭いてくれた。自分も濡れているのに俺の方を優先してくれたのだ。
(当時はわからなかったけど叔父さんすごくいい人だ。病気がなかったら叔父さんと一緒に暮らすのも悪くなかったかもしれない)
よし。じゃあ弥君、私はお風呂の用意をするから弥君はリビングでテレビでも見てゆっくりしてくれな
うん。おじさんありがとう
叔父さんはお風呂場へと行き、俺はリビングでボーッとテレビを眺めていた。
(あれ、待てよ。そういえば初めてマリが出てきたのこの時じゃなかったっけ)
突然、思考にノイズが混じる。感覚がないはずなのに寒気をおぼえ胸がザワつく。
(なんだ。なんで俺こんな嫌な感じがするんだ…)
テレビに向けられている視界の端に幼い少女が映る。
こんばんはわたるくん
子どもの頃の俺の体が強ばる。
きみ、だあれ?
ひどいなぁ。ちょっとまえにあったのに、もうわすれちゃったの?
(ちょっと前に初めて会ってる?初めて会ったのはこの時じゃなかったのか)
どこであったんだっけ?
(あれ、意識が急におもく…)
ほら、わたるくんのおうちで。あ、わたるくんきゅうにたおれちゃったからおぼえてないのね
ぼく、そのときなにしてたんだっけ
わたるくん、そのときおんなのひとのおなかを
(だめだ…もう…いしきを…たもて…ない)
さしたじゃない
俺はマリの言葉を最後まで聞けずに意識を失った。
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