序2

は?俺が自殺した?


突拍子もないことを言われて目が丸くなる。

自分が自殺する理由がわからなかった。順風満帆とまではいかないが普通の生活を送っていたし、なにより自殺する動機が見当たらない。


君は自分がなんで自殺したか疑問に思っているよね。自殺する理由がないって。でもね本当のことなんだ


心を見透かされたかのように俺の考えていることに対して回答された。


君が自殺したときの記憶がないのは絶命する前に僕が無理矢理ここに連れてきたせいだ。その反動で記憶が抜け落ちてしまっている。だから自殺した理由も思い出せないんだ


滞っていた思考が流れ始める。記憶がなくなっているのも納得した。そして俺は聞き逃さなかった。絶命する前にここに連れてきた。ということは…


その顔、察したみたいだね。そう君は仮死状態だ。モタモタはできないけど君の意識を元に戻せば現実世界での君は目を覚ます。危険な状態ではあるけど助かる可能性はある


ビンゴ。俺の読みは当たっていたようだ。そして潜在意識の俺マジでナイス。生き返れることを知った俺は口元が緩んだ。しかし潜在意識の俺は依然として哀しげな表情のままだった。


君は生き返れる。けどこのまま生き返らせるわけにはいかない


は?なんでだよお前は死んでほしくなかったから俺をここに連れてきたんだろ?


確かにその通りだ。でも君には一つやってもらうことがある。その前に君は本当に生き返りたいと思うかい?


俺の潜在意識はなぜか俺を素直に現実に返す気はなかった。こんなに帰りたいオーラを出しているのに。それにやってもらうことってなんだ。


当たり前だろ俺は生き返りたい。それにやってもらうことってなんだよ。そもそも時間がないんだろ


まぁ落ち着いてよ、時間に関しては大丈夫だよ。精神世界は現実と比べて時間の流れが遅い。ウラシマ理論と一緒だ


なるほどな。それで俺にやってもらうことってのは?


それは君に自殺した理由を探してもらってそれを克服してもらいたい


そんなの現実に戻ってからじゃあダメなのか?


仮に理由を忘れたまま現実世界に戻ったとする。君は生き返った喜びで理由を探さずに日常を送ることになるだろう。そしてふとした時に思い出す。すると君はどうする?


克服せずに自殺する…


そういうことだよ。僕は君の積み重ねで出来ている。君のことはよく知ってる。だからここで自殺の理由を探し出して克服してほしいんだ


潜在意識の言うことはもっともだった。自分でもその未来が想像ついた。でも俺の中で一つ疑問が生まれた。


ここで克服しないといけない理由はわかった。でもお前は知ってるんだろ?なんで俺が自殺したのか


そう。潜在意識とは顕在意識の積み重ね、俺が忘れていることも潜在意識ならおぼえているはずだ。


君はさすがだね。君の言う通り僕は君がなんで自殺したのかを知ってる。でもそれは君自身が見つけないといけない


どうして?わざわざそんな遠回りしなくてもいいじゃないか


さっきも言ったけどここは意識のさらに深いところにあるんだ。例えるのなら夢の中みたいなものだ、厳密には違うけどね。君は見た夢の内容を覚えてられないだろ。でも夢の中でこれは夢だ!って自覚しているときは記憶との結びつきが強く忘れにくい。遠回りする理由はこれと同じ


俺は驚いた。こいつ本当に俺の潜在意識か?俺より頭いいじゃないか。


ふふ、鳩が豆鉄砲を食ったような顔してるよ。意識の割合は知っているでしょ?


ああ、顕在意識が20%で潜在意識が80%だよな


正解。僕のほうが扱える情報が多いそれだけの話だ。仮に君が僕と同じ量の情報を扱えたら君は僕を遥かに超えるよ


買い被りすぎだ


本当のことなんだけどなぁ


それで俺はどうやって自殺した原因を思い出せばいいんだ?


それはね、この箱たちだよ。この箱はね君の記憶たちだ。思い出みたいなものかな。大きさは君に対しての影響力、色に関してはそのときの感情だね。開けるとそのときのことを擬似体験できる。これじゃないと思ったら途中で止めることもできる


なるほどね。つまりここから自殺するに至った原因を見つければいいんだな


見つけて克服するまでね。それと、あくまで僕は答えを教えられない。君自身の力でやるしかないんだ


分かってるって


正直、楽勝だと思った。大きさが影響力、色が感情だとしたらより大きく色が暗い箱を開ければいいと。しかし俺は知らなかった。そんな単純なことではないこと。自殺の原因を探す。それがどれほど苦しいことか。

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