第19話 炎の学園祭 1
夜の学園祭。
昼には現れない精霊が姿を見せるので、夜でも眠ることをしない。
大人たちは酒を飲み、若い男女は逢瀬を楽しむ。
それでも夜が更けて行くにつれ、静けさが学園を包むころ・・・
闇に紛れる黒い服を着た男たちが塀を乗り越え、音もたてず進んでいく。
誰に命令されるわけでもなく無数に分かれていく。
校舎に火をつける者、集まった生徒たちを殺す者、そしてスーパーノヴァを回収する者と。
校舎に火が上がった。
あの時と同じように。
エレステレカはあの時とは違ってサマードレスを着て、剣をぐるんと回す。
リリアは前に立ち、剣を抜いた。
「リリアぁ・・・」
「エレステレカ様」
エレステレカは笑みを浮かべ、剣を持ち上げる!
「おーほっほっほっ! 死になさい!」
「うわぁ!」
そして、景気良く振り下ろした!
リリアは綺麗に受け流す。
「エレステレカ様! やめてください!」
「懐かしいわねリリアぁ!!!」
剣をぶん回すエレステレカ相手に、リリアは冷静に避けていく。
まだ眠っていなかった学生や、酒を飲んで地面で横たわっていた貴族たちが目を覚ましていく。そして燃える校舎、剣を振り回す少女に動揺が広がる。
「慌てないでください!」
「他国の兵が侵入しています! 慌てず! こちらの指示に従ってください!」
その内容に驚くも、学生たちは慌てず説明していく。
「どういうこと! わたしたち殺されるの!?」
「大丈夫です、ルダエリの帝国兵が中庭を守っています。校舎が燃えているのは幻影なんです」
「すべて計画通り、慌てる必要はありません」
「そ、そうなの?」
よどみなく、そして落ち着いた対応に騒いでいた人たちも落ち着いてくる。
「こちらで屋台を開けておきました! すべて無料です! 愚かなニニヨ国の侵入者を、食事をしながら嘲笑いましょう!」
「さぁ眠っている人たちも起こして! 我らルダエリ帝国に逆らった愚か者たちの大捕り物です!」
景気良く声を上げるこの学生たちは、女神エレステレカ教のメンバー、そしてリリアやアリシア派閥の信用できる生徒たちだ。
もちろん演技指導はエレステレカがしている。
そのエレステレカは、楽しそうに剣を振り回していた。
「ああっ! リリア! 懐かしいわね! そうよ! 私を殺して! あの時と同じように! それで完成するのよ! あなたに殺されて初めて完成するの!!」
「だったらずっと未完成でいてください!!」
リリアは怒鳴り返すと、手にしていた剣を投げ捨てた。
「ふざけるのもいい加減にしてください!!」
エレステレカはつまらなそうに剣を下す。
「綺麗なままの私でいさせてくれないの?」
「醜くてもいいです」
つまらなそうなエレステレカに、リリアは頭を抱える。
「だいたい、どうしてそんなに剣を棍棒のように扱うんですか。もっと巧みに剣を扱えますよね」
「なんかこう、えいやっ! って気分がいいのよ!」
エレステレカは下の上ぐらいの腕は持っている。
女騎士を気取って剣の道一筋で行けば上の下ぐらいまでは行けるだろうが、それ以上となると難しい。
「普通に戦えば、ボクぐらい普通に殺せるでしょ」
「それじゃダメよ! こう、剣に気持ちが乗っていないじゃない!」
剣を肩に置き、校舎を振り返る。
こちらまで熱風が届くほどに、景気良く燃えている。
一度本当に燃やしたエレステレカの目からすると、ちょっと過剰な燃え方だ。
リリアの過去の記憶により、侵入者の目的はスーパーノヴァであると証言された。
炎の卒業式、エレステレカが燃え死んだ後に研究棟へと向かいニールと対峙したそうだ。その手にはスーパーノヴァと思われるランタンを手にしており、何とか奪い返すもニールに追い詰められた。
その時、ランタンが選択肢を伝えてきたそうだ。
現状を変えたいというのなら、どのように変えたい?
オレイアスと共に王族の一員となる。
ニューヴァと共に国を支える。
マーレインと共に町の魔術屋として暮らす。
ネイトと共に一攫千金、大富豪となる。
もしくは・・・
「すべて計画通り、ですか?」
校舎を眺めていると、リリアが質問してきた。
最初の計画は、ここで死ぬ予定だった。
自分がやらかした尻拭いをして、リリアに今度こそしっかりと殺される。最高の自分を取り戻して、最高のフィナーレを迎えるのだ。
要するに、すでに計画は破綻している。
思いっきり剣を振り回してきたエレステレカに対し、何の警戒もなく近寄ってくるリリア。彼女の頬に手を添える。
「すべて計画通りなのかしら?」
「え?」
首を傾げるリリアだった。
何となく見つめ合う二人。
突如背後に気配を感じ、首筋にナイフであろう冷たい物が押し付けられる。
「裏切者は許さんと言ったはずだぞ」
エレステレカは舌打ちをする。
ニニヨ国の諜者ニールだ。
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