第10話 遊び
机に顔を付けながら、大きく息をつく。
「今日は一段としどそうね」
隣に座るミラ・エリアは、メガネを定位置に戻しながら声をかけてきた。
最近取り巻きの一員になった子で、結構お気に入りだ。
「一度ケチが付いたら、もうお終いよ」
「はぁ、そう」
ミラは実績を出している伯爵家の娘。彼女は優秀な人間を探していたが、そのような人間は多い訳じゃない。
故に、自らが優秀な人間になることを決めた子だ。
「派閥に入れて。蜜に群がるハエが鬱陶しいの」
彼女はハエ払いに、このエレステレカを選んだのだ!
こんな面白い子、もちろん手元に置いておきたいに決まっている。
最近入って来たばかりだが、ミラはすっかり隣が定位置になっていた。
ドロリと溶けていると、1人の女生徒が近づいてきた。
なかなかパンチ力のある格好をした女だ。濃い化粧、女性用の制服だが下はパンツルック。歩く姿も、無駄に颯爽としている。
「あの、いいでしょうか。学生報道部のレティア・マレです。エレステレカ様、学園派閥についての取材をさせてもらいたいのですが、いいでしょうか!」
「・・・」
面倒だ。
突っぱねてもいい。
だが・・・渡りに船、こちらから接触しなければいけないと思っていたが、まさか向こうからやってくるとは思わなかった。これなら不審な動きをしていると思われないはずだ。
だが・・・しんどい。
「悪いけど取材なら私が・・・」
「まって、必要ないわ」
代りに申し出たミラの手に手を添え、ゆっくりと立ち上がる。
「取材は2人っきりでもいいかしら?」
「それはもう! 是非とも!」
レティアは声を上げて感謝してくれた。
エレステレカはミラに向き、微笑む。
「こういうのも、悪くないものね」
「ほんと、あなたの言動って意味不明なことばかりね」
ミラも微笑み返した。
学園は広いが、余っている部屋はない。生徒数よりも数倍もの従者やメイド、護衛などが働いており、その控室が占めている。エレステレカはメイドの一室を借り、レティアと入った。
休憩室のようだ。メイドたちの雑貨が適当に並べられ、おあつらい向きに新聞まで転がっていた。
「それは、取材させてもらいます」
それからしばらく、簡単に派閥の話を行った。
一年内にある3つの派閥。基本オレイアス王子派閥、もしくは日和見アリシア派閥、一発逆転を願っている者たちがエレステレカ派閥になる。
今後の活動を聞かれたが、特に考えていないことを伝えると露骨に「うわ、つまんねぇ奴に話しかけたわ」という態度を見せた。
「あなた、将来の夢は何かしら?」
「私に取材ですか? そういうのは勘弁してくださいよ」
転がっていた新聞を掴み、投げて見せる。
「捏造記事ばかりに対して、あなたの感想をお聞かせいただきたいわね」
最近出回り始めた「新聞」という紙媒体。
数年前にドワーフ印刷からノーム印刷になると大量生産が可能になり一気に製本が広がってゆき、一般人にも教育の本や大衆小説などが広まっていった。
その中で、事件や国の出来事などを伝える「新聞」が作られた。
「読み手の感想は人それぞれだと思います。誤解を招く書き方をしているかもしれませんが、それでとやかく言われる筋合いはありません」
新聞を開き、内容を目で追う。
最近新聞を読み始めたばかりなのでどこを読めばいいかわからない。この精霊ハチミツのソテー、おいしそうじゃない・・・
「で、ここに就職するの?」
「・・・」
彼女は懐から、煙草を取り出して指先で火をつけた。
煙草は高級品だが、巷で幅を利かせている格安の煙草だ。赤い口紅で煙草をくわえる姿は、なるほど絵になっている。
「女が一人で自立するには、この職業しかないわ」
思わず笑ってしまいそうになるのを堪えた。
「そうね、自立した女性はとても魅力的だわ」
レティアとミラ、対照的で笑えるわ。
「新聞が一か所だけというのは問題だと私は思っているわ」
そう、新聞社が王都ヒロミラにあるだけで、ルダエリ帝国すべてにあるわけじゃない。
「物事は切磋琢磨して発展していくものだわ。そうでしょ?」
聞き流していたレティアが、やっとこちらに意識を向けた。
「新しく事業を立ち上げようと思っているのよ。そう、新しく新聞社をね」
「私にあなたのご用記者になれって言うの?」
「まさか私が記事を書くわけにはいかないでしょ? そこで専門家と友達になっておきたい、それだけよ」
エレステレカは立ち上がる。
考えておいてねと伝えてその場を去った。
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