第2話 悪役令嬢は燃え尽き症候群
ここはルダエリ帝国の王都ヒロミラ。
聖ヴァレリア学園は貴族だけが通える学校である。
豪華絢爛、その美しさは皮肉なことに皇帝が暮らす宮殿よりも広大で美しい建物となっていた。
生徒たちは聖ヴァレリア学園の敷地内にある学生寮から通うことになる。
講堂には授業を受講した学生たちが集まり、各々自由に腰かける。
エレステレカは適当に席に座り、ドロリと体を溶かした。
「・・・やる気が出ない」
彼女の身に起きていることは、かなりの衝撃的な状態だ。
学園卒業パーティーで隣国の兵を密かに呼び寄せ学生たちを虐殺、その中でリリアを殺害しようとするも返り討ち。
切られて焼け死んだ、その次の日なのだ。
色々と考えなければいけない事はある。
錯乱するべきだ。
どういう訳か、3年間時間が戻っていた。
どうしてこうなった?
これからどうする?
今ならリリアを殺せるじゃないか?
「だめ、あたまがまわらない」
身体的に何か不調があるわけじゃない。
至って健康で、焼けた跡も、切り裂かれた跡も残っていない。
ただ・・・決定的に何かが足りてない・・・・・・
賑やかな声が聞こえてきた。
この声は、エレステレカが唯一認める、女傑アリシアの声だ。
入学初日から多くの生徒を引き連れ、元気よく跳ねていた。
彼女はおしゃべりに夢中になりすぎ、体勢を崩したのだろうエレステレカに倒れ込んでしまった。
「まぁ! ごめんなさい!」
「・・・」
ゆっくりと立ち上がり、エレステレカはアリシアを睨みつけた。
「あ、あのぅ」
可愛らしい、ふわふわの女の子だ。
緩やかなウェーブかかった髪に幼さの残る体型、とても笑顔が似合い声をかけたくなる魅力のある子だ。
「あなた、ねぇ・・・」
どこの田舎娘かしら!
このエレステレカに不遜を働いてタダで済むと思わない事ね!
膝をつき謝罪なさい、それなら許してあげなくもないわ!
いくらでも罵りの言葉が浮かんでくるのだが・・・
やる気が出ない。
何度も火打石を叩くが、まるで着火しない。
身を焦がすあの、禍々しい炎が内から吹きあがってこない。
そこでやっと、不調の原因に気が付いた。
嫉妬、妬み、恨み、憎しみ、欲、呪いなどなど、あらゆる邪悪なものを煮詰めて燃やした邪悪な炎が、完全に消火されている。
暖炉の中に残った白い灰のように、すっからかんだ。
「あなた、名前をなんというの?」
「ふぇ、アリシア、です」
「そう」
いつも楽し気に飛び跳ねているような明るい子なのだが、制服に着崩れはない。礼儀作法が染みついているからこそ、多少暴れたところで優雅さを失わないのだ。
それが分かりつつ、わざわざ彼女の制服を整えて見せる。
「気を付けなさい」
「は、はい! そうだ、お詫びにこの後お茶でも・・・」
エレステレカは席に座り、あっちに行けと手で払った。
なにもやる気が起きない。
もういい。
何もしないし、何もするつもりもない。
過去に恨みもなく、今に不満もなく、未来に興味もない。
ただ静かに、闇の中に沈んでいく・・・
「アリシア様! 勝手に動き回らないでください!」
「リリア様ぁ! こっちこっち!」
きゃーっ!
黄色い声が上がった。
男装の令嬢が駆け寄ってきた。
愛らしくもあり、凛々しくもある姿に女子たちは思わず声を上げてしまったのだ。
エレステレカの虚ろな目が、ゆっくりと持ち上がった。
白い灰から、ほんの少しだけ煙が上る。
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