第55話 あっけない“最期”
「お前の“想い”は所詮この世界の“神”や『賢者』だとかでしかないだろうけど、私には数々の“想い”が宿っている―――私の国だった『エヴァグリム』の皆に、お世話になったヴァーミリオン達達……そして―――“
〖我が身に宿る“光”よ、その
「こっ―――これは……バカなああぁぁ」
ラプラスの“神”から与えられた光の加護によって護られた『勇者』の防御を―――『グリマー』の“
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
こうして“元凶”の一つは成敗されましたが、本当の最終戦はこれから―――……魔王カルブンクリスの前に立ちはだかる真の元凶である『賢者』―――に、その背後に未だ姿さえ確認されていない“神”なる存在。 その存在を滅亡させるのが本来の目的なのです。
「フ……中々にやってくれたものよ。 あと少しで貴様の馘を手中にし、魔界は我等が“神”の所有物になるはずであったのに。 一体どこで目算が狂ったものか……」
「それはお前の“甘さ”ゆえだからだろう?万全を期しているようで詰めが甘い―――小賢しい者の策略とはそんなものだよ。」
「(ぬぐ…く―――)その言い様だと貴様は策略を練りに練った上でこの世界を侵略したのだと?」
「(……)なにを、言っているのか判らないが―――今回の遠征は侵略目的などではない、今後バカな真似が出来ないように、或いはバカな考えを起こさないように警告の意味で発動した事に他ならない。 第一環境の違う場所を支配下に置こうだなんて、そんな無謀な事がよくも考えられたものだ。 私は呆れながら感心したものだよ、偉い者の考えはよく判らないものだとね。」
そう……今回カルブンクリスが思い立った一連の行動には、ラプラス達の世界である幻界の一部を領土化させる「侵略」目的などではありませんでした。
{*逆を返すとラプラス達は魔界の一部か全土を領土化させるために侵攻をしてきた。}
それに、同じ世界の異勢力の領土を領土化させるならまだ判るにしても、全くの異世界の領土の一部を領土化させるには様々な弊害が考えられたものでした。 その一つとしては物資は潤滑に補給できるのか、今回の遠征では上手く行きましたが、これから先も恒久的に行き来できるのか、異世界に住むのだとすれば侵略戦争に勝ったとはいえ原住民達と上手くやっていけるのか……等々。 その辺の理屈も判っていた事からカルブンクリスは今回の遠征を「侵略」目的ではなく「警告」目的だとしたのです。
しかしこれにより前哨戦たる舌戦ではどちらに軍配が上がったかは最早言うまでもなく、『賢者』にしてみれば自分達の
「フン―――余裕ぶっているようだが、貴様の浅慮さ思い知るがいい! ≪セイクリッド・スローター≫」
「(……)芸の無い事だ、それにお前からは“聖”も“光”も感じられない―――何故なのだろうね?本来教会ともなれば神聖にして清浄な場であるはずなのに、なのにこの場所から漂うのは“
「ああ“神”だとも!“
一見すると、上手く行かなくなってきた自分の策略―――加えて部下たち(『勇者』含む)の不手際も手伝い、苛立ちを募らせている様にも見えましたが、そこはそれ―――そうした
な……?!あ、あと一歩と言う処で立ち止まった―――だ、と?
「実に、見え透いた芝居をするものだね。 この私が罠に一歩近づく度にお前の頬は緩んできている。 これではこの場所に私をどうにかしてしまえるまでの罠が張り巡らされているのをお前自身が言っている様なものだ。」
以前自分が
しかし―――
「けれど、私は敢えてお前の策に乗ってやろう。 私が尊敬するルベリウス様を
罠があると判っていて、敢えて罠にかかってやる―――と宣言された……そこに『賢者』は、今にしてようやくカルブンクリスの恐ろしさというものが判ってきました。
確かにその場所に設置した罠は、「対魔族」専用の強力な罠……魔族に付与されている様々な能力の減殺や膨大な魔力に体力を瀕死状態にまで追い込める攻撃魔法などがてんこ盛り状態でしたが、それを全部踏破してみせるという気概が伝わって来た……そしてやはり。
「ふむ……やはりこの程度でしかなかったか。 私は元々戦闘を好む性格ではなかったが、そんな私でさえも“がっかり”とさせてくれるようなモノを仕込まれると流石に気分が悪いと言った処か……」
自分への(期待していた)効果が無いと判ると、魔王からはあの権能……総てを貪り喰らい尽すとされる黒き霧状のモノ―――『闇の衣』……それを振りまくと大神殿最奥部の部屋にあった様々な調度品や装飾を呑み込み、やがては……
あ゛…あ゛・あ゛・ぁ゛……こ、こんなバカなあぁぁ―――た、助け……どうかお助けをおぉぉ……『アンゴルモア』様ああ!
それまでは秘匿中の“秘”して扱われ、容易に表立ってこなかったこの世界の“神”―――その
その『賢者』の断末魔と同時に絞り出された最終討伐目的……その存在をカルブンクリスはよく心得ていました。 よく心得ていたからこそ―――
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「魔王様―――」
「シェラザードか、どうやらそちらも問題なく片付けられたようだね。」
「はい、それより―――……」
「今回の、私達の最終目的がこの先にいる。 だがそれは私と君との2人だけではダメだ。 だからこそ待とうと思う、この状況を創り出してくれた人たちを。」
それぞれ『勇者』と『賢者』を討滅できたとしても、魔王カルブンクリスは慎重でした。 それもそのはず『賢者』を討ったことで自分達の本来の大敵、それを今回の遠征に参加してくれた全員と討つ為に残りの者達を待つことにしたのです。
そして三々五々集結してくる仲間達―――竜吉公主にウリエル、ベサリウスにクローディアにシェラザードの親衛隊たち……
「皆、よく生き残ってくれた。 この最終戦を前に傷ついた者達については多くを感謝しなくてはならないだろう。 だが、ここで怖気づいてはならない慢心してもならない、今回の我等の最終的な目的はこの世界に巣食う『邪神』を屠らねばならないのだから。」
「魔王様?ひとつお言葉ですが……今何と? ここに―――この世界の“神”とは邪神だったのですか?」
「そう言う事だササラ―――私も『賢者』を討つまでは“神”は“神”でしかないと思っていた。 だが、『賢者』が滅ぶ際、今わの際に口から出てきたのは『アンゴルモア』という存在だったのだ。」
「『アンゴルモア』!!? “終末を
「クローディア……残念ながらそう言う事だ。 だがその過ちは君にあるわけではない、神聖なる教会が崇めていた“神”が
「しっかし悪どいことするよなあ―――自分達に都合が悪くなるような事は周知させないなんて。 あ~~~あ、偉くなんかなりたくないよね―――」
「(シェラ……あなたも十分その立場なのよ、気を付けなさいよね。)」
「(そうはいってもいくつかブーメランが突き立ってないか?)」
やはりと言うか、元々この世界出身で自身もラプラスの『司祭』でもあったクローディアは、その存在の事を知っていました。 しかしながら彼女は―――と言うより彼女を含むほとんどの聖職者たちは皆騙されていたのです、そう『賢者』によって。 ではならば『賢者』が結成していた『三聖者』はその事を知っていたのか……敢えて答えるならば“是”―――だからこそ上で秘事としていた事は容易に下へと伝わらなかったのです。
* * * * * * * * * * *
それはさておき、これで全員集まった。 だからこれからは、たった一つの存在を多数によってどうにかしなければならな…………い??
な―――なんだ?これは……
ど―――どーーーうなっちゃってるの?こりゃ
カルブンクリスやクローディア等は、アンゴルモアと言う存在を知っていたから、慎重かつ警戒をしたものでした。
{*ちなみにシェラザードやその他諸々は知らないけれども、カルブンクリスの確かな知識の前に従っていただけだった}
だからこそ今回の遠征に加わった全員を
この大聖堂の最奥の部屋よりさらに奥……“地下”にいたのは、すでに何者かにやられボロボロになっていたアンゴルモアだったのです。
その事に拍子抜けしたものでしたが―――
「(いや、重要なのはそこではない……この私達が綿密な計画の下行った遠征―――それでも尚傷を負って中途退場しなければならなくなった者達もいたのだ。 つまりこの時点でも我が魔界と幻界の戦力は拮抗―――なのに、私達の最終目的をここまで弱体化させるなんて、一体何者の仕業……)」
カルブンクリスだけは、この事態の異状性に気付き始めていました。 自分達が苦労に苦労を重ねてここまでの状況を創り出したと言うのに、自分達の仇敵であるアンゴルモアをコテンパンにした存在が自分達の外にもいると言う……その存在が果たして何者なのか―――
ただ、今はその事に思い悩むよりも前に、憎々しい仇敵はここにこうして虫の息……とくれば。
「なぜお前が私達が討つよりも
{貴様……そうか―――まさかあの者達の仲間だったとはな!}
「えっ?どう言う事なの?」
「恐らくこの者がこうまで瀕死なのは、私達よりも前にこの者の前に立った者達により、そうさせられた―――そうとしか言いようがあるまい。」
{フン……上手く『賢者』を操って、お前達が住む魔界を、我が支配する世界にしようと思っていたモノを……要らぬ邪魔が入り非常に残念だ。}
瀕死ながらも憎まれ口は減る事はない―――しかしながらアンゴルモアを蝕む効果は引きも切らずと言った処か。
しかしながらカルブンクリスは思ったのです。 もし“彼の存在”がここまでの事をしてくれなければ、恐らく自分達は苦戦を強いられていたのだろう、しかし“彼の存在”が関与した事によって、“彼の存在”の権能に触れてしまった邪神は、まるで砂で出来た城郭が風によって崩れ去るが如くに―――また鉄が“風化”によって錆び、
今でこそ思う事がある―――こんな畏るべき権能を扱える異界の者と友誼を交わせたことは真に僥倖であり、また奇蹟なのだったと。
だからといって憐れみを掛けるべきではない―――今は虫の息でもいつかは息を吹き返し、また魔界を侵略してこないとも限らない……
「死体を嬲るようであまり気は進まないが、ここで私が見逃せばまたお前は勢力を盛り返し魔界を襲って来ることだろう。 ―――覚悟はよいな。」
{ぁあああ゛!口惜しや!! この世界の“神”やその名に連なる者達により不覚を取った我だったが、所詮は叶わぬ儚き夢であったか!!}
「ふっっざけんじゃねえぞう!コノヤロウ―――私達はそんなお前のちゃちな野望の所為で滅ぼされたってか!何か知らんが無性に腹が立ってきた……歯ぁぁ喰いしばれやああ―――コンチクショー!!
〖我が身に宿る“光”よ、その
「その通りだシェラザード! この者に掛ける情けは最早ない、ゆえに我が『闇の衣』によって存在の一片も残らぬよう喰らい尽してくれる!!
〖我が忌みし“闇”の権能よ、今こそ現出し総てを
邪悪を殲滅する光の衝撃に―――万象の総てを喰らい尽す“蝕”の権能……その両方を喰らい、アンゴルモアは抵抗する事も出来ずその存在の一片ですらもこの世界に残る事はありませんでした。
これにより永らく魔界と幻界との間で繰り広げられていた戦争は終結し、ですが魔王はその理念通り幻界の領土の欠片すらも所望することなく自分達の世界である魔界に引き上げたのです。
そして―――……
また―――……
幾許かの時は過ぎ去く―――……
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