第54話 『勇者』vs『グリマー』
魔界や幻界とはまた違う異世界へと飛ばされた竜吉公主が帰還した事に伴い、『三聖者』の一人『大司教』は討ち果たされました。 こうして後顧の憂いは断った―――あとは大聖堂の奥深くにいる総ての元凶『賢者』と『勇者』達のみ。 だとてシェラザードにしてみればこの二人に不覚を取った事がある為、どうしてもその部分だけが先に出て頭に血が昇ってしまうのでしたが。
実はここにはシェラザードよりも憤っていた存在がいた―――そう、自身が魔王位に登極する以前、密かに尊敬し慕っていた前任者を討たねばならなかった、それだけならまだしも自身が目に掛けている者や旧くから親交のあった友人達を死なせてしまった事にも、深い慙愧の念に堪える事が無かった。
「お前達の顔は初めて見るが……なんだ、何も湧かないな。 私の大切なモノを悉く奪い去り、その憎々しさに頭の中が一杯になって眠れない時期すらあったと言うのに。 なのに実際会ったとなれば、何なんだろうな……これは。 “虚無感”?とでも言えば良いのだろうか、いずれにしても私はこんな矮小な存在の為に無駄な時間を浪費してしまった。 なので私は請求する―――お前達の破滅を。」
自身の大切なモノを失わせられ怒りが充満していた―――と言うのは決して嘘ではないのだろう。 だがしかし怨恨の対象が目の前にいると言うのにも拘らず、なぜかそうした感情は『湧かない』のだと言う。
それは嘘だ―――それはウソだ。 実際その人の間近にいる私は動けないでいる。 そう、本当は感情の儘に動きたい……早くその人の側から離れないといけない―――そう頭の中では理解しているのに、野生の本能と言うべきか……今ほんのちょっとでも動いたなら命の保証は絶対にない―――だからこそ動けないでいる。
魔王カルブンクリスの魔王たる
だがしかし―――魔族を……魔王を不俱戴天の仇としか捉えられていないこちらは……
「そうか、お前が魔王か! お前が魔界に君臨している所為で我等の世界に安寧が訪れられないのだ。 今こそその馘を“神”の御前に差し出し誰もが平和に暮らせる恒久的な世界を―――」
「何を自分勝手な主張ばかりしてくれているのか訳が分からないね。 私達は魔界と言う世界の出身だ、そこで生まれそこで一生を終える……だと言うのに全く別の世界のお前達から文句を付けられる理屈がそもそも判らない。 なら一つ聞くが我等の世界から次元を超えて侵略された事が一度でもあったのかな、今私達がここの世界にいるのは私の長年の研究の成果とでも言っておこうか。 それも私が魔王として登極する以前からね。 それ以前にもお前達から次元を超えた侵略行為は多々あった……逆に魔界側から次元を超えての侵略行為はなかった。 これは偏に魔界側にはそうした技術が乏しかったに他ならないという証明になるだろう。 そう言う事だ……お前達はこれまでに好き勝手に私達の世界を蹂躙してきた、斯く言う私達はそうしたお前達の対応に手一杯だった―――それをこの世界に安寧が訪れられないだと……?どの口がそれを言うのだ、盗人猛々しい
その瞬間―――魔王を取り巻いていたモノが開放された。 ドス黒くも霧の様な不確かさ曖昧さを持ち合わせ、うねりを伴っている……
あ―――あれが……『闇の衣』! わたくしが崇める“神”と同等かそれ以上の権能を……ええいこの手に『光の珠』さえあれば無効化でき、我が“神”の更なる増強が見込めたものをおっ!なんと口惜しや―――
“神”とは本来、清らかにして聖なる存在。
……『わたくしが崇める“神”と 同等かそれ以上の権能を 』???
何故―――何故神聖なる教会が崇める存在が、魔王と同等かそれ以上の闇の力を?
それに計算狂いが生じたと言うのならば、今代の魔王は頭も賢ければ道理にも通じていると言う事。 今までにも確かに歴史を紐解けば頭の賢い魔王は何人かいました。 が……伝承やイメージよろしく“悪”賢い分野に長けていた―――世に言う『世界の半分を与えよう』はその最たるモノであり、テンプレートでさえあるのです。
* * * * * * * * * * *
そして前哨戦たる“舌戦”で主導権を握ったと感じた魔王は、それでも少しばかり溜飲が下がったものと見え周りに与えていた“
あ……っ、動ける? ヤレヤレとんだとばっちりって言うか、魔王様本気で怒らせたらトンデモねーな、こりゃ……けど、取り敢えずは―――
「ねえ魔王様、私の言葉に耳を傾けてくれませんか。」
「なんだいシェラザード。」
「本当は、あの『勇者』や『賢者』をこの私がぶちのめしたいけど、我慢して『勇者』だけにしといてあげるよ。」
「フッ……やれやれ、君にも困ったものだ。 『魔王』vs『勇者』はどこの世界にでもある様な伝統的な一戦であるはずなのに…それを君はエルフながらもそれを為そうと言うのだね。」
「まあね……それに、どう見ても向うの親玉はあの『賢者』みたいだし、ここはラスト・ボス・バトルを譲ってあげるよ―――だから……『勇者』ぁああ!あんただけはこの私の手で捻り潰す!!あんたとその仲間達は何の罪もない私の国の民達や親を虐殺してきた……その報い―――今ここで
「く・う……邪悪な魔の種属であるエルフが―――返り討ちにしてくれん!」
シェラザード自身
それこそが運命の分かれ目か―――そここそが運命の分かれ目だったか…………
『賢者』の目論みとしては、『賢者』自身が崇め慕う“神”からの啓示により、彼の世界の“不条理の塊”とも言える『闇の衣』に対抗するべくの
しかも、あの時と違っていたとすれば―――
「へッ―――なに一人で盛り上がってンだよ! ちっとはオレにも獲物を寄越せや!!」
「ヤレヤレ―――貴様はバカか?いやバカなのだろうな。 そんな事をいちいち口に出してなんになる、わざわざ宣言せずとも黙って仕事をこなせ!!」
「ふむ―――それにしても多いな、『長鉞使い』『大斧使い』『双剣使い』に『魔弓使い』か……フ・フ、中々に食いでのある者達ばかりで満更でもない。」
「新たな者達が目覚めているようだが気にすることはない、陛下ご安心を……有象無象の雑魚共は総て我等が片付けておきましょう。」
「〖
今現在では『スゥイルヴァン』と言う国家の女王となったシェラザード。 その彼女に付き従う4人の親衛隊―――『高潔なる
この5人の手によって次々と打ち取られて行く『勇者』の軍団、回復役は早々に潰され補助役もその次に―――後に残るはただ腕力にモノを言わせた闘い方しか知らない“脳筋”のみ……
そして―――
「随分とやってくれたものだな―――だが、このオレも易々と討たれるモノと思うなよ!!」
「いいや―――手前ェはオワリだよ。 あの魔王様の怒りの前には、私の
『グリマー』とは本来“光”を意味する。 そして皮肉にもラプラスの『勇者』も、“神”と言う名の光の加護の恩寵を受けた存在……今、相容れぬ“光”と“光”とが正面から衝突する。
シェラザードが得意としていたのは遠距離から相手を射殺す弓―――故にラプラス側の『弓兵』と似た処がありました。 それであるが故『勇者』も判った風な処があり、自分達の仲間と准えていた処も否めなかった……けれどシェラザードは森に生きる民、森と共に生き、森と共に育み、森と共に繁栄をしてきた『エヴァグリム』と言う国の民の一人でした。 つまり弓の何たるかを知っている―――遠距離で狙って撃つには一時的に止まらないといけない、要はそこを狙えばいい―――事実シェラザードが『勇者』を狙う為に足を止めた瞬間を狙い『忍者』や『暗殺者』と言った手合いが気配もなくシェラザードを狙ったものでしたが……
「(な……な、に?実体がない―――)」
「(しまった??こやつ『空蝉の術』を??)」
射手の隙を伺いその身体に必殺の刃を徹したものでしたが、全く手応えが無かった。 そこを『忍者』は忍びの術である『空蝉の術』かと思ったものでしたが……
「なにをハトマメな面してんのさ。 ああらもしかして私の
“射撃”のクセをよく知っていた―――からこそ改良に改良を加え、シェラザードは移動や行動のターン中にでも相手を射殺せる
「フ……さすが―――と言いたい処だが、このオレに“神の光の加護”がある限りはお前の矢など通用しない。 だからと言ってオレの剣技も通用しない……やはりここは仕方がないな、この技は本来魔王を殺す為のモノだったが……だから光栄に思うがいい!我が≪魔斬獲≫の奥義、貴様の身に刻み込むまで!」
互いに譲らぬ“武”と”武”に、“想い”と“想い”……しかしどちらかが優っているかと言えば、それは最早説明不要―――
「お前の“想い”は所詮この世界の“神”や『賢者』だとかでしかないだろうけど、私には数々の“想い”が宿っている―――私の国だった『エヴァグリム』の皆に、お世話になったヴァーミリオン達達……そして―――“
「こっ―――これは……バカなああぁぁ」
ラプラス達の“神”や『賢者』と言った者達が『グリマー』を一様にして畏れた理由……それは、彼の存在は膨大な魔力で自分達を害する可能性があった―――加えて、『闇の衣』なる存在。 この『闇の衣』なる存在は当初から存在していたものではなかったのでしたが、現在の処ラプラスの“神”として君臨している者からの啓示で、ラプラスの“神”にも匹敵する権能を持ち合わせる事が判って来た、そこで打開策として提示されたのが『光の珠』……この物質は『グリマー』の“素”でもあったことから、『グリマー』を生かさず殺さずの内に弱体化させ、その信念が折れ切った時に抽出出来るものだと判った時、当代の『グリマー』であるシェラザードが狙われたものだったのです。
しかし、計算外が生じたとすれば『グリマー』の仲間達は『グリマー』を救い出す為に一丸となった……その“絆”を基に穢されていた光は復活を果たし、見事千条の光の鏃は仇を為した『勇者』の身体を撃ち貫き、ここに「決着」の一つは着いたのです。
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