第53話 =帰還= 待ち望まれた援軍
ようやくここまで来た―――自国を滅ぼされ亡国の王女となったシェラザードでしたが、「臥薪嘗胆」しこの今の現状に至った怨み辛みを
しかしながらその理由も単純にして明解―――そう今の自分以上に憤っている存在がいたから。 そしてその存在こそ……
「魔王カルブンクリス―――」
「(……)初対面であるはずの者に呼び捨てにされるのは、あまり気分が良くないね。 だがそれでいい……お前達の様な低俗な連中に敬称で呼ばれでもしたら私はどうにかなってしまいそうだからね。」
今までは……気付かないでいた。 いや、と言うより「気付かせないでいた」と言う配慮の下、私達は気付かないでいたのだろう……けれどそれは間違いではなかった、こんな身の
『魔王』……まさしくこの方こそは私達の魔界に君臨をし、“人間”共にしてみたらまさしくの不倶戴天の敵に違いはない。 それに……今のこの方の目には、憎々しい敵でしかない者達しか映ってはいない―――もしここに私達が助太刀と称して参戦しようものなら……間違いなく巻き添えになってしまうのは否めない。
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グリザイヤの大聖堂で魔王カルブンクリスが率いる主力部隊(シェラザードを含む)が、ラプラスの主戦力である『勇者』『賢者』達と対峙していた頃。 同じ大聖堂の別区画に於いて、また別の闘争が繰り広げられようとしていました。 そう……残りの『三聖者』―――『大司教』。
『大司教』は『賢者』には劣るものの「教会」なる勢力に於いては隠然たる権力を持っている存在でした。
{*斯く言う前出した『聖女』も「教会」の枠組みに入っていた。 と言う事は闇落ちしてしまった『闇司祭』ことクローディアの粛清を執行しようとしたのも、『大司教』からの命であった事が判ろうと言うもの}
それに、どちらかと言うとこちらの方に戦力を多く割り当てていたのです。
「おおお、なんと言う事だ。 この清らかなる場を邪悪な気で穢すとは、あなた方はロクな死に方はしませんよ。」
この世界の“神”の善性を説き、それとは違うものは総てを「異端」として取り扱う、極めて排他的にして自己中心的な教え……けれど皮肉な事に、今回の魔界軍の中には魔界側の―――
「この私達さえも穢らわしき者と同列に扱われるとは―――何と嘆かわしい。」
「しかし、それだけこの者達にとっては私達の様な「異世界の神の使徒」は目障りなのでしょう。」
「ふむ―――あたら「神の使徒」たる天使を
『神人』の“水”と“風”の熾天使ガブリエルとラファエル。 それに『大司教』の言葉にもあったように、この幻界にも「神の使徒」たる天使なる存在はいた―――とは言え、いたとしても信じるべきは自分達の世界の存在のみ……とくれば最早話し合いは平行線であるがゆえに、やはりここは武力で
「先程からお前の弁を聞いていて不思議に思った事がある。 確かにお前が信じるのはお前の世界の“神”なのだろう……が、私にはその“神”とやらが一向に見えてこない。 私は“地”の熾天使ウリエル―――私の役割とは私達が仕える神の正統性を説き、遍く人民の心休まるを約束しなければならなない。 それに……この世界の人民は私が見立てた処でお前が慕う“神”なる存在に懐疑的であったと言うのは果たしてどう言う事なのか……なあ『大司教』とやら、私に聞かせてもらえないか、お前が言う“神”なる存在を。」
「ぬぐぐぐ……こちらが黙っていればいい気になりおって―――私が信じる存在こそが“神”、そして私こそがその“神”の代弁者……そう、この私こそが“神”そのものなのだ!!」
聞いて―――呆れ果ててしまう。 まさかの苦し紛れの一言が『大司教』自身が“神”であるなどとは。 しかし油断はならない、今にしてこの世界の“神”の実態性は失われたとはいえ、少なくともこの大聖堂内にいる教徒達は皆一様にして『大司教』を慕っていた存在。 そう―――…
* * * * * * * * * * *
「あの、よろしいでしょうか。」
「どうしたのだクローディア殿。」
「これからウリエル様達は、この世界の信教の総本山と言える大聖堂を攻略するはずです。 その際に大いに気を付けて頂きたいのは、あまり「教会」と言う集団を舐めないと言う事のみです。 これは以前の私にも言えた事なのですが、“神”の名の下に縛られると言う事はあっても、そこは“神”と言う名の“大いなる者”の加護を受けています。 そしてその加護は信じる者達の信じる力を糧としています。 それは強ければ強い程、加護の強さに比例して来る……今の私の様にこの世界の“神”を信じられなくなれば違うのでしょうが。」
以前までは魔界側の敵対であったラプラスの『司祭』としての務めを果たしていたクローディアでしたが、ある折をして謂れなき罪に
“闇”の化身であるエニグマからの勧誘があっても、それまで信じていた“神”は彼女を止めに現れはしなかった―――だから……
しかしながら警告は受けていました。 強い信心は無類の強力さとなると。
そう、『大司教』の呼び掛けに応じ他の『修道士』『司祭』『司教』『枢機卿』も一心に念じ上げる、それも自分達が信じあげている未明の“神”に。
それに魔界側も抜かった処はありませんでした―――が、少しだけ辛口批評をするならば、もう少しばかりクローディアの忠告を真摯に受け止めるべきだったか……
確かに『大司教』一人の戦力としてはそう大したものではなかった事でしょう……が、今ここには自分達も見た事さえもない“神”への狂った信心……盲目的な信仰心を主張する者達の巣窟の様なもの。 その想いは例え狂っていたとしても盲目的だったとしても『信じる』と言う事に関しては強い思念が籠っている―――つまり……
「(!!)ガブリエル―――ラファエル!!」
「こちらでは那咤が大破!! 何てことだ……こいつらがいるかどうかも判らない“神”を信じる力は生半可じゃなかったんだ。」
「総参謀、弱音を吐いている場合ではありませんよ。 どうにかして立て直さない事には……」
クローディアからの警告・忠告は受け止めていた……辛辣に言うとしたならそれだけでした。 もう少し応用を利かせ今現在の様な危機に陥る可能性もあるかもしれない―――そこを模索すべきだったか。 それにしても総参謀であるベサリウスがここまでを読み切れなかったと言うのは、やはり直近に於いて護るべき大切な存在を失ってしまった―――から??
{どうしたベサリウスよ……なにをそう
今―――その……護るべき大切な存在と同じ様な声が……した? いやけれど―――
{それにしても
聞き間違いなどではない、たっぷりと皮肉の利いた言い回しなど独特な話法。 そう―――戻ってこられたのだ……
{ならばこそ、その意趣返しとして
そう言うなり大聖堂の天井を突き破り、鉄砲水の様な水柱が降り立つ。 その量は大聖堂内を埋め尽くせるまでのものではありましたが、不思議とそうならないでいました。 それもそのはずそれも言うなればイメージ上の産物であって実際にそうであるかと言えばそうではない。 いわゆるその水柱によって顕現した強大な存在の実力を見せつけたまでの事。
「公主―――様…」
「何を呆けているのベサリウス。 私が戻って来たんだからもう少し嬉しそうな顔をなさいよ。」
「公主殿……」
「ウリエルにササラも―――けどその様子だと過分な心配を掛けちゃったみたいね。 けど安心なさいな、私は見ての通り元気だから。」
「ぬぐぐぐ……またしても厄介にして不浄な存在が。 許せません、許せませんよ?!この神聖にして清浄な場を穢すというのは!!」
「別にあなたの様な者から赦してもらおうなどとは思っていないわ。 それにしても結構取られたわね……。」
「その事については申し訳次第もありません。 あたらクローディアからの忠告を話半分に聞いていたワケなどではないのですが……」
「そこは仕方なかったんじゃない、私達にしてみればこれが最初で最後の遠征なのだから。 こいつらみたいに長期に亘って魔界にちょっかいかけて私達の弱点洗いざらい調べ上げていたわけじゃないからね。」
「ええその通りです!我々はお前達の様な不浄の存在を絶滅させるために幾度となく派兵させてきました。 そしてその首魁たる魔王を討ち、我等の傀儡とさせるところまで上手く行ったと言うのに……なぜ、なに、どこで狂ってしまったのでしょうねえ。」
「なるほど、それで大体納得いったわ。 あなた達の敗北の要因は決して怒らせてはならない2人を、怒らせてしまったからよ。 それ以外の要因はないでしょうね。」
「何をおかしなことを言っているのか判りませんが……まあいいでしょう。 不浄の存在が一匹や二匹増えた処でそう変わりはありません。 さあ信徒の皆さん、皆さんの強き信心の力を今一度見せつけようではありませんか!!」
またアレが来る ―――『神人』の天使の中でも最上位に位置する2人と、魔王と『聖霊』の神仙が共同開発した兵器神仙を行動不能までに陥りさせた、ある意味でのこちらの世界の“奇蹟”。 それにあまり良くない事に実績を作ってしまって調子に乗らせてしまった感も否めなくはない、何より竜吉公主はガブリエルやラファエル、那咤が被害を受けた様子を直接視ていない……とするならば?
「いけません―――公主様、“アレ”の直撃を受けてしまっては!!」
「大丈夫よササラ、彼らのやられ様は視ていなかったわけではないわ。 けれどね、彼らをどうにかするまでの威力を放つまでには時間がかかるはず……よく視てみなさい、本来ならばもう放出されてもいいはずなのに、まだ放出されていない……」
「ククク―――その事に気付きましたか。 なるほど不浄の者の中には悪知恵の働くのもいるようだ。 ならば率先して斃さねばならぬのはお前のようですね!」
「何を焦っているのかしらね……まあ私もあなた達の仲間の一人に
「(…?)な、何を言っているんですか公主様―――あんたが飛ばされた世界での“あんた”……?」
「もしかすると、別の世界でも『竜吉公主』なる者が存在したとでも?」
「そうーーー言ってしまえばいいのかもしれないわね。 とにかく私はその者達と協力をして私と同じ『竜吉公主』をこの手で討ったの。 そして私は―――……」
そこから先の説明は最早いらなかった……そう、竜吉公主は異世界に飛ばされ、そこでの竜吉公主を名乗っていた存在を討伐する事によって、その世界での竜吉公主の能力を吸収―――
「さあ―――新しく得た我が力、篤と見よ!! ≪蛟竜雲雨≫」
こっ―――これは?? 公主殿は以前までは付与系補助系の能力は不得手であったはず……それが―――
“オレ”達の能力値限界をも超える“
これはいけるかもしれない―――先程の一発は色々足らない部分がありましたから敢えて使わないでいたものでしたが、限界を突破したこの数値ならば今度こそ防ぎ切れる!!
竜吉公主は―――ただ異界に飛ばされそこから戻って来ただけではありませんでした。 飛ばされた世界での、ある意味での“自分”と向き合う事で新たなる権能を手に入れていたのです。 それこそが≪雲蒸竜変≫―――自分を含むそれ以外の者達への能力の付与、それも限界値とされている数値を突破して。
そのお蔭もあってか、満を持して放出された寂滅砲も、ササラの『エクスストリーム・ガード』の前では無意味に等しかった……ただ、それで終われば良かったのでしたが。
「クッッ……こ、こんなはずでは―――ですが皆さん、怖気づいてはなりません、皆さんが怖気づいてしまえば誰が“神”への信仰を捧げるのですか。 確かに今、私達は苦境に立たされているのかもしれません、なればこそ―――ここで奮い立ってあやつらの心を挫いて差し上げようじゃありませんか!!」
「(フゥ…)ヤレヤレ―――周りがよく視えていないというのはこうまで悲しいものなのね。 ねえあなた、これは最後通牒よ。 大人しく我等に下りなさい、さすれば命だけは助けて差し上げましょう。」
「フン―――何を世迷い事を!誰がお前達の様な穢らわしき存在からの甘言に屈するものか!」
「今の……私の言葉が甘言? まあ私の事を悪く言うのは構いはしないけれど……あなた以外の仲間達はそうではないようね。 おそらくあなた達が放出したモノは、お仲間達の生命力や魔力と言った命に係わる大事なモノを他者への攻撃手段に置き換える事で放出する事が出来ると言った類のモノ……こんな、私達の魔界に於いても下の下とされ、使う事を禁じたモノと同じ様なモノを連続して使えるわけがないじゃないの! それに、あなたはそうした危険性を知ってか知らずか連続して使う事を強要させた……あたら仲間達を管理する立場ならどうしてそう言う事が出来るの?それはあなたが仲間を所詮便利な道具とでしか認識出来ていないからでしょうが! そうした甘えた考え方―――この私がぶちのめす! ≪雲蒸竜変≫」
なにも……竜吉公主が異世界で習得してきたのは、≪蛟竜雲雨≫だけではありませんでした。 そうもう一つ……それが≪雲蒸竜変≫だったのです。
≪蛟竜雲雨≫は能力行使者の仲間全員に付与をする
そしてこれによって、見事『三聖者』の一人『大司教』を撃破……あとは、大聖堂奥深くでの、最終戦の結果を待つだけなのです。
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