第4話 ニュクス―――再び

初めて見る相手から、謂われなき殺意を向けられるシェラザード。

喪失うしなった国を取り戻すため―――立て直すためにと生き恥を晒し、逃げ延びたと言うのに……全く通用しなかった自分の高い潜伏能力ハイディング―――それであるがゆえ、抵抗ままならないままシェラザードは捕縛されてしまいました。


そして今回、自分の国を滅ぼした者達の前に引き出されるシェラザード。

その外見上みかけのうえでは、シェラザード自身が知るヒヒイロカネやクシナダとさして違わない様にも見えた……。

それが「ヒト族」―――この魔界に息づく“魔族”の一種……なのに、王国を滅ぼした“集団”を統率する者が口にした一言。


『汚らわしい魔族め』―――



何を言っているんだ、こいつは……あんたも、魔族の一人じゃないか―――



魔族の一種属であるヒト族が、同じ魔族であるエルフ族に敵意を―――殺意を向けて言葉を放つ……。

けれど、シェラザードにはこれと言って人族とは揉めるような覚えが何一つとしてない……その上でも、“別”の意味でも理解はしていました。



けれど……こいつらから感じる雰囲気は判る―――

『ラプラス』―――あいつらと一緒だ!

だとしたらこいつらは……?



そうした疑問も定まらないまま、目の前の“魔族”を害する為に振り上げられる剣―――。

早―――シェラザードの命運、ここに潰えたか……と、そう思われた時。


「―――お待ちになられて下さい……」

「―――どうした……」


「どうやらこの者が『グリマー』のようです。」

「なに―――? こいつが???」


少し知力が高めの存在が、この者達の統率者と見られる男性に対し、自分が上位の人達から呼ばれていた“”を呼んでいた。


『グリマ』―――「躍動せし光」……


しかし?なぜラプラスが自分の事をそう認識するのか。


「一説によると、グリマーはただ殺すだけではその意味を為しません。」


「そうだったな―――ただ殺すだけでは、その特性が中空を舞い、また新たなる可能性を求め依り憑くと……そう教会から聞いている。」


「―――で、あれば……手段は一つ。 その“信念”“信条”、いわゆる『魂の根幹』と言われているものを貶めおとしめ穢すけがすことで限りなく弱めさせるのです。 くびきを断つのは、それからでも遅くはないか―――と……。」


「ふむ……ではどうすればいい。」


「手っ取り早い方法といたしましては、その名前を抜き、身分を奴隷にして、この場所に「奴隷市場」を建て、“目玉商品゜”として見世物にするのがよろしいかと……。」


「なるほどな―――『賢者』。 ではその役目は誰にやらせるのがいいか。」


「適任としましては、やはり『魔術師』がよろしいかと―――。

これ、我らが“救世の主ぐぜのしゅ”『勇者』様の御為おんためです。 その苦痛と共にこの魔族の女の名前を抜くがいい!」


聞き慣れない言葉―――

   『勇者』―――?  『賢者』―――?  『魔術師』―――?


そうした疑問を晴らすのも赦されないままに、シェラザードの全身を激痛が迸るほとばしる

けだものの様なを上げ、激痛に―――肉体のみならず精神すらもかれる感覚に耐え、『シェラザード』と言う名前が抜かれてしまいました。


しかも一旦抜かれた“”は、再び取り戻すのが困難むずかしい……。 その対策法とはササラが言っていたように、深い絆で結ばれた者の『“”のびかけ』によるものでしたが―――しかし、ここで計算違いが生じました。


恐らくは、このラプラス達の思惑には、魔族如きに自分達の様な絆の繋がりなどない―――ものと思っていた……。

なにしろ魔族は、『悪しき者達』なのだから―――と、多寡たかを括ってさえいた……。

しかしそうした中で『勇者』なる者達の一党が施した策は、悪友よきともの力を借り意味莫きモノとすることが出来ました。


        * * * * * * * * * *

そして、これまで自分の身に降りかかった災厄わざわいの事を徐々に思い出してきた者は……


「ねえ、ササラ……一つ聞いていい?」

「なんでしょう?シェラさん。」(ムヒ?)


「『勇者』『賢者』『魔術師』って言う連中、何者なの?」


シェラザードがその単語を口にした途端、黒キ魔女の顔色がんしょくに動揺が迸りはしりました。


「それを……どこで―――? いえ……まさか―――?」

「エヴァグリムを滅してくれた者達か、どうかまでは判らない……けれど、逃走していた私を捕えたのは、間違いなくそいつらだよ。

けど……その反応―――知っているんだよね?」


「私も……師より聞かされた話の上でしかありませんが、ならば聞かれてみますか? 我が師ジィルガに―――」

「あーーーあの人なあ~~ちょっと苦手なんだけど―――この際仕方ないか……。」


ササラも、その名称だけは知っていた。

けれど詳細までは知らない―――……

だからこそ……


「何用かね?」


美少女のなりをしていても、その“声”だけは渋いと言っても過言ではない―――重低音に響く『老年男性』の声色こわいろ……。

しかしながらこの魔界に於いて5000年もの歳月を紡ぎ、これまでの歴史なにもかもを見てきた存在生き証人……だからこそ、この者達の存在の事を知っているかもしれない―――……


「ほう―――『勇者』……」

「はい―――。」


「ついに、“あやつら”が担ぎ出されて来おったか。」

「“あやつら”―――って?」


「エルフの王女よ……いや、今は違うな―――ではシェラザードよ。 あやつらはナレの事を把握しておらなんだか。」

「そう言えば……私の事を『グリマー』って―――」


「やはりな……それで?」

「『勇者』―――って呼ばれてたヤツは、エルフである私の事を魔族ってだけでこの首を刎ねようとした……。

けれど、その事を止めさせ、魂を貶めるおとしめる事……穢すけがす事で、私に内包されている『光』を弱めさせると言っていた……。

実際には、『賢者』ってヤツが言っていたんだけど、あの感じじゃ別の何者かに吹き込まれた―――って感じだったなぁ……。

ねえ―――ジィルガ様、私が『グリマー』って事は、この魔界せかいなかだけの話しであって、別次元の知性と呼ばれている『ラプラス』達には知られていない、そのはずですよね??!」


冒険者達自分達でさえ聞いた事がない―――『職業』

けれど、若い二人には耳慣れないモノでも、若くはないにとっては―――


「(……)なあ―――“お客人”? 何か言いたい事でもあるかね。」


「(……)フ・フ・フ―――成る程な、攻め方としては最善の判断だ……。 それに、お前の方でも把握しているのだろう?」


「いや―――“あやつら”の事に関しては、“あやつら”と同じ世界にいたナレの方が詳しかろう。」


「ああ……その通りだよ、『死せる賢者リッチー』! やつらこそは、ラプラスの中でも最上位種と言っても良い。

その外見みかけは人間のように見えるものの、その内包する能力などは“わたくし”達よりも高い。

“高い”攻撃力―――“高い”防御力―――“高い”魔力に“高い”体力。

それに加え伝説級の武器や防具、優秀に過ぎるスキルを備えた“わたくし”達よりも一等化け物の様な化け物じみた存在……。

『勇者』を筆頭とし、『賢者』『魔術師』『弓兵』『僧侶』『格闘家』『盗賊』など、枚挙するに暇もない―――

ただ……こやつらには“”などない、“”を持ち合わせぬからこそ、彼の世界の造物主の言いなりにすぐに従ってしまう。

お前達も考えた事があるか―――造物主を妄信し、狂信した結果どうなるかを……。」


『勇者』や『賢者』今までにも聞いた事がない者達と同じ世界の出身だったからこそ、魔界一の頭脳と言われたジィルガよりも確かな知識があった。

それに先般の侵略の件に於いても、かつての同じ世界の者達を裏切るなどして撃退させる事に手を貸していた……。


ただ、それだけならばまだしも―――


「まあ……その造物主とやらも、“善”であれば―――の話し……なのだがな。」




つづく


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