第5話 光の珠

『勇者』……『賢者』……そんな者達がシェラを?

                  許せない……   赦せない!


不可侵の領域を侵犯おかされ……存在の“よどみ”が始まる

そう、これは“始まり”なのであって、始まってしまえば中断など出来るはずもない

ただ、彼女のなかに同居する者は気付いてはいました。


しかし―――ながら 気付いてはいたものの、何をするでもなかった。

ただ大海原に、その海面みなも揺蕩たゆたう小舟の様に、己の存在を浸し、任せた……ゆだねた―――


それはそうとして―――


「『その造物主ぞうぶつしゅとやらも“善”であれば―――』って、どう言う意味なんですか、ジィルガ様!」

「その言葉通り……まあ一つの例えとして、その造物主ぞうぶつしゅの事を『神』と仮定しよう、ただ、その『神』なる存在も『“善良”ばかりではない』―――と、言っておるのだ。」

「つまり、“悪”なる存在もいることはいるのです、聞いた事がありませんか? 『邪神』や『悪神』のたぐいを。」

「聞いた事―――って言うより、見た事、読んだ事ならあるよ……。」

『その“呼称よびな”の方が的確やもしれんな。 いわゆる『勇者』だの『賢者』だのとのたまう奴は、信奉する『邪神』の尖兵なのさ!』

「ちょっと待ってニュクス……じゃあ―――その……」

『察したようだな『グリマー』、そう言う事だ―――“わたくし”はその邪神に最後まで抗い続けた、ただそれは賞賛などではない―――最後まで抗い続けた“逆徒ぎゃくと”として位置づけられ、見せしめのためにこの地に遣わされたのだ!!』


なん……だよ、それ―――

それじゃまるっきり、この人は被害者じゃないか……

邪悪なる神に盾突いてきた―――それがどうして闇に染まり切らなければ……



170のよわいを重ねても、まだ“若輩”であったシェラザードにはそこの処が判りませんでした。

“力”によって屈服をいられながらも、“見せしめ”をいられながらも、忘れる事はなかった『復讐』。

けれどその原動力は“怨み”であり“呪い”だった……だからこそニュクスは闇へと堕ちたのです。


こうして自分が疑問としている事が払拭できたシェラザードは、これから自分達が取るべき行動指針ロード・マップをこの4人だけで決め、一路マナカクリムへと引き返すのでした。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


その一方―――


{なに?エヴァグリムが―――?}

{はい、なんでも噂によるとラプラス共によって―――だとか。}

{またあの者共が?しかし―――……}

{はい―――私も少し妙と思い、調査をしてみました。}

{それで……?}


定期的に互いの情報交換をしていた竜吉公主とウリエル、そんな2人の間で交わされたのはエヴァグリム消滅の報でした。

そしてその事象に関わっていたとされる、―――……


{『勇者』に『賢者』!}

{この私達でさえ口伝でしか伝わっていませんが、あの者共がかつぎ出されたとなると……}


竜吉公主にウリエルの両者も700年以上もの時を紡げてきた……にもかかわらず、彼女達も“ヤツラ”の実態に関しては知らなかった。

しかし、だけは知っていた―――『勇者』を筆頭とする命知らずな向こう見ずな者達は、この魔界に於いては大いなるわざわいである―――と。

けれどそれを知ったとしても、ここで怖気づくわけにもいかない。

今を生きる自分達が“ヤツラ”を食い止めなければ、魔界この世界は“ヤツラ”のモノと成り果ててしまうのだから。


けれど―――?


{勿論この事態は、魔王様も存じ上げておいでのハズなのだな?}

{当然そのハズです、なによりあの方の持つ情報収集能力は我らのそれを遥かにしのぎますからな。}

{ふむ……しかしそれにしては妙だな―――なのだとしたら、もう既に布令ふれの一つも出てもよかろうものなのに……}

{言われてみれば―――しかし、何らかの手立ては講じているハズです。}


しかし―――この後1年、魔王からの布令ふれは出る事はなかった……魔王カルブンクリス程の者が、まさかエルフの王国が滅亡ほろんでしまった事を、知らないハズがない―――


ですが……『ハズ』―――そう、言わば“希望的観測”、『そうなってくれればいい』―――と言う、願望。

『グリマー』であるエルフの王女の国が、ラプラス共によって滅亡ほろぼされてしまった―――しかも事の経緯を聞く限りでは、王女は虜囚りょしゅうの憂き目にさらされ、奴隷の身に堕とされかけたとも言うのに……



        なぜ動かない―――?    なぜ……魔王様は―――



竜吉公主自身、深く関わり過ぎてしまったから―――こそ、王女の国や王女自身が侵犯おかされた事を心配したものでした。

しかし一年―――『エヴァグリム滅亡』と共に『奴隷となってしまった王女』の凶報も耳にした。

一年―――経つというのに、特段として魔王からの施策方針は何もありませんでした。

『なにもしない』……まるで見放した―――見捨てたかのように思えた、見えてしまった……

『なにもしない』……魔王の下には優れた部下もいると言うのに、『動かした』との話も聴こえてこない……


だからこそ―――


「(……)―――見つけたわよ、ベサリウス。」

『何用ですかい? 公主さん―――』

「あなた何をこんな処でぶらついているの、ちゃんと魔王様の部下として―――」


あ゛あ゛~~~あ゛―――面倒臭ぇって時に、面倒臭ぇお人に絡まれた事もあったもんだ。 けど、これでいいんですよねえ? 主上リアル・マスター―――『求められちまった』もんですから、色々話させてもらいますよ。

ええ~~それゃもう“色々”と―――ね……



マナカクリムで特に何をするでもない―――いわばぶらついているベサリウスを見つけ、凄い形相で詰め寄って来る“自称ちゃんアンジェリカ”、その事に、殊の外自分を目の敵にするこの女性から特に『面倒臭い事』……

そう―――ベサリウス自身の主上リアル・マスターである方からあらかじめ言い含めさせられていた事…………


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「皆も―――エヴァグリム滅亡と、それに関わる王女奴隷化の事は耳にしていると思う、そう……つまり“あちら側”が愈々いよいよ魔界の征服に向け、本腰を入れてきたと言う事だ。」

「お畏れながら魔王様―――発言する機会のお許しを。」

「いいだろう侍従長サリバン―――発言を許可する。」

「ありがたき幸せ……では、お一つお聞かせ願いたいのですが、ラプラス共はなぜ彼の国を?それに王女を……?彼の国の王女様が『グリマー』である事は魔界こちら側しか知らないハズでは?」

「いや……そこはもう希望的観測を述べるべきではない、そう言う事だ、気付いてしまった者がいるのだ。 “あちら側”の『教会』なる集団が、この私の『闇の衣』に対抗し得るたった一つの有効的手段―――『光の珠』なる存在に。」

「『光の珠』―――……」

「『閉ざされた世界』と言われている魔界―――その魔界の中でも一際ひときわ強く輝ける『躍動せし“光”』こそが『グリマー』……この存在性が正常に働いていれば私達に大いなる恩恵をもたらしてくれる、だが……おとしめられ、さげすまれ、はずかしめられ、けがされ―――そしておとされ―――正常に働かなくなってしまった時、“光”は最大限に弱まってしまう、そしてそのタイミングで生命を断たれてしまえば―――」

「まさか―――ラプラス共でも扱う事は可能だと??!」

「ローリエの時は段階を踏んでいなかったから、その死と同時に『グリマー』としての特性は次代つぎなる『グリマー』―――シェラザードに受け継がれた。 私も迂闊だったよ…例のシステムの構築を急ぐあまりに注意力は散漫だったようだ。

だが、今ここで過去を振り返ったとしても、もう戻りはしない、遅きに失してしまったかもしれないが、ここで講じ手立てだては打っておく。

だからと言って口外は一切してはならない―――万が一口外して情報が漏洩するようなことがあるようならば、それが例え私の臣下だとしても厳罰をもって対処することを最初にここで宣言しておく!」



       ただ―――“求め”られれば、その限りではない……





つづく



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