第4話 花嫁の怨霊
扉を開くとそこは暗闇に包まれた玄関だった。無人の
ラティナは
(そんな
新たなに加わった
「分かりました……。さ…さぁ、わ…私から離れずに
ラティナは舌を噛み、体を震えながら歩き出した。
「……体震えてるぞ。ビビッてるのか?」
「はい……。人が
確かにただでさえ日差しが射さない上に
「ディアボロスには霊体となって壁や床からすり抜けたり、物に憑依したりしては不意を突こうと密かに隠れて襲い掛かる者もいます。気を引き締める
アリアに言われてからリゼルは周囲を見回して警戒しながら恐る恐ると暗闇の中の奥へ進むラティナの後を付いて
ラティナが奥の扉を注意しながらゆっくりと開けるとそこは太陽と翼の生えた美しき聖女
結婚式場に相応しき壮大で神聖だった場所の奥、祭壇の前にラティナ
ラティナはリゼルとアリアに顔を見合わせた後、ゆっくりと足音を立てない
「ひぃっ!!」「……っ!!」
ラティナは思わず驚いて恐怖の声を漏らし、リゼルも悲鳴を出さなかったものの驚かずにはいられなかった。
「あれはディアボロスのブラックトゥース」
アリアだけは冷静に化物の正体を明かした。どうやらあれこそが聖堂に住み着いた化物だろう。
花嫁姿の化物ごとブラックトゥースと言う名らしきディアボロスはお歯黒の口でゲラゲラと笑い出し、不気味さを増した。
リゼルはその不気味な見た目の余り恐怖で後ろ一歩引きそうになったが自分の
「……なんかあれ、笑っているだけで攻撃してこないな……」
「ブラックトゥースは普段、人を脅かすだけのディアボロスです」
「え、それだけの奴なのか?」
「ですが逃げないと分かると……」
ブラックトゥースは笑うのを
「あ……」「ん?」
「襲いかかって来ますので気を付けて下さい」
「キシャァァァアァァ!!」
アリアの言う通り、ブラックトゥースが奇声を上げて襲いかかって来た。足は無いが見た目通りの悪霊なだけに低空を滑る
リゼルも
「らぁ!!」
リゼルは硬化した右手で襲いかかる花嫁姿のディアボロスに向けて斬りかかった。
ガギィィィィィィンッ!!
金属同士がぶつかり合うと生じる高い音が鳴り響いた。
リゼルの攻撃が防がれた、黒い歯で。
(こ、こいつの歯硬っ!? 鉄かよ!?)
「ぐっ!!」
リゼルは鋼鉄以上の硬い歯をぶつけて振動に来た右手を押さえながら
リゼルは
(くっ……こいつ、思ったよりも早い上に、なんて力なんだ!!)
ブラックトゥースは見かけに寄らず力が強かった。それはリゼルが抑え込むだけで手一杯になる
「リゼル様!」
「ここは私に任せて下さい」
リゼルを助けようと飛び出す直前のラティナを静止してアリアが前に出る。
《
害する敵から命を守る
アリアの
虹色から一瞬黒色に変わった線は障害物となり、ブラックトゥースの本来、目に当たる部分にぶつけてリゼルから引き離した。
「グギャッ!!」
アリアの《スレッドオブトレイサー》から次々と線状の障害物を作り出し、花嫁姿のディアボロスを抑え込んだ。
「ブラックトゥースの属性は鉄。全身、鉱属性のエレメントで構成されたディアボロス。ここは“場”属性の
ブラックトゥースは障害物の線を噛み付いたり、腕で力の限りに引き千切ろうとしたりと試みた
「私の霊装は鋼線の
ブラックトゥースは線の破壊をする
「アリアちゃん!」
「磁場の精霊よ、アリアは願います。磁力の鎖で
アリアは詠唱からの発唱を唱え、
アリアが発動させた理術(りじゅつ)の“場”属性とは“土”と“風”のエレメントを混合させる
アリアが作り出した円型図形からの磁場に捕まったブラックトゥースは
「やはり鉱属性のエレメントを媒介にしたディアボロスには場属性の
アリアが独り言を
「さぁラティナ様、今の内です」
「ふぇ? 今の内って……私ですか?」
アリアから急に指名されてラティナは驚いた。
「はい。ラティナ様は
年若き子供の割に落ち着いた大人ぶりに話すアリアに
「分かりました。任せて下さい」
了承したラティナは動きを封じられたブラックトゥースに近付き、《アンペインローゼ》を振り下ろした。
「えいっ!」
「ガッ⁉」
傘型の
ラティナの
「クゥ~、グギガァァアアァ!!」
それでも悪意を下げて欲しくない理由があるのか、ブラックトゥースはラティナの緩和による癒しの治療を拒もうとかつてない程の力を出して、磁場と《アンペインローゼ》から逃れようと更に足掻いた。やがて地面に張り付けられた体が腕立て伏せの体勢で少しずつ上がり、磁力による縛めが力づくで、破れそうになった。
(やはり俺が仕留めるしかない
リゼルは動き出そうとするブラックトゥースに向けて攻撃しようとした。アリアも再び《スレッドオブトレイサー》を使ってリゼルを援護しようとした。すると、
「お待ち下さい!」
静止の声を出したラティナは、《アンペインローゼ》を傘形態から花びら状の六枚の翼に変えて、ブラックトゥースに抱き着いた。
「もう
ラティナの《アンペインローゼ》の翼もブラックトゥースの体を包み込み、怨霊と化した異形の花嫁の魂に緩和の癒しをもたらした。
ブラックトゥースは
「うっ!!」
痛さの余り、苦痛の表情となるラティナ。
リゼルは思わず駆け込もうとするが、アリアが無言で止める。
「……私は心を少しだけ理解する
肩の痛みを
「
その言葉に花嫁姿の悪霊は動揺した。当たりの
「
「……」
ラティナの同情の言葉と能力の《
「もう邪魔をする必要はありません。ここは私に任せて下さい。だから……もうお休みになって下さい」
すると、ブラックトゥースの体が
白い光が収まるとなんと顔が大きな黒い歯だけの異形の姿から変わり、少々透かした青白い幽体だが、目や鼻がちゃんと付いた人間の女性となった。
「元の姿に戻られたのですね」
ディアボロスとは死後に未練や怨み
『私は……あなた達に酷い
歯黒のディアボロス、ブラックトゥースだった幽霊の女性の話によると彼女は子供の
頃からの夢だった花嫁に
「それは…本当お可哀想に……」
幽霊の女性から話を聞いたラティナは同情で涙を流した。
「それでジュリアさんとの関係は?
『大した
ジュリアは知事の娘だ。顔見知りではなくても彼女の
「では…ジュリアさんの相手の人はまさか……」
『
聞いた
「あ、あんた、体が!!」
『ああ、
この世の未練が完全に無くなった彼女の魂はこの地から離れ、魂の故郷である“遥かなる天界”へ旅立たなくてはならなくなった。
『私はもう死んだ母さんと父さんのいる“遥かなる天界”へ
「待って下さい。指輪を、
『
「そ、そんな」
「それなら心配ありません。私の
「本当ですか⁉」
「はい」
「それじゃあ私はここで。本当にありがとうございました、優しい聖女様とお
女性の幽体は消え、青白く燃える
「さようなら……。
ラティナも別れの
光の球と化した女性の魂は天へと昇った。
「……あの人は昇天した……って
「はい……、未練が無くなったからあの人の魂は天へ昇って
祈りの姿勢を解いたラティナはアリアの
「アリアちゃん、ありがとうございます。今回はアリアちゃんのお陰です」
「いえいえ、礼を言われる程ではありません」
「俺は何も出来なかったがな。はぁ……」
リゼルは肩をすくめてため息を
「所でラティナ様、肩のお
「あ、大丈夫です。まだ痛みは
ラティナはブラックトゥースに噛まれた左肩を見た。噛まれた傷から真っ赤な血が出ていた。
「血ぃ嫌あああああああああああああ!!」
自分が最も苦手な血を見てしまったラティナの悲鳴が雨の聖堂に響き渡った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「そうですが……。そんな
一時の恐慌から落ち着きを取り戻したラティナは回復の
「それで指輪の
「はい、アリアちゃんは
ラティナはすっかりとアリアを信頼していた。
「そうですか。それでは、ジュリアお嬢様に呪いをかけたと言うあの怪…ディアボロスも退治されたから呪いももう解かれたという
「そ、それは……まだ…分かりませんが……」
「ま、まだ何が問題でも……?」
「い、いえ、問題は……もう特に無い…と思います」
実の所、まだ気になる疑問があった。
ジュリアに火を噴く呪いをかけた犯人はブラックトゥースだった女性なのか。
ジュリアは本当に婚約者との結婚を望んでいないのか。
ジュリアは恋人だと言うポギーは一体
「でしたら、私が
「はい、大丈夫です。連絡する
「北の森でも化物、ディアボロスが出ると言う
「分かりました。ご忠告、ありがとうございます」
「では
「はい、指輪を探しに北の森へ」
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