第2話 呪われた花嫁
開いたドアの先、部屋は来客や食客を泊めるための客室であろう広く天井も高い部屋だが、どういう
「……寝ているのか?」
何やら警戒に確認している様子のオーロック。
「今あちらに寝ているのが私の娘ジュリアです」
ベッドの上には依頼人であるオーロックの娘だろうか
「お
オーロックとロトン、盾を持った使用人が順番に慎重そうな足取りでゆっくりとベッドに近付く。
「気を付けろって……」
「あの~知事さん、娘さんの
先行した四人の後を付いて行きながら質問するラティナ。
「……その
オーロックが答える直前、眠っていたジュリアが起き上がった。
「ジュ、ジュリア!」
突然、目覚めた娘を見て、何やら
ジュリアは、美しい顔立ちと体付きの
「ごほっ! ごほっ!」
ここで表情が変わり、
「こ…これはいかん‼
「え?」
「ごほぉーーーっ‼」
三度目の
「「わあぁぁぁっ!!」」
「あ、《アンペインローゼ》‼」
「水の精霊よ、私は願います。
最後に必要な言葉、“
「ふぅ……
「あ…ああ……」
「知事さん、もしかして今のジュリアさんが火を
「はい……今のが、娘にかかった奇病です……」
オーロックはジュリアの身に起きた
「六日前の夜、北の森で倒れているのを発見しました。その後ジュリアはどういう訳か
「つまり娘さんが
「はい……」
リゼルの発言に対し、暗い気持ちで知事は返答した。
「でも確かにそれは普通では在り得ない病気ですね。ん~、
「いいえ。
「そうですか……」
オーロックは頭を下げた。
「お願いです、聖女様‼ 娘を…ジュリアを元に戻して下さい‼ お願いします‼」
「分かりました。任せて下さい」
「ほ、本当ですが⁉ ありがとうございます‼」
「治せるのか?」
「何とかして見せます。
「はい、分かりました。それでは何か欲しい物か手伝って欲しい
オーロックはポケットから
「
「これはブザーと言いましていわゆる呼び
「分かりました」
ブザーをラティナに渡した後、オーロックとロトン、使用人
「リゼルさんもここに
「お手並み拝見だ。気にすんな」
リゼルはラティナが回復役として役に立てるかどうかの腕前を確かめるつもりだ。ジュリアから離れている場所に
「そうですか、分かりました」
こうしてラティナの
「申し遅れました。私は共和国領のプランタンから来ました
診断と治療の前に最初はあいさつからと笑顔で
ジュリアが
「……ジュリア・クライン……です。あなたが、お父さんが言ってた私の病気を治してくれる聖女様ですか?」
口から火は出なかった。どうやら
実年齢はラティナの方が上だが、外見的には十七歳
ジュリアの表情はさっきまで不機嫌な顔だったが今はラティナに不審の眼差しを向けていた。
「はい」
「……本当に私の病気を治せるのですか?」
「はい、必ず治して見せます」
ラティナが明るく自信を持って答えるとジュリアの顔は希望を得た笑顔ではなく、
(あれ? 何だが嫌そうですね……)
「あの~……治療は嫌ですか?」
「……ごほぉっ‼」
「ふわわっ⁉」
再び
「ひ、《
ラティナは
「な…治らないと不便ですよ? 体もずっとベッドに寝たままで動けませんし、このままだと体調の悪化とか体力の低下で死ぬかもしれませんよ?」
「……ちっ……」
(今度は聞こえる
「そ…それではまずは診断から始めます。体温を
気にするよりも診断と治療を優先にしようとラティナは言った後、右手を伸ばし、ジュリアの
《温度計算》
ラティナは
赤い光の球に触れたジュリアの
「……体温は三十八度……微熱程度ですね」
「体温が分かるのですか?」
「はい。さっきの
ラティナはすぐに背負い
「水の精霊よ、私は願います。熱に侵された身体を
「はいどうぞ、ミネラルがたっぷりの
「はい……」
ラティナから水入りのコップを渡されたジュリアはゆっくりと飲んだ。
「……
水が
ジュリアが水を飲み
「あの~リゼルさん。これからジュリアの体を拭いて汗を取りますのでしばらくの間だけ反対の方向へ向いてもらえませんか?」
「ん……」
リゼルは
「それではまずは服を脱がしますのでじっとして下さい」
「ちょ、ちょっと! 本当に大丈夫なの!? 彼、こっそりと私の裸を見たりしないでしょーね!?」
「え~と……」
ラティナは再びリゼルを見た。
リゼルは毛皮で
「はい、大丈夫です」
「そう……信用しているのですね?」
「はい」
「分かりました……。なるべく早く済まして下さいね」
「はい。それでは上の服だけを脱がしますね」
ジュリアの寝間着を脱がし始め、上半身のみ彼女の大きな胸が
胸鎖骨関節の辺りに奇妙な紋章らしきものが刻まれていた。黒色の線と丸で門と思える形に描かれていて、ラティナから見て、それば
「あの~ジュリアさん、胸の紋章みたいなものは
「……分からない。気が付いた時からありました」
ジュリアは両腕で胸とその上にある紋章を
「……」
それからラティナはジュリアの体中の汗拭きを
時々出す火の吐息に注意しては避けたり、《アンペインローゼ》で
ジュリアの食事を終わらせた後、
ラティナはリゼルと共に食堂で用意して
【
薬を飲ませた後、ラティナはジュリアにあまり刺激しない程度に質問をしまくった。誤魔化す
質問はここまでにして今度、ラティナは
気付いたラティナは眠っているリゼルの
「……ラティナ様。今度は私からも質問よろしいでしょうか?」
「はい、
「リゼル、さんだっけ? あの人とはどういう関係ですか?」
「関係は……実はリゼルさんとは最近知り合ったばかりなのです」
「最近知り合ったばかりなんですか?」
「はい。六日前に出会いました」
「その割に随分と信用してますのね」
「確かに出会ったばかりで
「単純なのね……」
「ふえ?」
「気のせいですよ。それよりも私もそろそろ眠くなってきました」
「どうぞ、早いうちに寝るのが一番です。お休みなさいませ」
「お休みなさい……」
そう言いながらジュリアは眠りについた。
ラティナも寝ようと敷布と枕を取り出した。ジュリアの体調に急変が起きた時のためにここで寝るつもりだ。
(今日は本当に起きてから色んな
そう思いつつラティナの意識は眠りの世界に入っていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
オルタンシアに来て初めての朝を迎えた。
目を覚ましたラティナはジュリアを診て確認した後、報告しようとブザーを押して使用人を呼んだ。オーロックは今、食堂で朝食を取っていると教えて
「知事さん、おはようございます」
「あ、聖女様、おはようございます。ジュリアの病気はもう治りましたか?」
「はい。熱の
「熱の
「はい、どうやら
「……別の……? ……そう…ですか……」
オーロックは顔を下へ向けがっかりした。
「ジュリアさんの火を噴く奇病の正体はやはり“呪い”と思われます。ジュリアさんの体に恐ろしい気を感じる紋章みたいなものがありました。恐らく誰かに呪われているかもしれません」
「
「呪いというものは二種類あります。一度対象物にかけたらそれっきりの聖属性の回復系
「そう言われましても……いや…待てよ。まさか……もしかしたら……」
「心当たりがあるのですか?」
「はい。実は聖女様にはもう
「その犯人とは?」
「出たんですよ……」
オーロックの口調が重々しくなった。
「出たって……まさか、ディアボロスですか!?」
「はい、一週間前、ジュリアが奇病、いや呪いにかかった日の夜、同じ時間帯に顔が口だけの白い化物がこの町に突如現れ、娘の結婚指輪を盗んで聖堂に閉じこもりました。そうだ、呪いもあの化物の仕業に違いありません!」
「ジュリアさんの結婚指輪ですか? それてもしや……」
「はい、ジュリアは近々、結婚をするんですよ」
「やっぱりそうなのですか~」
「しかし、ジュリアはあの通り、火を
説明しながら涙ぐむオーロック。
「このままでは結婚は出来ません。聖女様、娘の幸せの為(ため)にもどうか呪いと化物から聖堂と指輪を取り戻して下さい! お願いします!」
「分かりました。全部何とかしてしましょう」
当然の
「お~
依頼を受け入れてくれたラティナに感激するオーロック。
(でも本当にこれで
ラティナの心の内は少し迷いを
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