第7話 “騎士の聖女”と“蝶花の聖女”
ラティナが目を覚ました時、見覚えのある天井が見えた。
「……ん~…ここは……」
そこは見慣れた部屋。ガリア大陸の共和国領の花畑の国プランタンの大聖堂のラティナの部屋だ。
どうやらラティナはベッドの上で眠っていた
「起きましたか、ラティナ」
聞き覚えのある声がした。
ラティナの目の前に神秘の魅力を持った美女が
「ジャンヌさんとポリッチェさん?」
「お久しぶりです。三ヶ月前の新年会以来ですね」
彼女こそがプランタンの
「やっほーラティナ~、元気~? も~三日間も寝てたんだよ」
無邪気な笑顔で気楽に話しかけて来た
「どうしてお
普段は各国の大聖堂で人々の治療を
「それはラティナが
ラティナの疑問にポリッチェが答える。
「あ……そうですが。……それは申し訳ありませんでした……」
「気にしないで
ポリッチェは、生まれはラティナと同じプランタン出身だが、ユグドラ大陸のみ生息している妖精族の血を半分引いているため、アルヴヘイムに
するとポリッチェはラティナに近付き、彼女の服をいきなり
「ふわっ!?」
「お腹の傷、もう無いけど具合はどう?」
ポリッチェの言葉にラティナは自分の腹に
「そ…そうだ、私……」
「普通の人間だったらそのまま死ぬけど……、さすがね、ラティナ」
「ふえ? お
「途中まではジャンヌが治したんだけど後の仕上げはラティナ、あなたが……って、あっ、そうか…あなたにとって初めてな
「つまり、ラティナが死にかけて気絶しても「ここで死ぬ訳にはいかない!」という根性?みたいな本能的精神が働いて自分で自分の
エンジェロスとはつまり、肉体を持った精神生命体。
善意の心を完全に
ラティナは見た目から十七歳
「……エンジェロスって本当にすごいのですね」
ラティナは、今は完治した、杭で
(私…血を出して死にかけていたのですね……)
「ラティナは一回死んだからほんとの意味でエンジェロスになれたんじゃないの?」
ポリッチェの言葉を聞き入れるとラティナは頭の上を右手で何かを探す
「……いいえ、どうやら私の頭の上はポリッチェさん達と同じ“
霊装の翼が
彼女はエンジェロスの母と人間の父の間から生まれた、ハーフ・エンジェロス。生まれてラティナという名を与えられた時からすでにエンジェロスの資格を半分持っていた。それは天使とただの人間の間から受け継いで生まれた
「……はっ! そうでした! それよりもリゼ…“
「落ち着きなさい、ラティナ」
ジャンヌは一気に多量の質問を聞き出そうとするラティナを
「今度は私が説明しましょう。私がプランタンに来た理由を含めて、
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
話は三日前に
だが、アップ・グリーンパークに着いた時、今回の事件の首謀者の一人であるカワキは
ジャンヌ以下救助隊は救助した理術使い達を連れてプランタンに入国し、直(ただ)ちにラティナの治療を行った。その後にジャンヌは未熟なラティナに代わってプランタンの理術使い達を統括する最高顧問の大神官、補佐官のサラとリオ、ラティナの代わりにアルヴヘイムから派遣されたポリッチェ、そしてたった今戻って来た守護騎士団の団長、他数名を大聖堂の会議室に呼び集め、現在の状況を伝えた。
「……以上、私達がアップ・グリーンパークに着いた時の状況です。聖女ラティナの
ジャンヌの言葉からラティナは死んでいないと分かり、集められた者達は心から
「しかし…まさかあの“
大神官は“白き聖女”が命と引き換えに封印した“
「悪い出来事は
「スルト教団と“
今はどうにかすべき“敵”の行方はジャンヌの付き人として共に救出隊として
「そうですが……どこに行ったのか分からないという
大神官はため息を吐いた。
「帝国政府に今回の事件についての文句を言った所、首謀者であるカワキは協定を違反して勝手にやった軍の裏切り者であって帝国とは無関係だと返答返されました」
続いてリオが今回の事件の関わっている
「無関係だとっ⁉ ふざけおって‼」
プランタンの守護騎士団の団長、ブルボンが声を荒げさせて席から立ち上がり、うっかり壊しそうな勢いでテーブルを叩いた。
年老いても
「い、いえ、帝国側も申し訳がないと思って
「そんな言葉だけで
歳を取ってしわだらけになったブルボンの顔は絶頂の怒りで真っ赤になっていた。
「団長、落ち着きなさい」
ジャンヌが
「しかしですぞ!!」
「も~忘れたの? 怒って暴力まで振るおうとすると精霊達に嫌われちゃうし、あたしもそんなブルボンなんて嫌いになっちゃうぞ」
「……うぬぅ……すいません…落ち着きます……」
完全に怒りを
歴戦の戦士でもかつてラティナが就く前にプランタンを担当していた聖女であり、以前の
「それでは次は私が皆様に報告しなければならない
今度はリオと同じラティナ専属の補佐官サラが
「ルブルーショ教官は裏切り者でした」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「えぇっ!? ルブルーショ教官が裏切り者⁉ どういう
知人が裏切り者だと聞かされては驚きの余り、ジャンヌに問い詰めるラティナ。
「それは……」
ジャンヌが言いかけた途中でドアからノックの音がした。
「どうぞ」
「失礼しま……」
開いたドアから入って来たのはラティナの様子を見に来たサラとリオだ。
二人は目覚めたラティナに気付いた。
「……ラティナ様……お目覚めになられたのですね」
「ラ……ラティナ様ぁ~~~」
リオが喜びの余りに泣きながらラティナに抱き着いた。
「もう、心配してたんですよ~」
「はい、ご心配をかけてしまって本当にすみませんでした」
「本当ですよ。もうお体の方は大丈夫ですか?」
普段、冷静で表情を表に出さないサラもラティナの復活に頬を緩めて微笑していた。
「はい、もう大丈夫です。……それで…あの…最初にサラさんに聞きたい
「
「ルブルーショ教官が本当に精霊教会を裏切ったのですか……?」
その質問を聞くと緩んでいだサラの顔が引き締め治した。
「……ラティナ様はここ最近、大聖堂に働いていた神官や修道士達が移転された話をお聞きになられましたか?」
「は、はい。最近、移転する人の名をたくさん聞きました。とにかく急でお別れのあいさつも顔を見る
「それは実はルブルーショがその人達を追い出していたからです」
「えぇぇ!?」
ラティナの知っているルブルーショは親切丁寧で困った時には助言してくれる良き相談相手の一人だと思っていた。
「私は最近、ルブルーショの動きが怪しいと思い、密かに探っていた所、その男は、先程話した人達は
「そ…そんな……」
「その
審問会とは背徳行為の疑いのある者が潔白の理術使いなのか
「守護騎士団も
「今までその
「で…でもそんな勝手な
「
ジャンヌの衝撃の発言に驚いたラティナは彼女に顔を向ける。
「ルブルーショはかつてプランタンの大聖堂の大神官の候補者でしたが心の内に“精霊の約束”を反する
“精霊の約束”とは
奪おうとまで望む強い欲望、傲慢や憤怒に従った暴力、他者を痛めつけて悦楽を浸ろうとする虐待性
その
「彼は自分が大神官の候補から
「ここにその
「高位のディアボロスが封じられた魔導書ですから機密として補佐官の私もサラもラティナ様ですらも教えられなかったのでしょう。問題はルブルーショがどこで魔導書の存在を知り、手に入れたのかは分かりません……」
魔導書とは、ある闇の組織が作り出した、ディアボロスを一体封じ込める
「つまり、ルブルーショは自分が大神官になれなかった逆恨みでスルト教団と手を組んで、禁止していた魔導書の力を使って人を操り、ラティナや目障りだったり、気に食わなかったりと思った他の神官や修道士達を勝手に
帝国の機械とは
「そうなのですか⁉ ルブルーショ教官がスルト教団と手を組んだのは初めて聞きましたが」
「これはあくまで私の推測ですが
ジャンヌの予想は適格だ。その能力は彼女が偉業を成し遂げた二千年前の祖国を守る
そもそも共和国領は善良なる人間、理術使いのみ住む
「そして
「ふぇっ? どういう
「……ラティナ様、実はジャンヌ様が救出した方々の
「どうして
「それは……」
「それはあのまま、あの場所に居れば彼らも危ない目を合わせてしまうからですよ……」
なんだが言いにくそうなサラの代わりにジャンヌが説明し始めた。
「御存知の通り、帝国本土の人間は私達、理術使いを
「そ…そんな……そうですか……」
必ず当たるジャンヌの推測の前にラティナは納得せざるを得なかった。
「あの”白き聖女”様と“
ジャンヌの口からため息を吐いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ジャンヌ達からこれまで自分がいない三日の間の経緯を聞いた後、ジャンヌとポリッチェは部屋から去った。
ラティナは沐浴を軽く済ませ、それから父との待望の再会を果たした。
ラティナの父、ユーセルとはスルト教団の軍兵達に捕まっている間、”
「ラティナ様‼ お体は大丈夫ですか⁉」
ブルボンが大声を上げてラティナの
「は…はい……。もう大丈夫です……。手痛いですけど……」
「あの~…ブルボンさん、大きな声を出すのも
「うぬ…申し訳ありませんでした。つい、頭に血が
ラティナとリオに言われてブルボンは手を離した。
「カルシウムの不足ではないのでは? お酒を減らして牛乳を飲んだり、毎日アーモンドを食べたりしていますか?」
「うぬぅ……どれもこれも全部ルブルーショめが悪いんじゃ! あの裏切り者めが、ラティナ様にまで手を出しおって……」
するとブルボンの背後に自分に矢を狙い立てているかの
後ろを向くと視線の主は、胸当てと籠手と
「な…なんじゃクエス?
「それは恐らくブルボンさんがさっきラティナ様の手を強く握ったからでしょう」
サラがクエスという名の黒髪の少女に代わってブルボンに説明をする。
「そ、それは
ブルボンの慌てぶりに笑う一同。
「ごほん……それたクエスさんもラティナ様とお話したいのでしょか?」
クエスの
「分かった、分かった。お主とラティナ様の仲は知っておる。後はお主がラティナ様と好きなだけ話しても
ブルボンはラティナに一礼をした後、
「クエスさん……」
「ラティナ……」
クエスはラティナに近付き、彼女の手を優しく触れて心配そうに見つめていた。
「ラティナ……もう体の方は本当に大丈夫? 私も心配したよ……」
「はい…。私はもう大丈夫です。ご心配させて本当にすいませんでした。」
クエスはラティナの幼馴染で今はプランタンの守護騎士団の一員である。そしてラティナを
プランタン内の森の
「本当? なんだが元気がない
確かにラティナの顔には気が少し重苦しい表情になっていた。
「あ……はい……
今回の初めての外の世界でラティナにたくさんの心残りが出来てしまった。
アップ・グリーンパークで襲われた
「ラティナ様、悩み
「私もいるよ~」
同じ補佐官なのに自分を加えてくれなかったサラに対し、リオは
「そ…それは……その……」
サラが相談の申し立てた
(どうしましょう……私がリゼル様を治療していた
聖女が悪名高き”
するとリオはラティナの悩みを悟った
「もしかしてラティナ様は……」
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