第6話 狂った復讐者達

 下水中の沈殿性物質と汚泥を分離・除去するこの場所、地下下水処理場の沈殿池施設は広いが天井の照明は全て点いてはおらず、現在では薄暗い場所となっていた。

 そして照明が照らされていない暗闇から六人、ラティナとリゼルの前に姿を現した。

 その内の一人は見覚えがあった。


貴方あなたはカワキさん!」


 悪い笑みを浮かばせた帝国軍少佐のカワキ=ハダイだ。


「…ととなりかたたちは?」


 カワキと共に現れた残りの五人はみな、奇妙な恰好かっこうをしていた。

 紺色のスーツとも軍服とも見える服を着ていることは全員一緒だが、一人ひとりは、その五人の中で一番背の低い、身長がラティナよりもわずかに低い人物の顔がカメレオンと思われる金属の奇妙な仮面を付けていて、両腕が異様に大きく、その重さによって両腕をぶら下げている恰好かっこうをしていた。

 一人ひとりは、五人の中で一番体が大きい、体全体の筋肉が異常に発達してくまぐらいの身長のある人物。顔にガスマスクを着けていた。

 一人ひとりは、顔にヘルメットをかぶった五人中に身長が中位ちゅうぐらいの人物。

 一人ひとりは、足底にローラーが付いている軽薄そうな二十代の男性

 最後の一人ひとりは、如何にも下衆げすの笑みを浮かばせた顔左半分が眼帯で覆い隠されていた金髪の若い成人男性だった。


「久しぶりだね~、リンカ。二年間の眠りから覚めた気分はどうだった?」


 リゼルを見てリンカと呼び、金髪の仮面の男の昔馴れしんだ友人のように話しかけてきた。


「誰だ、お前ら?」


「誰だって……おれだよ、ザキ=クロトだよ」


「あの~リンカってリゼル様のことでしょうか? このおかたは今、記憶喪失の最中ですので、昔のことは覚えていないのですよ」


「……マジで?」


「マジです」


「説明していなかったが、あの娘の言ってることは本当だ」


 カワキも答える。


「ぶははははははっ!!」


「なんで笑うんだよ!!」


 リゼルは怒るままに叫ぶ。彼の心中はザキと他四人の顔を見てから何故なぜだが無性に腹立っていた。今は記憶にないのだが、本能的に昔、会った気がするのだ。


「そうだ、笑いごとじゃ、ないっけん!! ふざけんなーーー!!」


 ヘルメットをかぶった人が妙な口癖を加えて肉体の口で発しているとは思えない声帯せいたい、電子音の声で怒鳴り出した。多分、男性だろう。


「リィンカァ~~、お前がオレ達にしたこと、忘れやしねぇぞー!!」


「そうだぁ~~!!  てめぇが、てめぇがオレの…オレ達をぶった斬りやがったおかげでオレ達は…こんな機械の身体になっちまったぞ‼ この化物が~、うぃぃぃっ、ひっく!」


「殺してやる‼ 殴ったり、斬り返したりじゃ気が済まねぇ‼ バラバラにぶち殺してやるっけん‼」


 ヘルメットの男も酔っ払っているような感じでしゃべるガスマスクの大男もうらごとを言って通り、何やらリゼルを殺したい程かなりうらんでいるようだ。


「おい、ひげ将軍。こいつらは何だ?」


「カワキ=ハダイ将軍だ!! 変なあだ名で呼ぶな‼」


 リゼルに変な名で呼ばれてカワキは怒り出した。


「ごほん……こ奴らはある別の組織から賃貸として派遣された機械化兵サイボーグ団。“紅黒こうこくの魔獣”リゼル、貴方あなたを始末するためにな」


「え? それってつまり、まさか……」


 カワキが発した言葉の意味を理解し、ラティナは驚き、リゼルはより鋭くなった目付きでにらむ。


「……つまり、お前は俺を裏切るという訳か……」


「ふん…仕方があるまい。お前が記憶喪失になってからというもののやる気を全く起こさない。そうならずとも聞けば以前のお前は扱いにかなり面倒だったという。ならばお前を殺して“魔神の紋章”を俺が新しい所有者になればいのだ!」


「「 “魔神の紋章”?」」


「……キ、キキキキキィィィイイイィィィッ!!」


 始めて聞く単語に首をかしげ、「何だそれ」と聞く前に突如、奇声を上げる者がいた。

 金属製のカメレオンの仮面、鋼鉄の皮膚をおおった小柄な男。異容いような姿に改造された機械化兵団の一人が我慢がまん出来ず、リゼルに対する憤怒と怨みを果たせる歓喜の声を上げて一番に攻撃を仕掛けて来た。


「キィィィタナァーイッ‼ ゴミ、掃除ィィィィィィッ!!」


 前へ大きく飛び出し、着地と同時に小柄な体に反して異様に長い両腕が変形して銃となり、真赤まっかに熱を帯びた鋼の棘がリゼルに向けて連続で撃ち出された。この武器は、帝国が生み出した、エレメントの結晶体”クォーツ”を使った動力機関があり、その技術を応用に使って戦闘用に開発された“理導銃”。通常の弾丸の代わりに光子状にしたクォーツを込めて撃ち出す兵器であり、今回、使われたのはこう属性のクォーツを弾丸にして、撃ち出す瞬間、棘の形に形成して放つ理導針銃ニードルガンだ。

 リゼルは右へ素早く足を動かし、迫り来る複数の針を避ける。後ろにいたラティナも慌てて左へ避けた。それから転んだ。


「モイ、ずりぃぞ!」


 大柄の男が先に攻撃を仕掛けたモイという名らしい低身長の男、に怒鳴りつける。

 それでも低身長の男は仲間からの文句も耳に入らないまま、リゼルに向けて針を撃ち続けた。


「キキキキキキキキキキキキキタナイッ‼」


(クソっ! なんだよあいつも! 何故なぜかあの鉄仮面野郎の言ってることがムカつく!!)


 リゼルはモイの機械のあぎとから発せられる電子音の奇妙な言葉を完全に聞き取れていないが、それが悪口だと本能的に認識した。ムカつきながらも身を守るため、横から降る針の雨に追われる形で走った。

 リゼルは走り続け、回り込みながら、やがてカワキの前を通り過ごした。


「な!? ちょ、ちょっと待てーーー!!」


 針の連弾は止まらない。

 さっきまでカワキの近くに居た四人の機械化兵達はリゼルの進路と目論みに気付き、離れていた。カワキが気付いた時はすでに手遅れだった。


「ぎゃああああああ!!」


 カワキはそのまま針の餌食えじきとなった。


「……!?」


 カワキの蜂の巣から血の花が激しく咲き乱れた壮絶な死に様を目の当たりにしたラティナは気絶をした。

 リゼルは(ざまぁみろ…)と心の中でカワキを一瞥いちべつした。

 針の連続撃ちが止まった。理導針銃に装填そうてんしていたクォーツが切れたようだ。

 リゼルは相手の弾が切れたことによって好機チャンスだとさとり、モイが補充している手間をかけているあいだに倒さんと向かって走った。


「オレ達もやらせろ!」


 だが、他の機械化兵も動き出す。

 大柄の男は同じくクォーツを動力に回転する理導鋸チェーンソーを振り回し、ヘルメットの人物は打つ度に高圧の電気が流れる電気むちを取り出し、ザキは機械化された両手の甲から長く鋭い爪を出してそれぞれ、リゼルに襲いかかる。

 リゼルも返り討ちにしようと両手の指全てを硬く黒く鋭く熱い鉤爪に変えて向かって来る敵を返り討ちにしようと動く。

 ザキの爪が振り下ろされ、リゼルの爪が受け止める。


「ぐっ!!」


 触れた途端とたんにザキの爪から電気が流れた。

 リゼルが電流で怯んでいる間、今度は理導鋸チェーンソーと電流をまとったむちも加わって襲いかかる。

 リゼルは三人の攻撃を何とかかわし続けている。


「うぃぃぃっ、ザキ、シュン、邪魔だ!」


『邪魔はお前だけんっ、ゴウ! このクズは俺がる!!』


 相手の三人は獲物を一番に採りたいという熱意が高いため、連携が取れないみたいだ。

 リゼルは今度こそ反撃しようと理導鋸チェーンソーが地面に深く突き刺さってしまい、抜くのに手間をかけているゴウと呼ばれた大男から倒そうと右の爪をかざしながら走る。すると横から白い液体を強くぶっかけられた。


「ぶわっ!?」


 リゼルを突き飛ばした白い液体はヘルメットの男、シュンが電気鞭から消火器を強化した物に取り替え、それから吹き出したのが化学消火剤だ。


「う~ん……はっ! 私、気絶してしまいました……あ、リゼル様!!」


 気絶から目を覚ましたラティナはリゼルのもとへ駆けようとした。


「おっと! 近づくと危ないぜ、美しいお嬢さん」


 ラティナの後ろにいつのまにか居た五人の内一人の優男みたいな機械化兵、マッキーに肩をつかまれて止められた。


「いいか、お嬢さん。あいつは人類を滅ぼそうとした悪党でおれ達は正義の味方でなんだ。だから、あいつを殺さないと世界は平和にならないんだ」


「正義の味方……」


 ラティナはカワキを殺しても気にしていない様子の機械化兵団を正義の味方とはとても信じられなかった。そこで理術能力の《心眼》を発動させて心の本性を覗いてみた。

 リゼルは暗い闇の中から燃え上がる炎。純粋なる怒りと憎しみの炎。

 対して機械化兵達の心は怒りと邪悪なる悦楽えつらくが混ぜ合わせたどす黒い感情が見えた。

 彼らはリゼルを一気に殺さず、じわじわと痛め付けて苦しめるつもりのようだった。

 これらを見比べてラティナは即時に腹を決めた。


(止めなくては……!)


 再び、消火器の化学消火剤をかけられ、リゼルの動きが止められたすきにゴウの理導鋸チェーンソーが、ザキの電気を帯びた爪が襲いかかる。

 その時、リゼルの前に割って入る人影が現れた。マッキーの手を振り切って駆け付けたラティナだ。

 ラティナは《アンペイン・ローゼ》を具現させ、一枚分離させた花弁状の羽をザキに貼り付かせ、残り五枚のみ合わせた傘形態で理導鋸チェーンソーを防いだ。

 だが、《アンペイン・ローゼ》の防御能力は決して完璧ではない弱点があった。

《アンペイン・ローゼ》は“水”と”風”と”土”そして“聖”属性のマナで構築された物で“火”属性、高熱には非常に弱い。

《アンペイン・ローゼ》の花弁の盾が理導鋸で斬られたが非常に柔らく厚い壁とあらゆる力を弱める効力によって回転する鎖状の刃を止める事が出来た。そんな守りの壁を突如、突き破られ、ラティナの腹を貫いた。

 ラティナは《アンペイン・ローゼ》を具現させ、一枚分離させた花弁状の羽をザキに貼り付かせ、残り五枚のみ合わせた傘形態で理導鋸チェーンソーを防いだ。

 だが、《アンペイン・ローゼ》の防御能力は決して完璧ではない弱点があった。

《アンペイン・ローゼ》は“水”と”風”と”土”そして“聖”属性のエレメントで構築された物で“火”属性、高熱には非常に弱い。

《アンペイン・ローゼ》の花弁の盾が理導鋸チェーンソーで斬られたが非常に柔らく厚い壁とあらゆる力を弱める効力によって回転する鎖状の刃を止める事が出来た。そんな守りの壁を突如、突き破られ、ラティナの腹を貫いた。

《アンペイン・ローゼ》の盾と彼女を打ち抜いた物の正体は高熱を帯びた金属のくいだ。

 赤熱せきねつくいを撃ったのは四つん這いの態勢をしたモイだ。

 モイの頭部から身体そのものが理導針銃ニードルガンを強化した兵器、理導杭砲ポストキャノンとなっていて、体内で”火”と”土”の元素の混合属性である鉱属性のクォーツから金属のくいが生成し、四つん這いになることで大きく開いた口から発射された。

 ゴウとザキがリゼルに攻撃を加えようとした瞬間、モイも怨敵リゼルに狙って撃ち出したのだが、結果的にリゼルの前に飛び出し、彼の盾となったラティナに命中してしまった。


「ラ…ラティナーーー!!」


 くいで貫かれたラティナの胸は真赤まっかな血に染まっていた。

 ゴウとモイとしてはカワキから聞いた、理術使いというリゼルに似た化物の力を持つラティナをいでに始末することは構わなかった。


「……何が可笑おかしいんだよ……?」


「あ?」


 ゴウの持つ理導鋸チェーンソーが突如、大きな音を立ててくだかれた。


「え!?」


 ゴウは驚愕きょうがくした。他四人も目を丸くして驚いていた。

 リゼルは一歩も動いていない。だが、彼の後ろ腰から黒く鋭い片刃の剣が尾のように伸びていた。


「て…てめぇ~」


「オ前ラ…ユルサン…殺シテヤル……!!」


 異変はまだ終わらなかった。フードを取るとリゼルの頭から二つの長く鋭くねじれた悪魔の角が生え、体の左半分が黒く染まり、口の部分も黒に覆われ、鋭く凶悪な牙が形成された。両目も血走り、白の部分が全て赤く染めた。左手の甲に血のようあかい丸が浮かび上がった。その姿は禍々まがまがしく、中途半端で凶悪な姿に変異した。


「……ついに正体を現したか……」


「化物め……」


 全身兵器となった五人の機械化兵サイボーグと狂気の鬼となった“紅黒こうこく魔獣まじゅう”との死闘が激化した。


(ダメ……止めないと……)


 腹にくいを刺され、激しい痛みと熱さに襲われ、口から胃液が混じった赤い血を吐きつつもみんなを止めようとラティナは体を動かそうとした。だが、彼女の体は傷と出血により、動かすことが出来なかった。

 やがて永遠に続くかの様な激しい痛みを感じながらも彼女の意識は闇に落ちた。


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