第4話 ディアボロス襲来

 太陽が出て来て朝となった。

 リゼルが眠りから目を覚ました。

 リゼルが眠っていていたベッドの近くにソファがあり、その上にラティナが見惚みとれてしまうほど、美しい寝顔で横たわって眠っていた。

 ラティナも目を覚ました。


「ん……あ、リゼル様…おはようございます。今日はお早いですね」


 リゼルに笑顔で朝の挨拶あいさつをするラティナ。


「……ん……」


(こんな邪魔くさい奴いっしょに生活して今日で三日か……)


 あれから三日間、ラティナはリゼルの記憶の治療としょうして彼を説得せっとくし続けていた。

 リゼルは最初、うざいと思って一層いっそうこと、ラティナをぶった斬ろうかと何度も考えていたこともあったが、ラティナの顔を見ているとなんだか不思議と殺意が薄れてしまった。

 そんなやり取りが続いて三日後、朝食を終えた後、今日もラティナはリゼルを説得しようと色々、かたるが当人は無視しようとスルト教団の団員が用意したゲーム機と言う付属の導線で画面に接続すると一人でもゲームが出来る機械で遊んでいた。

 最初、必死で説得していたラティナだが、ゲーム機によってうつし出された画面の珍しさに目を奪われ、興味を持って観戦者と化してしまった。

 一時間後、ドアから叩く音がした。今、ラティナとリゼルが居る部屋の出入口の前に見張りの兵、二人が居るはず。その二人かカワキか司祭が来たのだろうか。


「たくっ……今、いいとこなのに、なんの用だよ、一体……」


「はっ……! 私ったらまたしても……」


 音で我に返るラティナをほっといてリゼルはドアに近付き、ドアノブに手を触れようとした。その瞬間、ラティナはドアの向こうからおぞましい殺意を感じた。

 「開けないで下さい!!」とラティナが叫ぶ。


「へ?」


 リゼルが右手でドアノブに手にかけ、ドアを少し開けた瞬間、黒い”何か”が近くにいるリゼルに襲いかろうとしていた。


「危ない‼ 《アンペイン・ローゼ》!!」


 ラティナは右手に《アンペイン・ローゼ》を具現させ、リゼルのもとに素早い足取りで駆け出す。

 リゼルはラティナの叫び声と瞬時に本能的に感じた危機感にしたがい、右へ飛び出し下がると顔をドアの方向へ向けた瞬間、思わず目が見開いた。開いたままのドアからガスとも泥とも見える 黒い不定体の塊の”何か”が手らしきものを生やして部屋に入ろうとしていた。


「《フルール・フレッシュ》!!」


 ラティナが《アンペイン・ローゼ》の傘を開いたまま、突進し、防御をしながら相手を突き飛ばす技、《フルール・フレッシュ》で黒い”何か”にぶつける、が、不定から生えた黒い両手でおさえられた。


「……あれ? …あ……ふわわぁ!?  ふわわぁ!?」


 傘をおさえられたまま、逆にラティナが後ろへ押され、押し返そうと踏ん張っても非力なため、押されっぱなしになっていた。


「……はぁ……何やってんだよ、お前!」


 押されっぱなし状態のラティナを見たリゼルは、気持ちを冷静になって、「あ、ダメだ、こいつ」と思い、頭をかいてため息を吐いた後、右手を硬化、鉤爪かぎづめに変えて黒い”何か”に向けて振り下ろす。表情すら分からない”何か”は慌てているのか避けようと後へ引こうと動く。だが、一歩遅く、”何か”の顔(?)にリゼルの鋭く長い爪が命中、かすりだろうと苦痛を与える鋭く熱い爪が引掻ひっかけた。


『グウゥゥゥォォオオオ~~~!?』


 顔に引掻ひっかけられ、痛みのあまり、顔を両手で覆い、苦痛の悲鳴を叫ぶ”何か”。

 リゼルは追討ちに左手も鋼鉄の鉤爪かぎづめに変えて横に振る。


『ギャアアアアアア!!』


 正体不明の”何か”は四等分の輪切りに斬り裂かれ、断末魔を上げながら消滅した。後に残ったのは小指位の灰色の結晶体が一粒落ちていた。


雑魚ざこめ……」


 リゼルが呆気あっけなく倒した”何か”に一瞥いちべつするとラティナが尻餅をついたまま、叫ぶ。


「まだいますよ! 気を付けて下さい!」


「‼」


 リゼルが再び、ドアの方へ向けると今度は四体の”何か”が入りこんで、その内の三体が見つけた獲物リゼルに向けて襲いかかって来た。

 リゼルは迎撃に動く。

 一体目を右斜めにぶった斬る。

 二体目をにぎった右手で殴り、穿うがつ。

 三体目を両手でつかみ、力任せに左右引張り、引きちぎった。


「きゃあ! きゃあ!」


 残った四体目はラティナに襲いかかっていた。

 ラティナは《アンペイン・ローゼ》の傘で”何か”のなぐり続ける攻撃から身を守るので精一杯だった。


「はぁっ……」


 リゼルは二度目のため息を吐いた後、ラティナに襲っていた最後の”何か”を斬った。


「あ…ありがとうございます」


「ん……何をやってんだよ? お前」


 リゼルがあきれさを混じった眼差しでラティナを見ていた。


「ご…ごめんなさい……。リゼル様にお手を掛けさせてしまって……」


 ラティナは頭を項垂うなだれた。


「……で…何だったんだ? こいつは……」


「……恐らく今のは“ディアボロス”の下級霊、ラルヴァですね」


 ラティナが答える。


「でぃあぶろ?」


「惜しい。ディアボロスです。ディアボロスとは死んだ人間の魂が未練やうらなど、負の感情によって理力りりょくが暴走し、変貌へんぼうして人を襲う悪霊となった人のことを私達、精霊教会はそう呼びます……。どうやらリゼル様の今の攻撃で昇天したようですね」


「悪霊……」


「リゼル様は見えていたのですか?」


「幽霊だけに普通、霊感的なものとかが無ければ見えないもんなのか?」


「個体によりますが、ラルヴァみたいに人にき、気力を奪ったりする類型は理術りじゅつ使いならみんなはっきりと、そうでもない人は薄っすらと見えたり、まったく見えなかったりします」


おれ理術りじゅつ使いじゃないのにはっきりと見えてしまったが……」


「……リゼル様はひょっとしたら……」


おれが、なんだ?」


「……れ、霊感が高い人だと思われます。リゼル様みたいに理術りじゅつ使いではなくても見える人がまれにいると聞いたことがあります」


 慌てて両手を振りながら答えるラティナ。


「ふ~ん……霊感がね。……所でラチー」


「ラティナですが。はい、何でしょうか?」


 リゼルはたまに名前を呼んでくれることもあるがほとんど名前を間違えて言う。もうそろそろ名前を覚えてちゃんと呼んで欲しいとラティナは思った。


「さっきの奴を倒した後に落ちたこれ何だ?」


 リゼルが小さな灰色の結晶体を指差す。


「これは”クォーツ”ですね」


「くぉーつ?」


「エレメントが結晶化した物です。加工すれば生活に役に立ちますので共和国領ではお金の代わりにも使えます。ディアボロスとは本来、生体を失った死者です。そのため、物質世界である現世では人や物を触れることも何も出来ません。行動をするためにエレメントを使って実体を構築されています。ですからディアボロスを倒すと構築に使ったエレメントがクォーツとなって残る場合があります。この灰色のクォーツは影属性のクォーツですね」


「……拾(ひろ)っても大丈夫か?」


「そうですね……怨念とか感じられませんので拾っても大丈夫でしょう」


「そうか、んじゃ、ひろっておこう」


 一粒のクォーツを拾うリゼル。


(……リゼル様の体を硬化する能力、ラルヴァを見えていたから理術りじゅつ使いと思っていたのですが、さっきの戦い方を見てはやはりそれはリゼル様の性格だと考えにくいです……。むしろあの力はディアボロスに近いのでは……あ!)


 リゼルについて考えているとラティナはある事に気付いた。

 部屋の前に居る二人の見張りの兵士達はどうなっているのだろうか。

 ラティナはぐに開けたままのドアに向かって走った。

 警戒して部屋からのぞくと言葉も失う衝撃的な光景を目にすることになった。

 廊下にはただの水とは違う透明な液体がまき散らしており、その液体にまみれた二人の兵士が倒れていた。


「だ、大丈夫ですか⁉」


 ラティナは倒れている見張りの兵士達の許まで駆け寄るが、二人共、すでことが切れていた。二人の死にラティナはやみ、涙を流して、黙祷もくとうささげた。


「わっ、何だこれ?」


 リゼルも部屋から出て来ると廊下が謎の液体にまみれた光景に驚く。そして倒れている二人の見張りと地面にひざを付いた姿のラティナに気付く。


「……こいつら、さっきのディアナントカに殺されたのか?」


「いえ……ラルヴァは生きる気力を奪い、死へみちびくとしても直接殺すことは出来ません……」


 ラティナが右手の人差し指で液体に触れるとよだれような粘質さがあった。


「恐らく…ラルヴァよりも強いディアボロスがいるのでしょう」


 ラティナとリゼルが謎の液体に気にしている時、二人の背後からぽとりぽとりと粘りさがある水の落ちる音が聞こえた。


『ヤット……見ツケタ……!』


 天井から隠れ潜んでいたよだれような液体の”何か”が巨大なミミズと思わせる形となってリゼルに襲い、飲み込んだ。


「わぷっ!?」


「リゼル様!?」


 リゼルを飲み込んだまま、液体の化け物は奥へ連れ去って行った。

 ラティナも追いかけようと駆け出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る