第3話 記憶喪失
再び部屋で二人っきりになったラティナとリゼル。
「「…………」」
リゼルは横寝のまま、相変わらず黙っていた。
長い沈黙にたまらずラティナは口を開いた。
「あ…あの~リゼルさん……」
「……なんだ?」
「ひっ……!」
リゼルに
「取りあえずお前、
「は、はい……。リゼル様、私に何か聞く
「ん……そうだな……じゃぁ……」
リゼルは寝そべったままだが、ラティナの方に向き、口を開く。
「さっき、最初にお前が言ってたえんじぇろって何だ?」
「エンジェロスの
「りじゅつ?」
「私の右手を見て下さい」
ラティナは右手を上げて
「《
口に出した瞬間、
「な!?」
思わず驚きの声を
「
「つまり、魔法か?」
「大体近いですね」
そう言った後、ラティナは右手に浮かぶ光の球を消した。
「
それを聞くとリゼルは目覚めた時から体中、いたる所に
「……そう言えば、お前、
「はい。もうこの通りです」
ラティナの左肩はリゼルの爪で斬られ、深手を
ラティナの回復の
「
ラティナの右手からかつてリゼルの攻撃を受け止めた薄紅色の傘が現れた。
「その傘は……!」
「これが私の
《アンペインローゼ》の傘布が分離し、ラティナの背中に六枚の大きな花弁となった。
「この
六枚の翼を持ったラティナの姿は
「……傘の翼……?」
リゼルの一言は神秘を台無しにする言葉だった。
「……はい。私の特技は治癒と防御が得意な
リゼルはベッドから立ち上がっていた。
「……トイレに行く。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アップ・グリーンパークの下水処理場には、
リゼルは部屋の前にいた見張りの団員その一に案内され、シャワー室に着いた。
服を全て脱いだリゼルはシャワーの湯で限界まで
そこにシャワー室の扉が開く音が聞こえた。
「し…失礼します……」
ラティナが全裸にタオルで前だけ隠した姿で入って来た。
「ななな、お
リゼルは
「リ、リゼル様のお体を洗いに来ました……。障害者を最後まで
そう答えながら一歩ずつ歩いてリゼルの許へ近づくラティナの
「そういえば起きた時に着てた服、違うと思っていたが、まさかお前が
「……
リゼルの視線がラティナの裸体をちらちらと見ていた。
タオルは長いだけそう大きくなく、白く美しい肌と大きい胸、曲線美の尻が完全に隠し切れず、より
「正しくは癒療師とは理術を使って怪我した身体(からだ)を治したり、心を癒す事を役割とした理術使いの事です。あ…あの……あまり見ないでくれませんか? 恥ずかしいので……」
自分の裸を見られている
「なら……入って来んなよ……。もう
右手で上下に振り、ラティナを追い返そうとする。
「で…でも、
近づいてリゼルの手を
「いらんと言ってるだろ!!」
ラティナは驚き、
タオルは手から離れ落とし、胸のたわわに育った二つの実がリゼルの顔に乗せつける。
「~~~」
こらえていたラティナの
その場に残ったリゼルは一分間、硬直した後、顔に覆った胸の感触を思い出し、真っ赤な顔になって湯の中へ沈んだ。
それから風呂から出て、シャワーの開閉ハンドルを左に動かし、噴水口から冷水を出して
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
風呂から出た後、部屋に戻るとスルト教団の団員達がリゼルのためにたくさんの料理を運んで来た所だった。
ついさっきのシャワー室の事故以来、ラティナとリゼル、二人の
「……あの……リゼル様……
「……何か……?」
しらばくれるリゼルは二年ぶりの食事を
リゼルの様子から見て、後遺症は無さそうだった。
(……この人、本当に“
だが、最初、リゼルが復活した時は、彼の右腕は凶器如きの爪に変貌したという普通の人間じゃない事実を持っていた。
何者かと聞こうにもリゼルは記憶喪失だった。この状態ではラティナの《
「あの……リゼル様」
「……
ラティナに呼び掛けられ、食事を止めるリゼル。
「私からの質問よろしいでしょうか?」
「……俺が答えられるものがあればな」
「リゼル様は世界征服を今でも目論んでいますか?」
「別に……世界征服なんて興味はない。」
「そうですか」
「……ごちそうさま……。……次はこちらからの質問いいか?」
「は、はい。何でもどうぞ」
「お前ら、え~~と……ス…ス…スルト教団、は俺を使って何をさせたいんだ?」
「私はスルト教団ではありません。精霊さんを信仰する精霊教会の者です」
「そうなのか? なら
(つーか信仰する奴に“様”じゃなくて” 精霊さん”呼びは良いのかよ……。別にどーでもいいが)
「私の父と仲間の人達を助けるため、故郷のプランタンから来ました。……でもここに着いた
リゼルに
「……なんで俺がそんな事をしなくちゃならないんだ?」
「捕まったそいつらは人質だろ? そいつらを解放したら仕返しに襲いかかってくるに決まっている」
「そ、そんな
「どっち道、お前らがどうなろうと
「関係ないって……」
「俺は人間じゃない」
リゼルの右手が黒い
「……」
この時、ラティナの《
リゼルの心の中は暗い闇があった。
記憶を失っていてもリゼルは本能的に人間を憎む程、
ラティナも自分を慕っているスルト教団も誰も信じようとはしなかった。
“
ラティナは考えた。それから決意を決めた。リゼルを説得して更生させようと。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
“
アップ・グリーンパークの地下、下水処理場の設備の管理と制御、整備員が利用できる休憩施設まで備えた地下一階の廊下。見回りをしている最中の軍服を着た兵士二人が真夜中の見回りに歩いていた。
「はぁっ……いつまでこんな所(とこ)に住まなきゃならないんだ? 本物かどうかは知らねぇけど““
まだ二〇代にもまだなっていない若い
地下一階の廊下は
「仕様がないだろ? 司祭様が戻ってくるまで、ここに待機だと命令なんだと……」
理由は聞かされていない。答えてくれなかったからだ。
「大体、いつまでもここにいちゃマズいでしょ? 特に将軍が。外では降り続けた雪が
「そりゃあそうだろ。俺らも帝国でも
彼らは正規の帝国軍兵士ではない。カワキにより、軍服を与えられ、アップ・グリーンパークに在中している理術使い達を油断するため、
正直の
「はぁ~スルト教団に信じて入ったのに結局、上司達の勝手さに付き合わされて、こんな少し暗くて薄気味悪い所に見回りをやらされて嫌になるっス……」
「まあまあ」
恐怖を
見回りをしていた二人の兵士の背後から黒いガスの
「「!?」」
痛みは感じていない。”何か”は確かに二人の体を通ったが穴は空いていなかった。それ所が”何か”を見えてなかった。
「あ…あれ……? 体が…なんだが…
急に体から気力が抜けたかの
二体の”何か”は反転して
「あ…ああ…あ……」
「お…おい…どうしたんだ……?」
若い方の兵士が
そう彼は見えていた。
薄っすらとだが、生き物でも物体でもない”何か”を見えていた。
”何か”を見えてない年上の兵士は年下が恐怖で幻覚を見て怯えているとしか思っていなかっただろう。だが、その”何か”は実在していた。
二体の”何か”は再び二人の兵士に襲おうとはしなかった。
不意に天井から液体の
「…ひっ!? ……な…なんだ…これ……!?」
自分の左肩を触れてみると普通の水ではない、よだれの
恐る恐ると天井の方へ見上げると空気換気用に設置されたむき出しの
二体の黒い不定の”何か”が二人の兵士に再び襲おうとはしなかったのはそれらよりも強く恐ろしい”何か”の存在に
こうして液体状の”何か”に襲われた、見回りをしていた二人の兵士は悲鳴を出せないまま、命を落とした。同時に偶然か廊下の照明の明かりが二つ消えた。
“白き聖女”が
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