EP2-2 尾行開始!
「じゃ、また明日なあ」
「ばいばい」
「じゃねー」
学校からの帰り道。
学校の最寄り駅に向かう大きな十字路で、楓は近田チカと苅間マリカに別れを告げていた。
楓は左に、近田と苅間は右の道を行った。
「おいおい、これはさすがに…」
草葉の陰から、突然柴山が話し始めた。
「しーっ、静かに!」
突然口を押えられた柴山は目を白黒させた。
「――、―――!」
押さえた手の下で、柴山が抗議した。
浬が手を離すと、ようやく解放された柴山は、恨みたっぷりに毒づいた。
「ぷはっ、知りたいったってよ、尾行はねーだろ……!」
柴山はまた口を押さえられないようにと、今度は声をひそめて言った。
浬と柴山は、尾行していた。
尾行の対象は、相原楓。
楓のことが知りたい、と考えたとき浬の脳内に浮かんだのが、尾行だった。
「……付き合ってんから堂々と聞けばいいだろーが」と、柴山。
「そんなことできっかよ」
「ヘタレめ……」
「それに、協力するって言ったのはお前だろ」
浬は、わざとらしく笑って柴山の肩をポンと叩いた。
柴山は、苦々しげに、「言うんじゃなかった」とつぶやいた。
「動いた!」
楓が歩き出したのを見て、浬は言った。
楓と距離を保ちながら、二人が追いかけた。
「それにしても、相原のやつ、どこに行く気だ?」
と、柴山は首を傾げた。
柴山の言うとおりだった。
浬たちが通う高校には最寄り駅が二つあり、ちょうどあの十字路でそれぞれの駅に分かれるようになっている。
しかし、小学校が同じである楓も、最寄り駅は近田、苅間と同じはずだった。
ましてや、楓が歩いているこの道の先には駅はない。
楓がどこに行くのか、二人にはまるで見当がつかなかった。
「なにか、すごい秘密を隠してたりして」
浬が興奮気味に言った。
「あー、そうかもなー」
柴山は、気のない返事を返した。
二人は、しばらく楓の後をつけた。
そして、楓が建物の前で立ち止まった。
入っていく建物を見る。
「ここは……」
図書館だった。
楓が中に入ったのをみて、浬たちは急いで後をつけた。
*
浬と柴山の二人は、本棚の陰に隠れながら楓の様子をうかがっていた。
「図書館になんて、何の用だ……?」
柴山は腕を組んで考え込むように楓を見ていた。
初めは乗り気ではなかった彼も、次第に興味を持ち始めたようだった。
「ずっと神話なんか調べて……。 なんかあったのかあいつ?」
「神話……」
浬は、ある言葉を思い出していた。
楓が言っていた、黙示録<アポカリプス>という言葉。
あの言葉が万が一、本当に万が一真実だったとして、そのことを調べるなら、確かに神話について調べるのはなんとなく筋が通る気がする。
「おい、こっちに来たぞ、隠れろ!」
柴山が慌てた様子で言った。
浬は柴山の後に続いて、肩くらいの高さの本棚の裏側に身を隠し、しゃがみこんだ。
健康について書かれた雑誌が並べられている棚である。
「こっちに来たら、逃げ場ないじゃん!」
浬は、あたりを見回しながら言った。
浬たちが隠れた場所はちょうど袋小路になっており、通れる場所が一つしかなかった。
「しゃーねーだろ、俺だって急いでたんだよ」
「し、静かに!」
柴山が躍起になって答えると、浬は人差し指を立てて、静かにするように、とジェスチャーを送った。
楓のものらしき足音が聞こえる。
「うーん、よう分からんなあ」
楓の独り言が聞こえた。
なにやら相当悩んでいる様子だった。
浬と柴山の二人は、息を殺して、楓が通り過ぎるのを待った。
「はぁー」
楓のため息が聞こえた。
さっきよりも、近くで聞こえた。
視界は完全に本棚に遮られているため、隠れるにはちょうど良いがこちらから様子をうかがうことができないのがもどかしかった。
もし見つかったらなんて言い訳しようか。そんなことを考えて浬は、全身スポーツウェアに身を包んだ女性が表紙を飾っている雑誌を手に取ろうとした。
しかし取ろうとしたその瞬間、雑誌はするりと手から離れた。
ガタン!
一瞬雑誌を落としかけて、焦って動いた結果、浬は本棚に肩からぶつかった。
「バカ、何やってんだ!」
柴山が、声を押し殺して浬に言った。
そして、
「あれ、柴山君? ……それに浅見君!? なにしとんこんなとこで!?」
楓に見つかった。
「あはは、ちょっと健康に気を付けてて……」
浬は、手に取った雑誌を振りながら、情けない声で答えた。
もう少しましな言い方が出来なかったのか、と浬は後で猛省することとなった。
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