3

 学園祭のライブに向けて 4人は毎日放課後 部室で練習をかさねていた.

 今日はオリジナルの2曲めの練習することになっている.


 夜の峠に 妖しく光る

 ライトコーン

 ふるえるバイクが

 しじまを貫く

 あなたへの想いを

 ふりきるように

 シフトを繰り返す

 カウルになびく風が

 誘いをかけるように

 オレの心を解き放つ

 ハングオン あといくつ

 カーブをぬければ あの丘に

 たどりつけるだろうか

 望月の夜に あなたの住む街を

 見下ろしながら 夜空は蒼く 蒼く

 見知らぬ街への旅にでる


 練習が終わって

「みんな お腹すいたでしょ 差し入れ食べよう」友梨愛がいった.

 雄二が

「この アイスクリームみたいなカップのは なに?」

「これは チョコレートクリーム こっちが 栗きんとん これは ミートポテトサラダで こっちはカボチャ餡」

「これ 美味しいんですよ」優子がいった

 涼介が

「学園祭のライブに曲がもうすこし欲しいな コピーもすこしいれたほうがいいかな」

「どんな曲がいいと思うの」

「the purple dragonのtruly say なんか どう」

「わるくないかもね」

 雄二が

「曲はなんとかなるとして 衣装とかも考えたいよな うちは 制服も指定がないし」

「優子は可愛い感じだから パニエとかつけてチュニックがいいんじゃない」友梨愛がいった.

 雄二が

「リカちゃん人形みたいな」

「雄二は古いね」

「古い?新しいのは?」

「プリキュアとか」

「ああ 日曜日の朝やってるやつか」

「先輩は背が高いからマニッシュなんか どうですか あっ ごめんなさい」

「いいわよ」

「宝塚の男役ってゆう感じがあいそうだな 友梨愛って身長なんセンチ?」

「168センチ」

「でかいな」

「でも 先輩はスタイルいいし 超美形だし モデルみたいですものね」

「それじゃ わたしはクレリックのピンホールに玉虫のタイか ドレスアップして襟なしのドレープシャツにボウタイか フリルシャツで宝塚までいっちゃって 優子とジッタバッグでも踊ろうかな」

「踊って 踊って 先輩 わたしも先輩と踊りたいですよ」

「それ いいね プロを目指すんだから 華がないと ステージでふたりで まじで 踊って欲しいね」雄二がいった.

 涼介が

「友梨愛はファッションに詳しいんだね」

「お父さんの影響かな お父さんが高校のときに買ったMENS CLUB とか男性専科の別冊を大事に持ってて 今のメンクラはイモで見てられないって 黒須さんのころのが一番だね ってよくいってる」

「トラッドかなんかだろ」雄二がいった

「お父さんはトラッドじゃないみたい いま アパレルの会社を起業しようとしてるんだけど new authentic formula ブランドで コンセプトは新しいスタンダードとなるsophisticated

 contemporary wears だからコンポラみたいだね ようはカッターの襟もブルックスブラザーズのは幅が広くて古臭い感じで もう少し幅を狭くして ゆるやかな反りがはいっているカラーのほうが 洗練されて 襟の形がいい感じなんだって お父さんはそういってた」

 涼介が

「友梨愛」

「なに」

「バンドの衣装のスタイリストをやってくれないか」

「いいわよ」


 次の日の放課後の部室で

 γスピリッツのメンバーの4人はFacebookの共有で 急ピッチで3曲めの作曲 編曲を進め 学園祭のステージを意識した練習に励んでいた.

 

 壊れたこの世界で

 あしたをみうしなって

 中身のない虚ろな街を

 さまよって どこへゆく

 失った感情は鎖された

 殻の中で なにをおもうのか

 途切れた記憶が 過ぎさる時の

 無常を教えている


 あさはかな 言葉が人を惑わせ

 人の心が悪意に落ちても

 あなたがくれた愛のために

 この身を捧げよう


 陽は昇り 厚くたなびく 雲間から

 漏れる 日差しは たちこめる

 霧を照らし あしたは来るのか


 広がる世界の果てに

 どんなに荒涼な景色を見ても

 立ち向かうその姿は

 究竟な心になって

 うけとめて はね返し


 あさはかな 言葉が人を惑わせ

 人の心が悪意に落ちても

 あなたがくれた愛のために

 この身を捧げよう


 学園祭の日がきた.

 講堂のステージには軽音楽部のメンバーがレンタルした機材の設営をおえて リハーサルをはじめていた.

 午前中は演劇部がオリジナル劇『都市伝説 隣のお姉さん』を上演して大好評だった.

 涼介は演劇部にオープニングの司会を頼んでいたので 隣のお姉さんで好演した久瀬好子が打ち合わせにきた.

「久瀬さん 今日はよろしくお願いしますね 久瀬さんの司会だと オレたちかすみそうだね」

「カッコいいのを頼むわよ もりあげるから 頑張って」


 講堂に並べられた ホウルディング チェアーの客席は満席で 周りや後ろには立ち見の人が立て込んでいる.

 緞帳の降りたステージの内側にはγスピリッツの四人がスタンバイしている.

 イバニーズの黒のSAを抱えている友梨愛の衣装はドレスアップの黒の上下で スカートは右に深めのスリットの入ったミニで ダブルカフスの襟なしのドレープシャツに黒のボウタイ 黒のタイハイソックスに光沢の強い黒のテーパード パンプスを履いている.

 キーボードの優子の衣装はパニエをつけて綺麗にひろがっている白のチュニックドレスにテーパードのタイハイソックス 白のテーパードパンプス 手にはウスハタの手甲をつけている.

 涼介の考えで友梨愛と優子を並ぶようにステージの前にだし 雄二と涼介は後方に位置している.

 雄二は白のjazzベースを肩にかけ 友梨愛がデザインして作った baseball jack をベースにして きりちがいでなく黒の光沢のあるナイロン一色で 背中一面にはフェニックスの金の刺繍 胸には王冠に盾 一角獣にリボンにはγspiritsの文字が入ったワッペンがついているCLUBジャケットに 細いストライプのクレリックのピンホールのカッター 玉虫色のタイをシャツに差し込んで ジーンズにサドルシューズを履いている.

 パールの白のドラムセットの前には涼介がいる.

 雄二と同じ衣装だがシャツは白のポロシャツで小紋の小ぶりのボウタイをつけている.

 男は裏方でいい音楽の土台のリズムとベースをしっかりと固める役割でいいと涼介は思っている.

 緞帳の前にワイヤレスマイクを持った久瀬好子が現れ

「皆さん大変長らくお待たせしました これからプロとして 世界に羽ばたけるそんな期待をさせてくれる 彼らの偉業の最初の一歩 」

 緞帳が上がり始め

「γスピリッツ !盛大な拍手でお迎えください!」

 白のサテンの幕があがり「わーっ」と会場がどよめいた

「カッコイイ!」

「友梨愛 先輩!素敵!」

「優子!カワイイ!」

 友梨愛が

「皆さんこんにちは γスピリッツです」

「友梨愛さーん」

「どうも てれちゃいますね」

「先輩!素敵!」

「一曲めはオリジナルでアバロン 聞いてください」

 涼介のスティックのカウントがはいり

 イントロが始まる.

 涼介のドラムが歯切れよくリズムをきざみ

 雄二の旋律感のあるベースの16ビートのシンコペーションのオスティナートがアップダウンのピック奏法で気持ちよく響く.

 誰にも高校レベルの演奏ではないとわかる.

「わー おー」観客がどよめいた.

 友梨愛と優子のヴォーカルのコーラスのハーモニーも美しいく身長168センチで美形のモデルのような友梨愛が セクシーなドレスアップでギターでオブリガードを演奏しながら歌うスタイルとキュートな優子との対比もあって観客に強烈なインパクトをあたえた.


 乱れた世界が

 人を押しつぶしても

 ゆずれない もののために

 たとえ もどれない道でも

 振り返らずに

 進むんだ

 何もせずに 朽ちてゆくより

 どんなに 傷つこうと

 背をむけずに 何度でも

 恐れを 乗り越えて

 刹那 刹那 を戦い続ける

 あなたの 優しい 微笑みを

 柔らかな 温もりを

 失わないために

 このみにかえても

 守りたいんだ

 それが愛だと気づいたから

 この世界がたったひとつ

 人に与えた 意味を

 受け取って

 後ろを向いた 情念なんて

 いらない

 前を向いた 情熱で

 光ある方へ 虹を渡るように

 幼い時に母が

 教えてくれた

 きっとたどり着く

 あの王が夢みたアバロン


 講堂のなかは興奮状態で さながらライブハウスをおもわせ 観客は手を振り 拳を突き上げ 熱狂している.

 友梨愛が

「最後の曲になります バラードでスウィート ドリームズ 聴いてください」


 夜のとばりがおりて

 ときが過ぎてゆく

 お別れを告げなければならないのに

 ふたり胸の高まる青い夜は

 さることができなくて


 今夜は朝までそばにいて

 おやすみはいわずに

 優しい声で名前を呼んでほしい

 今夜は朝までそばにいて

 ふたり すべてをわすれて

 素直な心になって

 朝を一緒に迎えたい


 優しい光がふたりをつつみ

 見つめ合う瞳と微笑みが

 輝くように満たしてる

 そんな夢をずっと見ていたい

 だから


 今夜は朝までそばにいて

 おやすみはいわずに

 優しい声で名前を呼んでほしい

 今夜は朝までそばにいて

 ふたり すべてをわすれて

 素直な心になって

 朝を一緒に迎えたい


 刹那の静寂が破れ拍手の音が講堂の空間を満たしている

「アンコール!アンコール!」

 の声と手拍子が止まない.

 緞帳がおり 久瀬好子が現れ

「皆さん ごめんなさい アンコールの曲を用意していなかったそうです またの機会をお楽しみに それでは γスピリッツ のライブはこれで終了です 」

 舞台の裏方は演劇部がやっていて久瀬好子が舞台のそでに入ってきて

「お疲れ!無事に終わったね」

「お疲れさまでーす」

 γスピリッツのメンバーも

「お疲れさま」などお互いに言い合っている

 涼介が久瀬のところにきて

「久瀬さん 素敵なMC ありがとう」

「すごいじゃない ネットにあげてる人がたくさん いるみたいよ プロにスカウトされるんじゃない」

「されたら いいけどね」

「実力あるわよ」

「この後 部室で打ち上げやるんだけど 久瀬さんも来ない 楽しそうね 演劇部のほうを早めに切り上げて 顔だそうかな」

「友梨愛が 差し入れの飲み物やお弁当をたくさん持ってきてるから 是非きてよ」

 部室では大きなテーブルがないので ピクニック用の敷物がしいてあり 飲み物やお弁当が並べてある.

 メンバーのみんなは衣装から ジャージに着替えて寛いでいる.

「ビビッドT飲んで疲れがとれるよ うちのは本当にからだにいいのよ」

「先輩 乾杯しましょうよ」

「そうだ 乾杯しよう」

「リーダー音頭とって 音頭とって」

「それでは γスピリッツのライブの成功を祝して 乾杯!」

「乾杯!」

 涼介が

「きくね!ビビッド」

「きくーっ」みんな声を合わせていう

 久瀬好子が軽音部の部室に

「おじゃまします」といって入ってくる.

「こっちにきてすわってよ」

「ピクニックみたいじゃない」

「テーブルがなくて」

「このほうが楽しそうね」

 涼介がカップを好子にわたして ビビッドTをつぎながら

「これは友梨愛のところでつくってる栄養ドリンクなんだけど きくから 飲んでみて」

「わー きくー 美味しいわね なにでできてるの」

「うちは炭酸じゃなくて醸造酢を使ってるの それに 蜂蜜と柚子の果汁」

「木元さんの家は飲料会社かなにかなの?」

「オーガニックはお父さんが経営してるの」

「ええー フードコンビニの」

 友梨愛が頷きながら

「そう」

「知らなかった」

 雄二が

「このお弁当もみんな友梨愛の差し入れ なんだけど オーガニックのお弁当ってほかの店のと違って オリジナルで自然食品だから安心して食べられる 学食の飯なんか食ってたら死ぬね」

「お腹すいた お弁当食べましょう」優子がいう

 涼介が

「久瀬さんはゲストだから 好きなお弁当とってもらおう 友梨愛のお勧めは」

「それじゃ これ イタ飯チラシ天津オムレツが一押しかな これは四川風でこっちは餃子パスタに焼きスパゲッティオリジナルソースにこれが柳川風焼き唐揚げ親子丼」

「じゃあ 一押しのイタ飯チラシ天津オムレツをもらおうかな」

「わたしはイタ飯粗挽き牛肉のビビンバをもらいまーす わたしオーガニックでバイトさせてもらってるので 毎日食べてるんですけど もっと たくさん面白いお弁当があるんですよ」

「オレも弁当つきのバイトさせてもらいたかったんだけど 友梨愛のところは女子しか雇ってくれないからな」

「わたしは女子だからバイトはOKかしら」

「友梨愛 先輩はバイクの免許もってますから 帰りに送ってもらえますよ なんてゆうバイクでしたっけ?」

「えっ ああ CBR250RR MC22型」

「真っ赤でカッコイイんですよ まえを覆うの 何でしたっけ?」

「カウル」

「そう 赤のカウルがついていて」

「木元さん バイク乗れるんだ」

「ええ」

「ギターもうまいし なんでもできるのね うらやましい」

「久瀬さん こそ 美人だし 女優に向いてるみたい 都市伝説 隣りのお姉さん すごく面白かったよ 高卒女子のヒキニートのモバゲージャンキー 脚本も久瀬さんが書いたんでしょ」

「そうだけど」

「才能あるわよ 劇団受けるとか」

「劇団も考えたことはあるんだけど 苦労しそうだし なにか違うのよね アナウンサーくらいが無難かなとかも おもうけど」

「それは 無難すぎじゃない アナウンサーってさ テレビにはでてるけど サラリーマンだからお給料でしょ 日曜日に司会のバイトしてたりして 地味過ぎで 華なさすぎ 久瀬さんには合わないよ」

「そうかしら」

「そう だよ それなら声優のほうがまだいいよ それに 女は四年制の大学にいっても 歳ばっかりくって つまらないし 専門学校でもいって 声優のオーディションを受けたほうが 早く社会に出られるし 歌手とか女優とか兼ねている人もいるから華もあるし」

「木元さんは 考えがしっかりしていて 大人だよね 」

 部室の扉をノックする音がする

 涼介が

「誰だろう どうぞ」

 絵に描いたような美形の若い男がチャコールグレーのスタイリッシュなスーツ姿で入ってくる.

「失礼します わたしは Global Musical Corporation 代表取締役 敷島良賢と申します」


 この若い男 敷島良賢のプロフィールはとゆうとWikipediaによれば

 R&Bのアーティスト 17才でデビュー 妖艶な姿とギターの演奏力も抜群でスーパースターとしてもてはやされる.

 マルチプレイヤーで楽器にも精通して 自ら編曲も手がけ ソングライターとしても ヒット曲多数 代表曲『lady rose』『sexy violet』

 23才で起業家に転進してGlobal Musical Corporationを起業した.

 とある.


「ライブ みせていただきました プロとしてデヴューする気はありませんか」

「本当ですか」

「ええ 時間が良ければ具体的にお話ししましょう」

 4人は大いに喜んで

「はい お願いします」

「そこに 座っていいですか?」

 涼介が敷物の間を開けるようにして

「ここ どうぞ」

「どうも」といって座ると

「あなたがたは未成年なので プロとしてデヴューするには まずご両親の承諾が必要になります 両親が承諾されれば 正式な契約になります あなたがたはバンドとして基本的に楽曲はオリジナルですから その制作については わたしがプロデュースしましょう マネージメントもうちでやります ソフトの制作と宣伝 販売にかかる費用は一切弊社が負担しますが ソフト販売における収益は制作にかかわる経費を差し引いた残りの60%を弊社の収益とし 40%を支払うものとします あなたたちはバンドで4人ですから 40%の4分の1ずつ支払う形になりますね 例えばソフトの売り上げが1億円で経費が3千万なら4千2百万円が会社の収益で支払分が2千8百万円で バンドの場合 作詞 作曲の印税を分けないで機械的に人数で分けるのが普通ですから その4分の1の700万円が1人の収入になるとゆうことですね もしあなたがたが売れなかった場合でも かかった経費はすべて会社の負担として一切請求されませんから それは安心してください」

 鞄から書類を取り出し

「それでは ご両親にこの書類に目をとうしてもらって よかったら署名と捺印をもらって 事務所の方へ持ってきてください」といってそれぞれに渡す

 好子が

「あの 失礼ですけど 歌手でしょ お姉さんが大ファンで sexy violet が好きでライブのブルーレイを観て 怪しげなことよくしてましたから そうでしょ」

「ええ はい いまはビジネスマンですけどね」

「歌手は辞めたんですか?」

「辞めた とゆうわけでもないんですが 今は芸能活動より会社の経営を中心にしてるんですよ」

 友梨愛のほうをみて

「あなたが CBR250さんかな?」

「えっ なんで?」

「それなら あなたがアイドルマスターさんか」

「うそー どうして?」

「京之介はどっちかな」

「ええー まさか あなたが日曜学者さんですか」

「オレが」

「PC356かな」

「当たりですよ」

「わたしも会社をはじめてまもないけれど 任せてくれないかな」

「みんなが ここまでこれたのは博士のおかげですから」

 4人で「うん」とうなずきあうようにしてから口をあわせるように

「よろしくお願いします」





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