第36話 キララズエイト☆
レプロスに唯一あるライア教会。
レプロス市郊外にあった、破産して抵当に入っていた劇場を修道会が買い取って出来た教会だ。
敷地面積も大きく、劇場だった建物は地下設備まである。
そして、ゴゼ市と隣接している。
「リベラの私邸は北側にある。丘陵の頂上から降って私邸に入る。」
声が反響するほど広い地下室。
リベラ邸の地図を広げて、坊主頭の小男、チアゴはルートを指し示す。
中央テーブルの真上にぶら下がる、ランタンのぼんやりとした灯りは、テーブル周辺に立つ数人までしか照らせない。
部屋の四方のベンチにズラリと腰掛けた兵士は、息遣いと影だけで存在を示してる。
「
「テンション上がらねぇ。」
眼帯の男、ソラーテがパキパキと首を鳴らして大あくびする。
「
ベリーショートの女、ミセリも追随して退屈そうに伸びをした。
「例の勇者達はどうなってる?」
腕組みしたスキンヘッドの巨漢、ディンゴが問う。
3人してチアゴの隣に立つ司教を見る眼差しは冷淡だ。
望む返答でなければ用はないと当て付ける目。
額に無数の小粒の汗を浮かべながら、司教はパリッと音を立てそうな乾いた口を開く。
「……今朝、それらしい集団がゴゼに入ったと報告があった。記録にあった勇者の女、男、ワニ……それ以外に聖人と思われる男が一人、それから、ゾーアが雇った傭兵…
「ラウルとメルか。」
「寝返ったのか?」
司教がチラリとゾーアを見る。
槍玉に挙げられた気になったゾーアは、首を降って3人を見た。
「わ、わかりません!ただ、襲撃に失敗したという報告がありました……!寝返ったのか、そ、それとも捕らえられたのかは、私には判断しかねますが……どちらにしろ、所詮は傭兵です……」
それを聞き届けた3人は薄ら笑いを浮かべる。
その意味がわかるチアゴは3人に頷く。
「勇者らが真正直にリベラに交渉に行くとは思えん。カジノの客に紛れて侵入を試みるだろうな。傭兵どもの意図はわからんが……邪魔になるなら排除すればいい。」
「テンション上がってきた!」
「メルってのはハンサムだって聞いてるよ?あたしのもんだからね!」
「俺達を知ってる奴らだ。油断しない方がいい。」
とは言うものの、ディンゴにも気負いは無く余裕すら感じられる。
「お前達、目的は聖杯だ。そして、都合良く剣もある。どちらも奪取し破壊する事が最優先だぞ。忘れるな。」
チアゴが釘を刺すが、3人は寝耳に水のようだ。
その様子に司教も慌てる。
「お、お前達、わかっていると思うが、今回のリベラ邸の襲撃は、正教会と関連が無いようにちゃんと工作するんだぞ?!ここはラットリアだ、他国のように教会の圧力が通用しない。被害も出来るだけ小さく、間違っても東征のような……」
司教は突然押し黙る。
3人とチアゴだけでなく、部屋にいた兵士全てが司教を射抜くように見ていた。
ピリリと空気が張り詰める。
「東征が、何だって?」
「赤紋を避ける
「あんたが代わるか?」
後ろに控えていたゾーアまで、その迫力に恐慌し震える。
「わかっているさ、ロガー司教。あんたは黙って、ここで獲物が届くのを待っていればいい。ミセリとソラーテは本隊、ディンゴは別働隊で、それぞれ
視線が外れ、圧も逸れる。
チアゴに肩を叩かれ、ようやく緊張が解けた司教は、全身から汗が吹き出るのを感じた。
そして、この作戦の結末を否応にも予感し、嘲笑が漏れた。
(……チアゴ特殊作戦部隊……彼らと出会って生き延びた者はいないという殺戮部隊……。同情するぞ、リベラ会頭。お前は最も残酷な死神を招いてしまったのだ……。)
──────────
マジで死ぬかと思った。
天に召されるかと思った。
3秒くらい心臓止まってた。
「きき、キララさん……?き、聞いてる…?」
「ごめんバースさん、あまりにも非現実的な美貌だから、ちょっと召されてた。」
大胆に胸元を開いて惜しみなく玉肌を晒した赤いタイトなドレス。
鍔広の豪華なお花の帽子と黒いレースの手袋。
マダムだ……女神のマダム……
なんてゴージャス……ファンタスティック☆…
その隣にはピンクの花の妖精です……
「ジュリアさんも、見違えたわ。美人に磨きがかかってる。」
モジモジして赤くなってるジュリアさんも可愛いったら。
やっぱ元がいいと素晴らしいものしか出来ないな。
元の体の私だったら珍獣になってるよ。
「あ、そうだ。ムタくん、これ、ラウルから。」
「あ、はい!ありがとうございます!」
預かっていたボールをムタくんに渡す。
一体何なのかわからないが、ムタくんは用途を知っているような顔。
あれ、あのおっさんといつの間に仲良くなったの?
「キララさん、先程また電信がありました。チアゴはライア教会を拠点とし、やはり今夜仕掛けてくるようですね。」
タキシードのミゼットさんかっけぇ。惚れる。
とか言ってる場合じゃないな。
ああ、本当に来るんだな、ヤバい部隊。
「二人が先に準備してるわ。私も後で合流するけど。そいつらは私達が意地でも足止めするから、皆は打ち合わせの通りに、頑張ってね。」
「それでは、私とムタくんは客に紛れて私邸前に潜みます。」
「ミゼットさん、ムタくん、気を付けてね。」
「はい!」
「ムタくんの事は任せて下さい。」
張り切っているムタくんに比べ、冷静なミゼットさん。
いや、冷静というより、その雰囲気は……
「では、俺達も行くか。」
大きなリボンの寺田さんが二人に声を掛ける。
「寺田さん、絶対に喋ったらダメよ。」
「わかっている。」
ラウルとメルさんが言ってた。
ワニは喋らねぇよ、って。
だよね、喋らねぇよ。
今まで喋る事を受け入れてきた仲間達が間違っていたんだな、やっぱり。
「バース様、私がいますから、大丈夫ですからね。大丈夫……多分、大丈夫。」
「は、はい……」
バースさん、やっぱり不安。
ジュリアさんもかなり緊張してるみたいだし。
私はまず、ジュリアさんの手を握り締める。
「練習の通りにすれば何も問題無いわ。あなたは魔王を倒せる最強の勇者で、その辺の貴族令嬢よりずっと美人なんだから。自信持って。今のジュリアさんは無敵よ。寺田さんもいるし、何も恐くないわ。」
ジュリアさんの目にも、握り返す手にも力がこもる。
何だか、表情に美人度が増した気がする。
自信持ってくれたかしら。
そして、私はバースさんにも同じように手を握る。
その時、レースの手袋の模様に気が付いた。
「わあ!縁起がいいわね!」
「え?え、あ、……縁起がいい??」
「この手袋の模様、
デックスはハートやスペードじゃなくて、太陽、月、星、雲なのだ。
「手の甲が星なのね。……バースさん、私の「きらら」という名前は、流れ星という意味なの。」
「……流れ星……」
「そう、流れ星。願いを叶える幸運の星よ。恐くなったら手の甲を見て。私がそこにいるから。」
バースさんは手の甲をじっと見た後、私を見上げる。
「最強の勇者を侍女にしているバースさんは最強の女神ね。今夜だけ演じてみて。シャイなバースさんは一旦休憩して、大胆で怖いもの知らずの最強の女神。今の貴方はどこからどう見たって、もう、そう見えるんだから。」
ちょっと直視するには心臓に悪いバースさんの大きな青い瞳に、強い光が宿った……ような気がする。
最悪、カジノで儲からなくても聖杯さえ取って来ちゃえば……いや、レイ族の借金分は稼がなきゃダメか……。
「寺田さん、行ってくるわ。」
「みっともない真似はするなよ。」
「あのさ、ちょっとは心配とかして欲しいんだけどさぁ。」
「お前は俺だからな。俺に心配なんぞ無い。安心して行って来い。」
表情は無いけど言葉の強い寺田さん。
何故かいつも自信満々。
そのふてぶてしい態度と勝ち気なところ、癪だけど、心強いわ。凄くね。
リベラ邸という戦場で、それぞれが持ち場につく。
これは、チーム戦だ。
もともと、寺田さんという体にいる私は一人じゃなかった。
けど、今は寺田さん以外の皆も私といる。
期待されてる。
そして、私も皆に期待してる。
よっしゃあ!!圧勝してやろうじゃないの!!
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