第30話 察しのいい方にはネタバレの回
「なるほど、そんな事があったのですか。」
戻ってきたミゼットさんが縛られた二人を遠目で確認する。
あの二人、逃げるとか黙秘するとか、そんな捕虜っぽい様子は無かった。
むしろ「腹が減った」だの「椅子に座りたい」だの「足が痒いから掻いてくれ」だの「髪が乱れたから梳かしてくれ」だのと、注文ばかりして来た。
なんつー図太い神経なんだろうと私は呆れたが、レイ族は「はいはい」といたれりつくせりしちゃって、ミゼットさんが来るまでお大尽扱いされてた。
その様子に呆れるミゼットさんに、勇者一族ってほんとお人好しですね〜、なんて言ったら、あなたも一緒になってはダメじゃないですか、と、ため息をされた。
あー、うーん、そっか…
でも、どうすればいいか解らなかったし……
今は外に放り出されて寺田さんに見張られている。
「そして、こちらが聖杯の守護者……ですか?」
部屋の隅のモ○ゾーに振り返る。
そして帽子を胸に当てて姿勢を正す。
「私はレプロス領主、ルチャ・レプロスの侍従のミゼットと申します。お目にかかれて大変光栄です。」
「……………」
丁寧な挨拶をするが、モ○ゾーは沈黙して動かない。
葉っぱのオブジェに恭しく挨拶するミゼットさん、ちょっと面白いな。
「……あの…?」
「すみません、ミゼットさん。名前はバースさんと仰るんですけど、ちょっと…人見知りで……」
「…………なるほど。」
ミゼットさんはフッと察した笑顔をした。
ここ、変なのしかいねーなって絶対思ってるでしょその顔。
「それはそうと、契約書の確認をして参りましたが、どうやらこの一連の詐欺事件、最初からリベラ商会が絡んでいそうですよ。」
集まっていた村長さん達がざわざわと動揺する。
「まず、エスタファと名乗る男がリベラ商会の融資窓口に持ち込んだ事業計画書ですが、商売素人の私ですら断るであろう杜撰な粉飾内容です。あれで融資を決定するなんてまず有り得ない。」
ミゼットさんはいくつかの紙をテーブルに置いた。
「契約書ですが、残念ながら破棄出来るものではありません。公証人が立ち会い、会頭、エスタファ、そして族長、あなたの署名まで入っていました。」
「ええ?!」
「融資の保証人にあなたの名前がしっかりとあります。内容を確認しなかったのですか?」
「そ、それは……。説明されたのは、香水の売り上げの80%は村の利益だと言う内容しか……」
「これからは全ての記載を確認するべきですね。問題は、担保として工場の権利のみならず、この村の土地権に加え……そこに聖具が含まれている、という事ですね。聖具を個人資産とみなし、担保に入れる事に了承してしまっている。」
族長は死にそうな顔をしている。
「……あの、でも、いつかは完済するんですよね?」
ジュリアさんが落ち込んで下がる族長の肩にそっと手を添えて、引き攣った笑顔でミゼットさんを見る。
「その支払い残高をざっと計算したものがこれです。」
ミゼットさんは紙を広げて見せた。
「融資額1万レンス、年利10%で更に複利。返済額は毎月50レンス。」
「はああ?!!」
私は思わず立ち上がって叫んだ。
「ごご、50レンス、ですか?!毎月?!」
「ムタくん、そこじゃない!こんなの無理じゃん!終わらないよ!」
「仰る通り、永久に返済は終わりません。」
どよめきが起こる。
族長は真っ白な顔で縋るように私を見た。
「お、終わらないとは、ど、どういう事ですか?」
「年利10%ということは、1年の利息が10%。初年度は利息を合計して11000レンスです。そして月50レンスづつ返済すれば初年度残高は10400レンスになりますね?でも、次年度にはまた10%の利息が付きます。更に複利ですから、利息にも利息が10%付きます。次年度の返済残高は11440レンスで、初年度より支払い残高は増えているんです。払っても払っても、利息は増えていって返済は終わらないんです。」
「そ……そんな……」
族長、真っ白に燃え尽きる。
おじさん達もお堂周りの村人達も魂が抜けた顔になる。
中には失神者も。
「やはり聖杯を奪ってくるしかありませんね。この案件、最初からリベラが聖杯を奪う為に仕組んだとしか思えない詐欺です。リベラは聖杯を返すつもりはありません。」
「り、リベラ商会は正教会と結託しているんでしょうか?!」
「聖杯を奪取する目的は変わりません、どちらでもいいでしょう。」
「リベラ商会にカチ込む気か?!」
話が聞こえていたらしく、鎧男が外から大声で割り込んで来た。
「あんたには関係無い話よ。」
「まあ、聞けよ!俺達はリベラ商会で用心棒をしていた事がある!」
「違うでしょ、ラウル。リベラのカジノで借金して、タダ働きさせられたんじゃん。」
「うっせぇメル、黙ってろ!リベラ商会の直営カジノの用心棒だが、直営カジノはリベラ邸だ!邸宅の内部構造は知ってるぞ!警備網もな!」
私とミゼットさんは顔を見合わせる。
もしかして使えるかも?
きっとミゼットさんもそう考えたのか、私に頷いてみせる。
「あんた、どういうつもり?」
「そこの黒コートは領主の手先だろ?!領主の侍従に危害を加えたら領地追放だ!それじゃ、俺達はおまんまの食い上げになっちまう!取り引きしようぜ!俺達は情報を持ってるし、腕も立つ!上手く行ったら恩赦で見逃してくれ!」
ミゼットさんは顎先を撫でながらしばらく考え込む。
「ラウルとメル……なるほど、
「おお!お前、俺達を知ってるのか!」
鎧男嬉しそう。
そうよね、誰もあなた達の事知らなかったもんね。
「確かに、腕は立ちますが………」
ミゼットさんの声音は低く渋い。
彼らの危険度をよく解っているのだろう。
だって、めっちゃ強かったんだもん、そいつ。
急に仲間にしてくれって言われても困るよね。
「僕が言う立場には無いけど、いい案だと思うよ?リベラは、あんたと同じような脱走兵を何人も護衛として雇ってるし。正面突破はかなり難しいよ?」
ミゼットさんが何人もいるって?
それ、かなりヤバくない?
でも、こいつら信用しちゃっていいのかなぁ?
ガチで私を殺しに来てたんですけど?
「……先に持っている情報を全て話してもらいましょう。」
「免罪の確約が先だ。」
鎧男とミゼットさんが睨み合う。
「……そ、そんな……血の滲む思いで、働いていたのに……」
「…むしろ、ふ、増えていたなんて……」
火花を散らす二人を他所に、おじさん達は放心してずっとブツブツ言っている。
「い、一体、今、いくらに膨れ上がっているんだ……?」
「………16964レンスと、9700リア…です…」
ずっと緑のオブジェだったバースさんが、ポソっと口を出した。
「い、い、1万6千……」
白目になるおじさん達。
「バース様、凄いですね。計算されたのですか?」
ジュリアさんが感心すると、葉っぱがガサガサ震え出す。
「え、あ、いえ……そ、その紙に、書いてあります…」
え、そこから残高計算書見えていたのね。
……いや、紙はもう纏めてあって、記載部分は見えていない。
「……バースさん、もしかして、残高覚えたんですか?」
「あ、は、はい……」
「もしかして……、全部の数字を?」
「あ、あ、えっと……はい……」
え?!!凄くないそれ?!!
「聖域の外でもそんな事が出来るんですか?!聖域出たらただの人になるんじゃなくて?!」
「え、え、えっと、ししし、神弓は、つつ、使えなくなり、なりますけど……けけ、けど、創薬とか、ほほ、他のこここ、事は……」
聖域の外でも、とんでもない記憶力は発揮されるのか……。
私の脳内である映画が思い起こされる。
「ねえ!鎧男!」
「鎧男じゃねえ!ラウルだ!」
「リベラの直営カジノって、どんなゲームがあるか覚えてる?!」
「ああ?……ルーレット、サイコロ、ネズミレース、矢刺し、カード…」
「カードゲームにはどんなものがあるの?!」
「キャッスルと…」
「ルールで説明して!」
「あーっと、役を揃えるものと、手札を減らしていくもの、あと、数を揃えるものだ。」
「数を揃えるものって?!」
「まず、2枚のカードを配られて、カードの合計を…」
「「21に近づける」」
突然声が揃って鎧男は黙る。
「…何だよ、知ってるのか?」
「……ブラックジャック………」
「はあ?そんな名前じゃねーぞ?」
私は勢い良くミゼットさんに掴みかかる。
ミゼットさん、ドン引きな顔をする……が、興奮が勝ってるから傷付いたりしないもーんだ。ちょっとしか。
「ミゼットさん!もしかして、討ち入りしなくても、正攻法で聖杯を取り返せるかもしれない!」
「……え?」
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