第14話 喋りすぎる悪役ってやられるの待ってるよね絶対
「ぐぬぬぬぬぬう…!」
「姉ちゃん、この蔦全然切れない!」
二人が必死に引き剥がそうとしているのは、剣を取り込むようにして生える太い蔦だ。
非力な二人の力では蔦を取り除く作業も一苦労で、剣は見えているのに一向に取り出せる気配はない。
「ダメだわ、この蔦固すぎる!」
「僕、剣を引き抜けないか引っ張ってみるよ!」
ムタが蔦の隙間から剣に手を伸ばす。
その背後の森から…
「………ほう、あなた方はひょっとして、ロアの勇者……ですかな?」
「「?!」」
振り返った先の黒い森。
月光の下にふらりと現れたのは、赤く汚れた袈裟を来た壮年の男だ。
まるで、闇の中から湧き出た悪魔のような風貌をしている。
「なるほど、それが異教の剣ですか。樹木に巻かれて朽ちた錆だらけの古具。ふふ、あなた方にはお似合いですね。」
「ムタ!早く剣を抜きなさい!」
ジュリアはムタの前に出て、傍に落ちていた石を掴んで構えた。
顔付きこそ気丈に睨み付けているが、手も足も震えている。
「はは、猿ですら銃火器を使いこなしていたというのに、石ころで立ち向かいますか。さすが勇者、勇ましい女性ですね。」
笑いながら司教が踏み出すと、ジュリアは一歩退く。
「姉ちゃん!」
ムタが鉄の剣を抜いてジュリアの横に並び立った。
「バカ!あんたは早く剣を持って逃げなさい!」
「そっちこそ!姉ちゃんの方が足が速いんだ、それに僕はもう、逃げるのは嫌だ!」
「私より弱っちいくせに!私の方が2つ年上なんだから、弟は言う事聞きなさいよ!」
「戦うのは男の役目だ!姉ちゃんこそ女なんだから下がってよ!」
二人は言い争っていたが、ふいに司教がパンっと手を鳴らして、二人はビクリとして黙った。
「美しい姉弟愛ですね。いや、信仰は違えても人の愛は通じて美しいものです。………それを引き裂くなんて無粋な真似、聖者である私に出来ようはずもない。」
司教はゆっくりと二人に拳を向けた。
その中指に付けられた指輪には大きな赤い宝石が妖しく光っている。
「あなた方には慈悲を与えます。錆びたナマクラ諸共、二人共痛みも無く神の元へと導かれるでしょう。さあ、祈りなさい。」
赤い宝石から真っ黒な炎が蜘蛛の足のように這い出たと思ったら、指輪の正面で炎の球体をかたどる。
「あ、悪魔…」
ムタの呟き通り、それは聖者とは遠い所にある、禍々しい地獄の業火を操る悪魔そのものの姿に見えた。
恐怖で動けない二人に、炎の玉は容赦なく放たれる。
「……!!」
目を固く閉じた二人は瞬間、誰かに身を強く引かれた。
直後、後方から耳が麻痺するような爆音が響く。
頭までクラクラとする中、二人は誰かの腕の中にあると気づいた。
「…あっっぶねー!」
「オラウ様!」
「オラウ様、ご無事で良かった!」
「ほんと良かった!良かっ…うわあああ!」
「きゃあああ!オラウ様?!う、腕?!」
無事を喜んだのも束の間で、オラウの右腕の肘から下が無い事に気付いた二人はパニックになった。
「お、オラウ様!み、みみ右腕!早く手当てを!」
「あわわわ、姉ちゃん、包帯…いや、布!僕の上着を…!」
「落ち着けお前ら!それどころじゃねぇだろ!」
司教の足音が近づいてきて、二人はハッとして振り向く。
「生きていましたか。そのまま逃げていれば多少は延命出来たでしょうに。残念です。」
「生憎と俺はしぶてぇんだよ!」
オラウは二人を背にして司教を威嚇しながら、二人に小声で指示する。
「今の火の砲は連発出来ないらしい、俺が足止めしてる間に早く剣を!」
「で、でも…!」
剣の刺さっていた石の台は跡形もなく吹き飛ばされている。
聖剣とはいえ、朽ちていた剣など木っ端微塵になっていると思えた。
絶望する二人にオラウは叱咤する。
「魔王を斬り伏せるような剣だぞ?!あんな火の玉で砕けるかよ!さっさと探せ!」
「………!はい!」
二人が駆け出すと同時に、オラウも司教へと飛び掛かる。
「その指輪、すぐには使えねぇんだろ?!力勝負するかよ、青びょうたん!」
「
オラウと司教の戦闘が行われる隙きに、二人は聖剣を探す。
「……あ、あった!」
ジュリアは土を払い除けて剣を取り出す。
錆びて刃こぼれしているが、剣は何とか形を留めていた。
早くこれを持って逃げなければ、と立ち上がった瞬間、自分達に向かってオラウが吹き飛ばされてきた。
「オラウ様!」
「……ぐぅっ…!」
白い体毛に血が流れ、オラウはぐったりとしている。
咄嗟に、ジュリアはオラウの前に出て剣を構えた。
「姉ちゃん!」
「ムタ、オラウ様をお願い!」
ジュリアの全身は震えていた。
怖い…怖い!…けど!
傷付いたオラウと弟のムタを前にして、ジュリアは怒っていた。
これ以上傷付けさせたくない。
もし自分が本当に勇者ならば、これ以上ひどい事をさせてはいけない。
「おや、存外丈夫な剣のようですが……ははは、あなたは知らないのですか?勇者の聖具は人間に害を与える事は出来ないのですよ?それとも、ナマクラを持って純粋に剣技で私とやり合うつもりですか?あなたにはそんな心得は無そうに見えますがね?」
余裕の笑みを浮かべながら司教は右手の指輪をかざした。
赤い宝石にまた炎が立ち昇る。
「茶番はそろそろ終わらせましょう。」
また炎の球体が形作られる。
(勇者様、ご先祖様、申し訳ありません。私は使命を果たす事が出来ませんでした。でも、どうか皆をお守り下さい。私はここで死んでも、ムタはお救い下さい。私に最後まで立ち向かう勇気を下さい。どうか…どうか……)
その時、ジュリアの頭の中に声がした。
『───
「………え?」
『邪気を検知しました。これより破瘴システムを起動します。』
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