第2話 召喚したかったのは寺田さんだそうで
「えーっと、ここまでの話を反復しますね?」
私はスウェットのような服を来て、先程の広間ではなく宮殿の応接間のような豪華な装飾の部屋で、円卓に座って話す。
向かいに座る魔王さんとワニの寺田さんもうん、と頷く。
セ○スさんはお茶を淹れている。
「まず、魔王さんは寺田さんを召喚しようとしたけど、召喚された寺田さんの肉体には何故か私の意識が取り憑いていて、寺田さんの意識は何故かワニに取り憑いている、と。」
『うむ。』
「不思議な事があるもんだな。」
寺田さんはテーブルに前足を置いて椅子の上に立つような形。
魔王さんは体が大き過ぎて椅子に座れず体操座り。
…いっそ地べたで話せば良くない?
「えー、それで、原因なんですけど、召喚のタイミングや召喚時の操作…という事ですが…」
「恐らくは。」
私の前にティーセットを置いてセ○スさんが答える。
『テラダは齢が70を超えていたからな。それではこの任は荷が重いやもと、若返らせて更に強化しようと試みたのだ。』
「それが操作なんですね。」
私が乗り移っているこの寺田さんの肉体。
確かにすげー腹筋だったし、腹筋だけじゃなくて全体的にムキムキしてる。
体は大きいのに重い感じも全然しないし、なんというか、無駄が無い感じ。
ティーカップを取る手も心なしか軽いような?
「タイミングというのは?」
『召喚というのは何とも繊細な作業でな。儂のイメージや持つ情報が明確で、且つ、術を展開する座標軸や時間軸を正確にコントロールせねばならん。』
「魔王様は細かい作業が苦手ですからねぇ。」
『うむ。特定の個人というのは滅多に一発で出てこんでの。』
異世界召喚系でハズレがよくあるのはそういう事か。
ここにまたしても被害者が。
『テラダがおった場所にお前もいて、巻き込まれたんだろうな。』
「え?こんな人いたっけ?私はワニのプールに落ちて、気付いたらここに…」
「俺は湯治に来ていたんだ。風呂に入って気づいたらここにいた。てっきり死んで六道に堕ちたと思ったがな。」
湯治……そういえば、私がいたワニ園の近くが温泉地だったような…?
「ところで、私の体はどこに?」
「恐らく、ワニの意識が取り憑いていてあちらに置き去りになっているかと。」
「はあ?!嘘、冗談でしょ?!」
勘弁してよ!
私の体で一体何をやらかしているのか気が気でない!
「私だけ元に戻せませんか?!意識だけでも!」
『すまんが、それは無理じゃ。術をキャンセルすれば戻せるが、折角呼び出したテラダも戻ってしまうでの。次はいつ成功するかわからんし、事は急を要する。申し訳ないが、儂の頼み事を聞いてもらってからになるの。』
「困ります!仕事もありますし!」
「魔王様の依頼を達成されてからでも、術をキャンセルすれば元の時間と場所に戻れますから。私からもお願い致します。」
むう、もの凄く綺麗なお辞儀。
ちょっと断り辛いじゃないのよ…。
「その頼み事というのは?」
『うむ。どこから話せばいいか……まず、実はこの世界は───いや、この星はな、一つの生命なのだ。星には数多の命が生まれ満ちておるが、中には不具合も発生する。それは邪気と呼ばれる。』
「邪気、ですか?」
『うむ。邪気とは水を腐らせ木々を枯らし命を滅する負の瘴気じゃ。星はこれを吸い取る為に儂を生み出した。しかし、儂にも許容があっての。許容を超えると邪気が漏れ出てしまう。そこで、星は邪気そのものを滅せられる勇者を生み出した。』
おお、勇者。
何か異世界っぽい。
『儂が邪気を吸い寄せ溜め込み、限界が近づくと勇者が一掃する。そして儂はまた邪気を溜め込んでいくと、まあ、このようなサイクルになっとるわけだ。』
「しかし、このところ勇者が来なくなりましてね。」
セ○スさんが深いため息をする。
『勇者というのは貧弱での。』
え、勇者なのに?貧弱なの?
そりゃ誰しも最初はレベル1だろうけどさ。
『勇者は邪気には絶大な力を誇るが、人間には滅法弱くてのう。儂の元に辿り着く前に人に害される者が続出したんじゃ。』
「昔は治安が良かったんですがねぇ。」
『それにしても、誰もここへ辿り着かんのは前代未聞じゃ。』
つまり、魔王と勇者と人間でジャンケンのような関係性が出来上がっているわけか。
「何故、勇者の邪魔をするんですか?私の知識では、勇者といえば英雄というか、大切にされるものだと…。人々は勇者と魔王のサイクルを知らないんですか?」
『人は短命だからの、儂と勇者の伝承が途切れておるのかもしれん。』
「人の世界にはライア教という新興宗教が幅を利かせているようですし、それも原因の一端かと思われますね。」
なるほど、勇者の伝承を異教扱いして迫害してるのかもしれない。
勇者が貧弱なら勢力的にも弱いだろうし。
「では、勇者を迎えに行って、無事に連れてこればいいんですね?」
『そういうことじゃ。ここから一番近い勇者はどの辺りだったかの?』
「えーと…現在生存している勇者は197名ほどですね。」
「多っ!」
『これでも心許ない数じゃよ。』
「一番近い村落の勇者は…ああ、先日14人のお孫さんに囲まれて大往生しましたね。」
『そうか、穏やかに過ごせたようで良かったのう。』
「え、お亡くなりになられちゃったんですか?!」
「ああ、その方のお孫さんに勇者がいますね。恐らくこの子らが一番近くにいる勇者になります。未成年ですが…テラダ様らの護衛があれば問題無いでしょう。」
「え、子供ですか?!誘拐みたいになりません?!」
『では、早速行ってもらうかの。』
「そうですね。」
「承知した。」
「聞いてます?!」
ていうか、寺田さん突然返事だけしてちゃんと話聞いてたのかな?!
いや、それより迎えに行くにしても問題とかさ、もっとしっかり準備とか予習とか要るんじゃないの?!
と言う間もなく、私と寺田さんは魔王のお使いで勇者を迎えに行く事になった。
魔王城を出て一人と一匹。
スウェットに手ぶら。
あれ?装備は?
チートアイテム的な何かは?
途中から全く話に入って来なかった寺田さん。
城を出る前に「任せろ」と自信満々に言い放ったが、ちゃんと話は聞いていたんだろうか。
「ではきらら殿、行くか。」
「あ、はい……ていうか、きららじゃなくて大西で呼んでもらえません?!」
くそっ、うっかりフルネームで名乗ってしまったせいで!
新しい世界では新しい私でやり直したかったのに!
全く私の話を聞いていない寺田さんは力強く歩いていく。
4本の足で、堂々と、それはもうゆっくりと踏みしめて、のっしのっしと…
「すみません、寺田さん。担いでいいですか?」
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