魔王のヘルプの寺田さん
星道三
第1話 思ってたんと違う異世界転移しました
流星と書いてきららと、一体誰が読めるだろうか。
こんな名付けをした両親はさぞかし脳味噌がお花畑だったのだろう。
お花畑脳で結婚しお花畑脳で子作りし、脳内のお花が枯れ果てたところで現実に目覚めた両親は離婚した。
奴らはそれでフローラルトリップを清算した気でいたのだろう。
しかし、
母子家庭となった小学生時代から、私は幾度己の境遇を恨んだ事か。
名は体を表すというが、私の名は一つも私を表さなかった。
卒業アルバムには天パ能面顔のぽっちゃり仏陀。
「としこ」や「はつえ」や「シッダルダ」の方がよほど違和感無くフィットするこいつの名前は「きらら」である。
君の名は。って尋ねられても全力で黙秘だ。
いじめの格好の的にしかならない。
案の定、青春時代は黒冬時代と化していた。
しかし私は負けなかった。
名を名乗る度にやたら相手にインパクトだけは与えやたらに覚えられ傷付きはしたが、中学校時代「大仏きらら」と呼ばれようが、高校時代「メガ盛りちゅうえい」と呼ばれようが、不登校にも引きこもりにもならず学校に行った。
奨学金で大学に行き、教育実習で子供に「輝く東大寺」と呼ばれようがなにくそで課程を修めた。
そして現在。
中学校講師3年目。
名前のせいか顔面と名前のギャップのせいか、教員採用試験に尽く落ち続けているがまだめげていない。
一生付き纏う呪いに、膝を屈してたまるか。
今回が4度目のチャンス。
二度あることは三度あるが、四度あるとは聞いた事が無い。
今年こそ、今年こそ。
と、思っていたのが小一時間前。
結果、不採用。
三度ある事は四度あった。
担任もして部活の顧問もして研究授業までして、正職と同じ労働をしてるのに、不採用。
同じ仕事で待遇に差を付けられている。
同期の同じく講師が言うには、国語教諭は現職が足りてるから落ちやすいとか。
は?倍率1.2倍だったやんけ。
落ちる奴のがどーかしてるやんけ。
何?私が大仏きららだから?
一時のテンションで付けられた名前の呪いがここまで私の人生を狂わせるのか?
不採用て、奨学金どうすんだよ。
講師の給料じゃ借金払って家賃光熱費諸々払ったら残らねーよ。
もう疲れた。もういい。
少ない有給をとってやってきた動物園。
一人、温水プールに浸かるワニを上から眺めてつぶやく。
「この世にゃ神も仏もねー…」
頭だけ出して微動だにしないワニ。
あんたはいい身分だね。
ぬるま湯に浸かってるだけで三食昼寝付きかい。
生まれ変わるならワニになりたい。
温水プールに浮かぶワニに。
あの顔見てよ、何もかも悟ったような虚無だよ。
これ壁紙にしよ。
そう思ってスマホを取り出した。
それが、手から滑り落ちていく。
やばっスマホ…
と思った時には遅かった。
手を伸ばし、うっかり柵から身を乗り出したら体が勢いにのって傾く。
大きな頭部の重量で落ち……
って、そんなに私の顔面重い?!
虚無なワニの頭部が目の前に迫ってくる。
あ、これ、ダメ。
ワニの水槽に身投げしたみたいなやつ。
ネットニュースになるやつ。
ザバン!!
と、池に落ちる音がした。
うん、温水プールに落ちた、私は。
ワニのいるプールに。
しかし、水に落ちたはずなのに濡れた感覚がない。
濡れた感覚どころか、プールじゃない。
動物園でもない、全く違う場所にいる今、絶対。
待って、頭が混乱している。
ここはどこ?私は……きららじゃい、クソが。
『うむ、成功したようじゃな。』
無数の松明に照らされた黒い広間の中央。
金色の玉座から重低音が響き渡る。
そこにいたのは、シルクの光沢をしたトーガに黒と金の絢爛なチュニックを着た、巨大な骸骨だった。
『ようこそ、異界の者よ。』
骸骨が喋った。
「おめでとうございます、魔王様。やっと成功しましたね。」
『うむ、長かったな。576回連続でエチゼンクラゲが出てきた時は流石に泣きそうになったわい。』
巨大な骸骨と隣りに立つ燕尾服の初老の紳士がこちらを見て和やかに話している。
え?アイ○ズ様とセ○ス?
魔王様?どういうこと?
「あ、あの…」
と発した自分の声にびっくりした。
突然声が枯れたのか?
菅生隆之も裸足で逃げ出す超絶テナーイケボイスじゃねーか。
慌てて喉を触ると……ん?首太くない?
喉仏…めっちゃ出てない?
ハっとして体を見ると…
シックスどころじゃねーエイトパックの腹筋…
の、その下に………
こ、こ、コ レ ハ っ!!!!
「お、男になってる?!!!!てゆーか裸じゃん!!!!!」
なんだコレ!!ナ ン ダ コ レ !!!!!
ってか、何で男なんだよ!!
どういう状況だよこの強制ターミネーター!!
思わず股間と胸を隠して身を丸める。
いやもう、完全にオネエか私は!!
「申し訳ありませんテラダ様、すぐに御召物をお持ち致します。」
若干慌てたセ○スが去ろうとするが、ちょっと待て。
「そういう問題じゃなくて!いや、問題だけど!何ですかこれ?!テラダって誰ですか?!」
「…え?」
『え?』
「え?」
それぞれ固まった。
「…すみません、お尋ねしますが……テラダ様…ではない?…のですか?」
「ち、違います…人違いです…」
アイ○ズ様とセ○スが顔を見合わせ、あちゃーという顔をする。
その時、私の後方から声がした。
「いかにも。俺が寺田だが。」
三人揃って声の方向を見た。
そこにいたのは、
「…ワニ?」
ワニだった。
「え?」
『え?』
「ワニが喋った…」
え、あのプールのワニ、喋るの?
ポカンと口を開ける私を二人が見た。
「でしたら…」
『お前は一体誰だ?』
二人の視線が痛い。
え、名乗らなきゃダメですか?
「お…
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