第12話 discord
2月に入るとまた少し状況が変わってきた。俺とミーアが付き合っている事が皆の知るところとなっているとカフェテリアで一緒になったイーサンが教えてくれたのだ。どうやらバンドメンバーに隠し事をするのに耐えられなくなったミーアが俺がいない時に皆に打ち明けたようだ。『俺から皆に伝える』と言っておきながら数週間放置してしまっていた俺にも大いに責任はある。後でミーアには謝らなければいけないな。
「ちなみにシオンさんはこの事知っているのかな?」
その名前を出した瞬間、少し表情が曇るイーサン。
「シオンさんにはミーアが直接伝えたらしいよ。それよりシオンさんで思い出したけどこの前あの娘また男に絡まれていてさ」
「え、またか?」
イーサンの話によるとその日の午後、講義を終えて帰路につこうと学内を歩いている時、男の大きな声がしたので痴話喧嘩かと思い覗きに行くとシオンさんとうちの大学の学生と思しき男が揉めていたそう。男は口々に『あんな事しておいて付き合えないってないだろ』とか『このあばずれ』などと言ってシオンさんを非難しており慌ててイーサンが仲裁に入ったという。
「その場はなんとか収めたんだけど相手の男の発言が気になってその事をシオンさんに問い質したんだ。でもシオンさんは『お願い、私を信じて』としか言わずに立ち去って行ってさ。正直シオンさんの交友関係とか人間関係一体どうなっているのかなって少し心配だよ」
シオンさんと交流を持ってすでに半年以上経つが未だに謎な部分が多い。そのミステリアスさは彼女の大きな魅力ではあるけど、2度も学内でトラブルに巻き込まれているのをみるにやはり男関係で何か良からぬ性質を持っているのかと勘ぐってしまう。普通に話している限りでは男女関係においてはむしろ保守的であるように感じるが実際はこちらが想像している以上に奔放な性格なのだろうか。
シオンさんの事は少し気がかりではあったが空気ノイズにとって今は大事な時期。俺は意識をバンドの方に集中しようと気持ちを入れ替える。
ここのところバンドの調子は右肩上がりだった。新曲も3曲立て続けに取り組みそのどれもが非常に良い手応えを感じさせた。練習は毎回本番と同じ緊張感を持って臨み、練習が終わった後は強い達成感を感じる事が出来た。まさに今は空気ノイズの成長期なんだと思えた。
その反面、ミーアと二人きりで会う機会は少し減ってしまった。家に帰ればすぐにギターの練習や曲のアレンジなどやるべき事が一杯ありついミーアとの事を疎かにしてしまっていた。その事を榎木さんに相談すると目茶苦茶高いテンションで説教されてしまう。
「ダメだよ羽山くん。鉄は熱いうちに打てって言うでしょ。付き合いたてが一番肝心なんだから。今すぐ彼女をデートに誘ってキスまで持ち込むべきよ」
「はぁ。なんか展開が急すぎて引かれないですかね?」
「まぁケースバイケースだとは思うけど、羽山くんたちの場合はもともとお友達期間があったわけでしょ?」
確かにミーアと出会ってからはもう随分経ったような気もする。期間で言えばまだ一年も経っていないがバンドメンバーとして共に過ごしてきた時間は濃密で19年間の人生の中で最も重要で充実した一年になるのは間違いない。
榎木さんはさらに持論を展開する。
「やっぱり大事なのは雰囲気作りよ。これまでの友達同士っていう雰囲気を一度壊して今までと違う流れに持っていく必要があるわね。キスまで持ち込む事が出来たらもう最後まで一直線よ」
榎木さんの明け透けなアドバイスに当てられて興奮してしまいつい妄想が広がっていたところに煽ってきた張本人から釘を刺される。
「あ、でも無理矢理SEXには持ち込まない事。特に最近は性欲が薄い子とか多いらしいから。私には理解できないけど肉体関係のない恋愛を望んでいる子が男女を問わず増えてきているって話だし」
あくる日、榎木さんのアドバイスを受け早速ミーアを呼び出しデートに誘うも意外な反応が返ってきた。
「カナタ無理しなくていいよ。今はバンドにとって重要な時期だしデートしててもきっとそっちの方に気を取られちゃうから。4月のイベントが終わったらまた二人でどっか行こう、ね」
ミーアに諭されるも昂っていた俺の気持ちは出鼻を挫かれた格好になりあからさまに気落ちした表情を浮かべてしまう。
それを見兼ねたミーアが俺を慰めるように代替え案を出してきた。
「それじゃあさ、今日の夜カナタ暇?晩御飯作りに行ってあげようか?」
俺は嬉しくて目を爛々と輝かせて聞き返す。
「え、いいの?すごい嬉しいけど」
「うん。私も彼女らしい事全然出来てないしね。それにカナタの家にも行った事なかったからちょうどいいかなって」
俺は浮かれて鼻歌を歌いながら大学構内を闊歩する。ミーアはそんな俺を見て苦笑しながらも並んで歩く。
講義が終わると俺たちは連れ立って食材を買いにスーパーに寄った。ミーアは次々とカゴにジャガイモ、人参、玉葱、豚肉を入れていく。
ははーん、さてはカレーを作るつもりだな。しかし俺は敢えて気付かない振りをしてミーアの後ろに付いて回る。隠し味だろうか、ヨーグルトを手に持ったミーアが照れながら言う。
「あんまり期待しないでよ。私そんなに料理得意じゃないんだから」
「そんな事気にしなくていいよ。ミーアが俺の為に料理を作ってくれるっていうだけでお腹いっぱいなんだから」
ミーアは照れて紅潮した顔を見られまいと俯きながら呟く。
「ちょっと、こんなところで惚気ないでよ。恥ずかしいじゃん」
そんな彼女の仕草も可愛らしく堪らなく愛おしく感じた。
食材を買って俺の住んでいるマンションまで来る頃にはすっかり日も暮れようとしていた。15階建のそのマンションを品定めするように眺めるミーア。
「へ~、カナタのくせにいいとこ住んでるじゃん」
「クセにとはなんだ。学生向け賃貸マンションなんてどこも同じようなもんだろ。ほら、とっとと行くぞ。うちは7階だからな」
ミーアをエレベーターに促し7階まで昇って行く。
自分の部屋のドアの前まで来た途端俺は急に緊張してきた。初めて女の子を自分の家に招き入れるのだ、無理もない。俺の緊張が伝わってしまったのか、ミーアも少しよそよそしい雰囲気だ。意を決してドアを開け中へ入る。ミーアも俺の後に続いて入って来る。
「お、お邪魔します」
「お、おう。自分ちだと思ってゆっくりしていってくれよ」
最初こそよそよそしかったミーアだが徐々に慣れていき終いには部屋の中を物色し始めた。見られてまずいものがあるわけでもなし、俺は暫く放置して飽きるまで見せてやることにした。
「へぇーこの照明可愛いじゃん。これカナタのセンス?」
「まあな。家電は備え付けだけどそういった小物類は全部俺のチョイスだ。なかなかいいセンスしてるだろ?」
「うん。まあまあだね。それじゃあ部屋の中も一通り見たしそろそろ晩御飯の準備しよっか。カナタ、エプロンある?」
そういえば母親に持たされたものの一度も使っていないエプロンがタンスにしまってあった。タンスの肥やしになっていたそれをミーアに手渡す。何の変哲もないグレーのエプロンだけどミーアが着けるだけで生き生きと輝いて見えた。
「それじゃ台所借りるね」
「俺も手伝うよ」
俺たち二人は狭いキッチンに並んで夕食の準備を始めた。狭いスペースで立ち回るので肩や腕、背中が触れ合いその都度俺は胸の高鳴りを感じた。そしてエプロンを締めたミーアの後ろ姿を眺めていた時、俺は衝動的に後ろから彼女を抱きしめていた。鍋をかき回していた手が止まり全身を硬直させている。だが俺の勢いは止まらずミーアの顎に手をやりキスをしようと顔を近づける。
その時ミーアの手が顔を押しのけるように触り俺は一時停止した。俺の腕から離れ正対すると意を決したように話し出す。
「ごめん、私カナタに伝えなきゃいけないことがあるの」
「なんだよ、急に」
「アセクシュアルって知ってる?」
聞いたことのない単語に戸惑っているとミーアが話を続ける。
「無性愛者って意味の性的マイノリティを指す言葉なんだけど私はアセクシュアルなんだ。まだ定義が曖昧な言葉だから補足するけど私の場合恋愛感情はあるけど性的欲求がないの。だからキスをしたりそこから先の行為には応えてあげられない」
突然の告白に頭が真っ白になる。さりとて黙っている訳にもいかず俺は別の要因に拒絶の原因をこじつける。
「ごめん、今のはちょっと性急すぎた。いきなりでびっくりしちゃったんだろ?性的欲求なんて誰にだって波があるんだからあんまり気にしないで」
「違う、そうじゃないの」
俺の話に割って入り強く否定するミーア。
「今まで一度もそういう欲求を感じたことがないの。それどころかそういう事をされそうになるって考えただけで強い拒否反応が出るの。それがたとえカナタであっても。うううん、むしろカナタみたいな親しい間だからこそ強く拒否反応が出るのかもしれない」
二の句が継げなかった。こんな拒絶のされ方があっていいのか。
『好きだけどSEXはできない』そんな生殺しのような恋愛を俺は続けていかなければならないのか。数ヶ月前、手を握り合って感じていたあの感情は何だったのか。
そうだ、もう一度手を掴めばそんな拒否反応なんて吹き飛ぶに違いない。
しかしミーアの手を掴もうと腕を伸ばすも体全体で拒絶されてしまう。
拒絶したミーアの方が申し訳なさそうに謝る。
「ごめん、カナタ。今日は私帰るね」
そう言うとソファーに掛けてあったコートを手に取り足早に去っていった。
IHコンロの上では作りかけのカレーがグツグツ煮えていて俺はスイッチを消して鍋に入っていた出来損ないのそれを全て流し台に捨てた。
それからミーアとは一度も連絡を取り合う事なくバンドの定期練習の日が来てしまった。俺たちは気まずさから目を合わせる事なく挨拶を済ませ、いつも通りを装ってセッティングを始める。俺も、そして恐らくミーアもただ一点を気にかけていた。それは俺たちのギクシャクした関係がバンドメンバーに知られて皆に心配をかけてしまう事。だから俺たちは打ち合わせをした訳でもないのにいつもと同じように振る舞い平常を装った。
そうした演技が功を奏してか皆に悟られる事なくバンド練習はいつも通り進んでいくかにみえた。ところが徐々に俺の集中力は低下していき普段では有り得ないようなミスを連発してしまった。2曲続けて曲構成を間違え演奏を止めてしまった時、トビアスが痺れを切らして発破をかけてきた。
「どうした羽山、らしくないぞ。本来ならバンドを引っ張っていくべき立場のお前が皆の足を引っ張ってどうする。本番までもう2ヶ月切ってるんだ。集中してやれよ」
返す言葉もない。しかしトビアスに言われっぱなしで反論しないでいると逆に心配されるかと思い適当に嘘をついてやり過ごす。
「ごめんごめん、昨日の夜Orbisで高校の友人とずっと喋っていてあんまり寝てないんだ。今から気合い入れてちゃんとするよ」
イーサンはいつものようにフォローしてくれる。
「若いなぁ。俺もハタチくらいの頃はOrbisでオールとかよくしてたけど30近くなると眠くなってダメだね」
「出たぁ~イーサンの自虐ネタ。もうおじいちゃんだもん仕方ないよね」
ミーアもいつものように笑っている。俺も合わせるように薄っぺらな笑顔を振りまいていた。
その後もミーアとちゃんと話し合おうと思いつつも踏ん切りがつかず時間だけが過ぎていった。ミーアになんて声を掛ければいいんだろう。どうすれば正解なのか。そんな事を考えて思いつめた表情で俯きながら大学構内を歩いていると突然横から声を掛けられた。
「羽山くん、どうしたの。どこか具合が悪そうだけど」
顔を上げるとシオンさんが心配そうに見つめていた。
「いえ、大丈夫です。ちょっと考え事をしていて」
「そう。良かったらちょっと付き合ってくれない。私次の講義まで時間が空いちゃって」
そう言われ連れられて来たのは談話室と呼ばれる2教室分ほどの大きさの喫茶スペースだった。今までも何度か通りがかったことはあったが入るのは初めてだ。
『ここ、最近の私のお気に入りなの』そう言って座り慣れた席に腰を下ろして自販機で買ってきたコーヒーを飲むシオンさん。
彼女には聞いておかなければならない事がある。イーサンが目撃した男に絡まれていたという情報。しかしプライベートな事に口を挟むのもどうかと逡巡しているとシオンさんの方から話し掛けてきた。
「水原さんとうまくいってないの?」
俺はびっくりして尋ねる。
「どうして分かったんですか」
「表情を見ていれば分かるわよ。普通付き合いはじめって一番楽しい時期じゃない?それなのに羽山くんったら全然浮かない顔してるし」
ずっと一人で抱え込んでいた悩みをあっさり見抜かれて俺は観念したように告白する。
「実は…」
それから俺はミーアとの間にあった事を全てシオンさんに打ち明けた。シオンさんは親身になって話を聞いてくれて哀れみの表情を浮かべる。
「一口にアセクシュアルと言っても色んなケースがあるから一概には言えないわよね。それこそ人の数だけ性的指向、性自認があるって言われてるし。やっぱり時間をかけて対話をしていくしかないんじゃないかしら」
「やはりそうですよねぇ。しかし最近若い女性の間で性欲の薄い人が増えているって聞いたんですけど本当ですかね?」
「あら、私は普通に性欲あるわよ。ただ眼鏡にかなういい男がいないってだけの話で」
いたずらっぽい笑みを浮かべて俺を見つめる。そのストレートな物言いにたじろぎつつ、ついセクシュアルな発言を誘導してしまった事を詫びる。
「すみません。うっかり変な話を聞いてしまって」
赤面して謝るもシオンさんはキリッとした表情でフォローしてくれる。
「確かに遊び半分で聞くことではないけれど性欲は決して恥ずかしい事ではないわ。だから羽山くんもあんまり思いつめないでね。私でよかったらいつでも相談に乗るわ」
”性欲は恥ずかしいことではない”その言葉のおかげでどれだけ救われたか。
ミーアに欲情したことに罪悪感を感じ始めていたので俺は彼女の言葉に縋った。
それから俺はシオンさんの元に頻繁に相談に行くようになった。バンドのことはもちろん学校やバイト先での事、そしてミーアの事についても。しかし当のミーアと二人っきりで会って話し合う事はずっと先送りにしてしまっていた。
その日もシオンさんに相談しようと二人で談話室に来ていた。空いている席がないかと二人で探し歩いているとばったりミーアと出くわしてしまった。普段こっちの方でミーアを見かける事がなかったので少し油断していた。同じ学内なんだからこういう事も起こりうるだろう。気まずい雰囲気だが無視する訳にもいかないので上ずった声で話しかける。
「よう、珍しいな。こっちの方まで来るなんて」
ミーアもよそよそしい感じで応える。
「別に、ちょっと用があっただけ。ごめん、サキを待たしてるんだ。私行くね」
そういうとシオンさんに軽く会釈して去って行った。
シオンさんは心配そうな表情で尋ねてくる。
「水原さん、変な誤解しないかしら。タイミングがタイミングだし」
「いいんですよ、あんな奴。だいたいあいつは他人に嫉妬とかするんですかね。恋愛感情はあるって言ってたけど正直それも疑わしい。あいつはただ恋愛と友情をごっちゃにしていただけなんじゃないですかね」
シオンさんは何も言わず憂いを帯びた表情で外を見つめていた。
その後も俺は相談という名目でシオンさんに会いに行った。彼女は何でも話せるお姉さんという感じで俺はつい甘えてしまい自身のプライベートな事についても全て話していた。相談内容はどんどんエスカレートしていき同性の友達にも話したことがない自身の性にまつわる悩みまで話していた。
その日も極めてプライベートな性の悩みを打ち明けていた。
夢の中でトイレを探すもどこにも見当たらず、走り回っているとミーアに呼び止められその瞬間に漏らしてしまい目が覚めると夢精してたという内容だった。際どい内容の相談にも拘わらず彼女は慈愛に満ちた表情で真剣に話を聞いてくれた。
「羽山くん、自慰はしないの?」
「したことないです。恥ずかしながらやり方が分からなくて」
「女には生理があって子宮内膜や卵子は毎月新陳代謝するように備わっている。もっともその生理も今では薬で抑えることができるけど。男にはそもそも古くなった精子を排出して新しいのと入れ替える仕組み自体がないから射精しないで欲求が溜まっていくと淫夢をみて射精を促すようにできているのね」
俺は今更になって『射精』や『淫夢』など卑猥な言葉をうら若い女性に言わしてしまっている事に後ろめたさを覚える。
「シオンさん本当にごめんなさい。こんな事まで聞いてしまって」
その時彼女の人差し指がスッと俺の口許まできて言葉を遮る。
「いいのよそんな事。それより気分転換に少し散歩しない?」
シオンさんに連れ出され大学構内を歩く。冬学期も終盤に入り一部の学部ではすでに春休みが始まっており人影はまばらだった。天気の良い穏やかな晩冬の午後をたわいもない会話をしながら歩いていく。
シオンさんに導かれるまま歩いているとスタジオのある旧校舎の方に来ていた。そのまま無言で旧校舎の中に入るシオンさん。俺も後に続く。
しんと静まりかえった廊下に二人の足音だけが鳴り響く。廊下の突き当たり、2階へと続く階段の踊り場まで来てシオンさんは足を止める。
「ここ、最初に羽山くんと出会った場所。覚えている?」
「ええ、もちろん。シオンさんが弾いてくれた『神秘の障壁』は今も深く脳裏に刻まれていますよ。人の演奏であんなに感動したのは後にも先にもあれきりです」
シオンさんは少し困った表情でくすぐったそうに笑う。
「やあねぇ、先のことは誰にも分からないわ。もっと素晴らしい演奏を聞く機会だってきっとたくさんあるわよ」
階段を上って3階までいくと”化学準備室”と書かれた教室の前まで来ていた。シオンさんが横滑りの扉を軽く持ち上げるようにして引くとガラガラと音を立てて開いた。
「ここ建て付けが悪く扉がすんなり開かなくて皆鍵がかかっていると思って放置されているのよ」
そう言って中に入るよう促す。俺は探検気分で中に入り辺りを物色する。化学準備室には古臭い実験器具やホルマリン液に入った生物標本が並んでいて物珍しさからそれら一つ一つを間近で観察していた。
ガタンと音を立てて扉を閉めるとシオンさんも教室の奥の方に入って来た。
「凄いですよこれ。絶滅した魚の標本かな?かなりグロテスクだけど」
振り向くとシオンさんの顔がすぐ近くにあった。
「羽山くん、私にはこれくらいしかしてあげれないけど」
次の瞬間シオンさんの右手が俺の股間に触れていた。びっくりして固まっているとその手はへその上まで登って来てズボンの中に滑り込もうとする。しかしベルトが締めてあり手の入る余地はない。シオンさんが耳許で『ベルト外して』と囁くので慌ててベルトを外す。
彼女の右手はズボンはおろか下着の中にまで入って来て直に俺のものに触っている。最初は何が起こっているのか理解できず戸惑っているだけだったが、段々と状況が飲み込めてくると性的興奮を覚え俺のものは彼女の手の中でみるみる大きくなっていった。それを確認するや安心したように『よかった』と呟いて俺のものを優しく愛撫する。
「すごく溜まっているみたい。性処理の仕方教えてあげるわ。リラックスしてズボンとパンツを下ろして」
言われるままズボン、パンツを下ろして下半身剥き出しにする。俺のものははち切れんばかりに膨張し今にも溢れ出しそうだった。
「我慢しないでいいからね」
彼女は優しく囁くとしゃがんで俺のものに軽く口づけをして、そのまま咥え込み唇を使って抜き差しを繰り返す。俺は嗚咽とも悲鳴ともつかぬ声を漏らして哀願する。
「シオンさん、ダメだ、そんなに激しく動かされたら俺、、」
根元まで咥えこんだそれをゆっくり亀頭まで滑らしていく。先端の部分を唇で軽く挟み込んだまま舌先でちょろちょろと尿道を舐められた瞬間、俺は堪えきれず射精してしまう。彼女はすかさずそれを口で受け止め、ポケットに忍ばせてあった一見ハンカチのような変わった素材のものに吐き出して慣れた手つきで持っていたバッグの中にしまった。
射精した直後は性欲が引いていく感覚があったがシオンさんに丁寧にウェットティッシュで拭いてもらっていると俺のものは再び大きく膨張し始めて性的衝動が蘇ってきた。今度は一方的に口でしてもらうだけでは満足できず、俺はしゃがみこんでシオンさんの唇を奪いにいく。
「羽山くん、それはダメよ」
彼女は抵抗するも俺の貪るような激しい情動に押し負け唇を許す。唇を重ねた瞬間、全身を電気で貫かれたような衝撃が走る。
その時、扉の向こうでガサゴソと何かが動く音がして慌てて互いの体を引き離す。
「誰かに見られたかな」
不安と興奮の入り混じった声で尋ねる。
「分からないわ。でも今日はもうやめておきましょう」
立ち上がって着衣の乱れを直すと俺の方に顔を近づけ耳許で囁く。
「今日のことは二人だけの秘密よ」
改めて頷くまでもない。誰にこんなことを言えようか。
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