第11話 deceptive cadence
年が明けて一月。正月ボケも抜けきらないうちに空気ノイズの周辺は俄に騒がしくなっていた。誰かが勝手にSNSにアップした学祭のライブ動画が反響を呼び、色んなところで拡散されていたのだ。それが影響してバンドのSNSの公式アカウントのフォロワーもここ数日で急激に増えていた。
そんな折、俺個人のSNSのアカウントの方にダイレクトメッセージが届いた。送り主はFract Noteというバンドのフロントマンの花室という男だった。メッセージの内容は今年4月にFract Noteとしては過去最大規模のライブイベントを企画するのでそこに空気ノイズとして出演して欲しいという旨であった。
突然のライブオファー。それも結構大きなステージで。
俺は早速皆に相談しようとSNSのバンドメンバー専用グループチャットにメッセージを送信。しかし返ってきた返事はどれも存外にあっけらかんとしたものだった。
テオもトビアスもイーサンも『タダで出れるんならいいんじゃない?』といった感じでミーアは『みんなに合わせる』の一言。シオンさんからは『頑張れ』とのエールを頂く。
花室から提示された出演条件にチケットノルマは”なし”と記載されていた。つまりタダで出れるということ。(ただし集客には協力して欲しいとの一文が添えられて)
皆の合意も得られたしすぐに出演承諾のメッセージを送ろうかと思ったが、そもそも俺はFract Noteのライブを見たことがない。4月に行われるイベントの雰囲気も分からないのにただ”チケットノルマなし”の文言に釣られて軽はずみに出演を決めてしまって良いものかと二の足を踏んでいたところに花室から2通目のメッセージが届く。
再来週にFract Note新年一発目のライブが下北沢のclub chamberでありもし良ければゲストで2名分出すんで見に来ないか、という内容だった。
渡りに船とはまさにこの事。俺はミーアを誘ってFract Noteのライブを視察しにいくことにした。
ミーアと下北沢の駅で待ち合わせをし二人でライブ会場を目指して歩いているとちょっとした人だかりに遭遇する。もしやと思ったがどうやらFract Noteのファンの子達がライブ会場の前でたむろしているようだ。その数ざっと2~30人。すでにある程度の数の固定ファンが付いているようだ。俺はミーアの耳許に顔を寄せて小声で喋る。
「結構女性ファンが多い感じだけどやっぱり女性受けするバンドなのかな?」
「MV見たけど確かに女性受けを狙っている感じはするね。あと歌詞がリアルな恋愛体験をもとに作っているらしくてそういうのに共感するコは多いかも」
なるほどねぇ。
「それでいうとカナタの書く歌詞は哲学的でちょっと小難しいから女性、というより若い人全般にあまり受けなそう」
そう言って一人で笑っているミーア。笑い事じゃないぞ、お前もメンバーなんだからな。
「あ、でも私は好きだよ、カナタの書く詞。映像との相性もいいしね」
身内からのフォローは逆に居た堪れない。
開場の時間になり周辺でたむろしていたファンの子達が列になって受付に並び始めた。俺たちもその列に加わる。
順番がきて受付のスタッフにゲストとして花室から招かれた旨を伝えるや、奥の扉からもう一人スタッフがやってきて俺たち二人を楽屋の方に案内してくれた。
「羽山さんですよね。話は聞いてます。ライブ前に花室が少しお話したいとのことなので今呼んできますね」
呼ばれて出てきたのは金髪の20代半ばくらいの一見チャラそうな男だった。
「初めまして花室です。君が羽山くんか。なかなかイケメンじゃん。隣の娘は彼女?」
俺とミーアは頬を紅潮させやんわりと否定する。
「いや、バンドのメンバーでVJやってる水原です」
ミーアは軽く会釈する。
花室はミーアにググイと近づき話しかける。
「水原さんかぁ、いい雰囲気出してるねぇ。女の子でVJやってるのも面白いし。あ、そうだ今度うちらのバンドでもVJで入ってよ」
ミーアは花室の圧に少し引きつつも社交辞令で当たり障りのない返事をする。
「はい、機会があればぜひ」
花室は俺の方に向き直り本題に入る。
「空気ノイズのライブ動画見たよ。めっちゃバズってるよね」
「はぁ、なんか有名なインフルエンサーが拡散してくれたみたいで。俺たちの力じゃないですよ」
「何言ってるんだよ、君たちの演奏が良かったからみんな反応してるんじゃん。しかしあのザラザラした音質ってどうやって作っているの?最近のAIによる音質補正では聞かれないような感じだったけど」
俺は少し得意げに花室に説明する。
「あれ、実はAIの音質補正全部切っちゃっているんですよ」
「え!まじで!」
花室は目を丸くして驚いている。
「いやー今時AIの音質補正なしでライブやってるバンドなんて見たことなかったからちょっと驚いたよ。それであんな音質になるんだ」
ふへーと感心しつつ花室は4月のイベントの事に話を移す。
「それでDMで送ったライブの件なんだけど日にちは4月5日、お台場のSTUDIO EVOLを押さえている。キャパは2000人。これは俺たちFract Noteとしては最大規模の観客動員でこれを契機にさらに大きなステージへ進もうと思っている。今回は3マンライブを考えていて俺たちFract NoteとSNSで話題のバンド"pop ogre"の出演が決まっている。あと1枠を現在SNSで話題沸騰中の謎のバンド、君たち空気ノイズに出てもらおうと思って声をかけたんだ」
なるほどな、花室が俺たちに白羽の矢を立てたのは音楽性だけでなくSNSでの話題性も期待してのことか。そうじゃなかったら外でのライブ経験もない学生バンドを自分たちの命運を賭けた一大イベントにわざわざ呼んだりしないか。
「お誘いありがとうございます。大変光栄なんですがライブの規模が規模なだけに今日すぐに返事することはできないんですが…」
花室は納得した様子で応じる。
「返事は今日じゃなくていいよ。ただ今後のスケジュールの関係で今週末までには回答が欲しいかな。出るにせよ出ないにせよ。まぁ兎に角今日は僕らのライブ楽しんでいってよ」
そう言って花室は楽屋に戻って行った。
そういえば大学に入学してからこの方、久しくライブは見てなかった。俺は期待を胸にライブ会場の方に向かう。
会場の中は薄暗く多くの人がごった返しているのでちょっと目を離すとミーアとはぐれてしまいそうだ。入り口から入ってすぐ突き当たりの所にバーカウンターがありミーアが飲み物を二人分取ってきてくれるというのでお願いする事に。
「じゃあ俺ビールで」
「こら、お前もまだ未成年だろ。ジンジャーエールで我慢しろ」
今日は年長者のトビアスがいないからミーアがお目付役のようだ。
そうか、トビアス。俺は去年のミーアの誕生日の時に抱いた罪悪感をミーアの後ろ姿を見ながら思い出していた。束の間ボケーっとしていたらミーアがキンキンに冷えたジンジャーエールのコップを俺の首筋に当ててきた。
「うわっ、やめろよ。真冬になんて事するんだ。そういうことは夏にやれよ夏に」
ミーアは腹を抱えて笑っている。
「ごめんごめん。だってカナタ私が前を通っても気付かないくらいぼーっとしてたから」
「ちょっと考え事してたんだよ。そんな事よりそろそろライブ始まるな。もっと前の方で見ようぜ」
俺はさりげなくミーアの肩に触れて前に促す。気づくと会場には200人近くの人がおり俺とミーアはすっかり人だかりの中に取り囲まれていた。
会場の照明が落とされSEも止んだ次の瞬間、ドラムのカウントが刻まれる。一斉に解き放たれるギター、ベース、ドラム、キーボードの音が体全体を包むように響き渡る。演奏が始まると同時に人の群れが一斉に上下に揺れる。俺はミーアとはぐれそうになり咄嗟に彼女の手を掴んで自分の元に引き寄せた。
それからは手を握ったままずっと演奏を聞き続けた。繋いだ手の所だけが温かく脈打ちまるで自分の体から引き離されたような感覚だった。3曲目が終わったところでmcが入り花室がマイクで喋り出したので俺はミーアに小声で尋ねる。
「ごめん、手暑いよね?離す?」
ミーアは俺の方に顔を向け小さな声で呟く。
「ううん、大丈夫。いいよ、このままで」
そう言って俺の手を軽く握り返してきた。俺は自分の存在すべてが受け入れられたような幸福を感じた、と同時に自分の奥底から溢れ出す感情にこれ以上蓋をし続けるのは不可能だと思った。
正直Fact Noteの音楽はあまりよく分からなかったけど皮肉かな、普段なら毛嫌いする恋愛ソングも今日はやたらと耳馴染みが良く聞こえてしまい、俺は自分の調子の良さに反吐が出そうになった。
ライブが終わり会場を後にする。さっきまで繋いでいた手がまだ熱い。俺たちは言葉数少なに歩き続ける。昼間来た道と同じ道を歩いているけど二人の間にある空気が一変してしまいどこを歩いているのかよく分からなくなった。とりあえず次の一手をと考え俺から声を掛ける。
「飯まだだったよな。どっか寄ってく?」
「あんまりお腹減ってないんだよね。今日は帰ろっかな」
「そ、そうか。じゃあ俺も帰るか」
変に意識してしまい空気が重い。このままの状態でミーアと別れるのは嫌だ。
俺は意を決して立ち止まり声を掛ける。
「ミーア、俺はお前に伝えたい、伝えなきゃいけない気持ちがある」
ミーアも立ち止まり振り返って俺を見る。
「こういうのはちゃんとしたムードを作って然るべきタイミングで言わなきゃいけないのは分かってる。でも俺の中の感情の器が溢れそうで今伝えておかないとダメなんだ」
拳を握りしめ振り絞るように言葉を放つ。
「俺はお前のことが好きだ。友達としてではなく一人の女性として。だからこれからも色んな景色を見て色んな感情を分かち合いたい」
短い沈黙の後、クスクスと笑いだすミーア。渾身の力を振り絞った告白を笑われて困惑しているとごめんごめんと言って弁明してくる。
「いやぁ~告白されそうな雰囲気だったけどやっぱり今日かぁ~って」
「さ、さっきも言ったろ。今日じゃないとダメだったんだって」
「分かってるよ。カナタのことずっと見てきたからそういうちょっと独りよがりで感情が先走っちゃうとこ。そんなカナタを好きになっちゃったんだもん」
え!大事なことを聞き流してしまったのでもう一度聞く。
「今なんて?」
「だから私もカナタのことが好きだよ。一人の男の子として」
その一言で舞い上がってしまった。俺は昂った感情のままミーアに抱きつこうとするも笑いながらかわされる。
「分かったって、カナタの気持ちは。だから、はい」
そう言って微笑みながら手を差し出すミーア。
「うん、じゃあ」
俺はミーアの手を取り並んで一緒に歩き始める。さっきまでは気付かなかった街の喧騒が一気に押し寄せてきて、全てが生き生きと音を立てていて孤独の入り込む余地はどこにもなかった。ミーアが少し心配そうな顔で呟く。
「みんなになんて言おうか」
この時確信した。ミーアはトビアスの気持ちに気付いていない。最も懸念すべきはトビアスにこの事をどう伝えるかなのだ。トビアスはミーアに気がある。それは間違いない。場合によってはバンドの人間関係を壊してしまいかねない。だから俺はミーアに余計な心配をかけないようトビアスの事は伏せたまま対処すると誓う。
「みんなには然るべきタイミングで俺からちゃんと伝えるよ。だからそれまでは内緒にしておこう」
「うん、分かった」
俺はミーアを安心させようと肩を寄せて呟く。
「大丈夫。何も変わらないよ、俺たちは」
その週のバンド練習ですぐに試練が訪れた。
俺とミーアは変に勘ぐられないようにと少し時間をずらして別々にスタジオに行き他のメンバーも続々と集まってきた。全員集まるといつものように持ち曲を通しで演奏してゆき小一時間経ったところで誰からともなく椅子に座りだしたのでそこから小休憩が始まる。
ペットボトルの水を一気に飲んで大きく息を吐いたイーサンがそのままの勢いで俺に向かって尋ねる。
「そういえば例のFract Noteのライブ、ミーアと見に行ったんでしょ。どうだった?」
ちょうど飲み物を口に入れた瞬間にセンシティブな話題を振られたので俺は思わず吹き出してしまった。
「おい!何やってるんだよ。汚いな」
潔癖症のトビアスに怒られてしまった。
「ごめんごめん、ちょっと飲み物が変なところに入っちゃって」
俺はなんとか誤魔化そうとするもイーサンがからかうように話を広げてくる。
「怪しいなぁ~。実はミーアとなんかいいことあったんじゃないの?なんて」
ケラケラ笑いながら茶化してくるイーサンをトビアスガ鋭い目つきで諌める。
「おい、イーサン、そういうのは冗談でも茶化していうことでもないぞ」
「ごめん。でもそんなに熱くならなくてもよくない?気心の知れたメンバー同士なんだし」
さっきまで熱かったスタジオの空気が一変して冷たくなってしまった。これはまずいと思い俺は二人の間に立って場を取持つ。
「今のは誰も悪くないよ。俺のむせるタイミングが悪かっただけ。俺もミーアも気にしてないからもうこの話は終わりね」
”俺は別に”とイーサンが手を振りトビアスも引き下がったのでホッと胸を撫で下ろす。悪い流れを変えるため俺は話を先に進める。
「それでFract Noteのライブの感想なんだけど正直音楽性とかお客さんのノリとかは俺たちが目指しているのとは少し違うと感じたんだよね。それでも共感できる部分もあったし何より自分たちの方で聞いてくれるお客さんの幅を狭めるのはよくないかなと思うんで誘われていた4月のイベントは出演しようと思っている。皆はどうかな?」
見回すと全員首を縦に振っている。全会一致だ。
「皆ありがとう。会場となるSTUDIO EVOLはキャパ2000人の大きな舞台。学外でのデビューライブでいきなりこのステージに上がれるのは運もあるけどSNSでの反響を見るにそれだけじゃない何かがこのバンドにはあると思う。ライブまであと3ヶ月。十分に練習をして2000人のお客さんを前に空気ノイズが本物のロックバンドであることを証明しよう」
一同歓声を上げて気合を入れる。高いテンションのまますぐに練習を再開すると大きな目標ができたせいかさっきまでの演奏とは気迫が違って聞こえる。あまりにも気合を入れすぎたせいで30分ほどしたらすぐに息が上がってしまって声がうまく出せなくなったので俺は皆に休憩を申し出る。
「ちょっと飲み物買ってくるは」
スタジオを出ると俺は自販機のある旧校舎の端の方に向かう。飲み物を買って自販機の横にあるベンチに座って休んでいると向こうから人がやって来るのが見えた。トビアスだ。自販機の前に立って飲み物を選んでいたトビアスガ唐突に聞いてきた。
「お前、水原さんと何かあった?」
しばしの沈黙。自販機から落ちるペットボトルの音がガコンと響き渡る。
これ以上トビアスを欺き続けるのは良心が耐えられない。俺は全てを打ち明けることにした。他でもないトビアスにだけは。
「実はミーアと付き合う事になった」
ペットボトルを手に取り一言。
「そうか、よかったな」
「ちょうど二人っきりになれてよかった。トビアスには最初に伝えておきたかったんだ。俺たち3人でつるむ事もよくあったしトビアスはミーアにギター教えてたりしたろ。だからその…」
次の言葉が出てこなかった。俺が言い淀んでいるとトビアスの方が切り出す。
「水原さんはずっとお前の事を見ていたよ」
そう言われた瞬間、トビアスへの罪悪感が堰を切ったように溢れて止まらなくなった。
「でも、ミーアは俺たちのものだった。それを俺が」
トビアスが厳しい口調で諌める。
「水原さんは”もの”じゃない。羽山は基本いいやつだけど時折女性に対して支配欲みたいなものが見て取れる。それが俺は心配だ」
「今のは感情が昂ってつい口が滑ってしまっただけで、」
「そういう時に人間の本性が出るんだよ。お前の深層心理には間違いなく支配欲、私有欲が根付いている。特に水原さんみたいな自分より力の弱い人間に対してはその傾向が強まる。それでもし水原さんを傷つけるような事があったら俺はお前を許さない」
”許せない”ではなく”許さない”と言い切ったところにトビアスの強い意志を感じる。ミーアを裏切ることはトビアスをも裏切る事になる。俺は指摘された事を真摯に受け止める。
「分かった。今の言葉、忘れずに胸に刻んでいくよ。もう誰も傷つけない」
無言で俺を見つめるトビアスの表情が少し緩んだ気がした。それから俺たち二人は並んでスタジオに戻る。少し間をあけたトビアスが俯いたまま呟く。
「でもよかったな、水原さん。本当に」
トビアスに打ち明ける事ができ、今まで抱いていた後ろめたさから少しづつ解放されていく気がした。
その日はバイトも入っていたので、Orbisにログインするや仕事の合間を見計らって榎木さんに経過報告をしに行った。
「実はこの間言っていた子と付き合う事になりまして」
「え~よかったじゃん。やっぱり私のアドバイスが効いたよね」
アバター越しでも榎木さんの表情は豊かで満面の笑みで祝福してくれているのが分かる。
「それとバンドの方でも動きがありまして。Fract Noteっていうバンドに誘われてお台場のSTUDIO EVOLでライブする事になりました」
「STUDIO EVOLって結構大きな場所じゃない?私でも知ってるよー。羽山くん案外有名人になっちゃったりして」
からかうような表情を浮かべて笑う榎木さん。
「でもFract Noteってどっかで聞いた事あるような」
そう言って思い出そうとするもなかなか出てこない模様。
”こういう時は”と言って榎木さんはスタッフルームで事務作業をしている男を呼びつけた。
男の名は柏木。俺と同じ学生アルバイトで大学3年。榎木さんと同じ時期にこのVRアパレルショップに入ったそうだ。
「ねえ柏木、Fract Noteってちょっと調べてくれない?」
「はいはい」と言ってVR空間内の端末を操作して検索する柏木さん。榎木さんによるとこの柏木という男はダークwebという一般の検索エンジンでは引っ掛からないサイトや情報にアクセスして調べてくれるいわば”情報屋”のような仕事もしているそうだ。
「Fract Note。5年前に結成された4人組のロックバンドでリアルな恋愛体験を基にした歌詞が若い男女の間で共感を呼び最近注目されていると。あ、でも2年前に軽い炎上騒ぎを起こしているね」
「え、どんな内容ですか?」
俺は好奇心に当てられ前かがみになって尋ねる。
「チケットノルマチャレンジみたいな事をしたらしく、キャパ200人のライブハウスを満席にするべくメンバー4人にそれぞれチケット50枚を売るノルマを課して達成できなかったメンバーをクビにするって企画をSNSで大々的に宣伝してやったらしい。それが一部で物議を醸したみたいだね」
「そうだ、それだよ。私の友人にバンドの追っかけやってるコがいて、そのコが凄い騒いでいたんだよ。それで覚えてたんだ」
思い出してスッキリしている榎木さんに向かってその先の顛末を語る柏木さん。
「それで結局ノルマ達成できなかったベースの人がクビになっている。今のベースは2代目らしい。この炎上騒ぎを起こしてからは割と地道にライブ活動を続けて今では正統派ロックバンドとして着実にキャリアを積んでいるみたいだね」
それから柏木さんは俺の方に向き直ってさらに話を続ける。
「と、ここまでは誰が調べてもすぐに出てくる情報。こっから先はいわば裏情報なんだけどFract Noteのフロントマンの花室塁は芸名で本名は小室塁。父親は衆院議員の小室一輝。10歳年の離れた兄の小室楓も都議会議員。でも当の小室塁は政治に興味がないらしく公にも家族の事は公表していないみたいだね。どう、参考になった?」
「ありがとうございます。花室氏が政治家一家だったのは驚きましたがバンドにはあまり関係なさそうなので気にしないでおこうと思います」
「そうだね。また何か知りたい事あったら声かけてよ。他所では出てこない情報も教えてあげるよ。物によっては有料だけどね」
柏木さんは得意げにアバターの指を動かしながらスタッフルームに戻って行った。
「さぁって、私も仕事に戻らなくっちゃ」
そう言って売り場に戻る榎木さん。
「ライブ頑張ってね。予定が合えば見に行ってあげるから」
「はい、ありがとうございます」
榎木さんの応援も受けて俺のモチベーションは益々上がっていくのであった。
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