「好きって言って」と幼馴染に言われたのでひたすら言い続けてたら喧嘩して、でも最後にはなんかイチャイチャして終わった件

くろねこどらごん

第1話

「ねぇ、好きって言って」




 とある休日。


 部屋でだらだらゲームをしている最中、唐突に現れてベッドに寝転んだ幼馴染が、これまた唐突にそんなことを言い出した。




「は?」




「は?じゃないし。私が聞きたいのは好きって二文字よ。ほら、早く言いなさい」




 いや、クエスチョンマーク入れたら一緒だろ…なんて思っても口には出さない。


 俺の幼馴染である美樹原たまきは、よくわからない拘りを持った女なのだ。


 さらにいえばめんどくさいやつでもある。下手につつくと藪から蛇が出る恐れがあったため、素直に好きと言ってやることにした。




「好きだ」




 あ、三文字になっちった。


 ま、いっか。とりあえず言ったからセーフだセーフ。


 ちなみにこのやりとりの間、俺の視線はずっとテレビ画面に釘付けである。


 ここを切り抜ければボスの部屋にたどり着くため、よそ見をしている暇などないのであった。




「……三文字はいいわ。好きだってシンプルだけど、男らしい言葉だから許す。でも、気持ちがまるで入ってないわ」




「え?なんだって?」




 こっちはそれどころじゃないんだが。道中に現れるザコが強いのなんの。


 しかも複数で襲いかかってくるから気の休まる暇がない。毎分がボスラッシュだ。


 さすがレビューでボスがオマケでザコがラスボスと言われただけあるゲームだぜ…相手にとって不足なしだ!




「やり直しを要求するわ。今度はもっと熱を込めて。言葉に気持ちを乗せて、好きって言って」




 あまりの歯ごたえに舌なめずりしていると、またたまきの声が聞こえてくる。


 いや、今忙しいから。水を差さないでくれないかな?


 ゲームとはいえ、男にはやらないといけない時があるんだよ!……と、カッコつけてはみたものの、俺だって鬼じゃない。


 幼馴染であり恋人でもあるたまきのことを完全に無視するのはさすがに心が痛むものがある。こう見えて、俺は恋人想いの男であった。




「ねぇちょっと。聞いているの誠士郎?」




「あ?好きだ!」




 というわけで、妥協案の登場だ。


 もう一度言えって言われたことはかろうじて聞き取れていたので、今度は大声で言ってみた。


 ぶっちゃけいくら付き合っている相手とはいえ、こういうセリフをシラフでいうのは高校生男子には小っ恥ずかしいにも程がある。一種の羞恥プレイと言えるだろう。




 そんなわけで誤魔化す気持ちも半分くらい混じっていたが、そこはたまきのためだと我慢する。


 彼女の要望に応えてやるのも、男の甲斐性ってやつだろう。




「……声を出せばいいってものじゃないわ。こっちを見なさい誠士郎」




「ん?好きだぞ!」




 あー、くっそ!かてぇなコイツ!


 全然削れねぇ!どうなってんだ畜生め!




「…………ちょっと、せいしろ…」




「あー!囲まれたー!やっべぇ好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好きだ!」




 一気にピンチに追い込まれ、焦りから早口で一気にまくしたてていく。


 ちなみに後半は逆に楽しくなってきて、ちょっとラップ口調だったのはここだけの秘密である。




「………………………」




「こういう窮地も大好きだぞ!ここを乗り切ったときの絶頂感とカタルシスが、俺をさらなる高みへ導い…って、あー!!!」




 脳からアドレナリンが大量に分泌され、テンションMAXに差し掛かったところで、画面がプツリと消えてしまう。


 今目の前にあるのはただの真っ暗な平面板だ。そこには絶叫をあげる俺のマヌケ面が映し出されて、さらに言えば背後のベッドからこちらにリモコンを向けた、なんとも不機嫌そうなたまきの姿もそこにある。というか、犯人丸わかりだよ。マジでなにしてんだよ!!




「おまっ、なにすんだよぉっ!」




 たまらず振り返り、抗議の声をあげるのも仕方ないというものだろう。


 半分涙声であった俺に対し、視界に入ったたまきは何故か目尻を下げており、その小さな頬をプクリと膨らませていた。




「誠士郎が無視するのがいけないんでしょう。気持ちを込めてって言ったのに、全然篭っていなかったじゃない」




「はぁぁぁぁっっっ!?」




 何言ってんのこの人!?一瞬可愛いなと思ったけど、何言ってんの!?




「いや、俺ゲームしてたじゃん!たまきくる前からやってたじゃん!熱中してたのも見てたよね!?」




「恋人とゲームだったら、恋人を取るものでしょ。せっかく遊びにきたんだから、もっと私に構ってよ」




 いや、お前毎日来てるじゃん!用なくても勝手にくるじゃん!ついでに飯食ってくじゃん!


 もっと言えば登下校どころか教室でもずっとベッタリじゃん!


 俺のプライベートタイムほぼゼロですが!?別にそこは文句ないけどさ!好きだし!!


 でもゲームの邪魔すんな!それとこれとは話が別だ!




「最初から構ってるじゃねーか!?無視なんかしてないぞ!?」




「ダメ。足りない。もっともっと、私だけを見てくれないと嫌なの。私が誠士郎の一番なんだから。ゲームに取られるとか嫌だ」




「えぇ…」




 め、めんどくせぇ…お前は真性の構ってちゃんかよ!!知ってるけど!!




「だからほら。私を見て、ちゃんと言って。好きだって、そう言ってよ」




 そう言うと、たまきは女の子座りの状態から腕を大きく広げた。


 どうやら俺が抱き締めて、愛の言葉を囁いてくるのを待つ構えらしい。


 とどのつまり、テレビを消して邪魔したことに関してまるで反省していないのがよくわかった。




「ほら、早く…」




「…………たまきは、俺の気持ちを疑っているのか?」




 だからまぁ、正直カチンときたわけだ。


 謝るより先に自分の気持ちを優先されるというのは、いくら好きな相手だろうと許容していいものじゃないと俺は思う。




「え……?」




「たまきは気持ちが篭ってないと受け取ったみたいだけど、俺は全部本気で言ってたつもりだぞ」




 なので、ちょっとお灸を据えてやろうと思ったのである。


 実際はクッソ適当に返事をしてたわけだから、ハッキリ言って今言ってることは全部ウソピョンなんだが、たまにはいい薬になるだろう。俺もちょっと構いすぎてた自覚はあるし。




「そ、そんな…そんなはずは…」




「俺が嘘ついてるって言いたいのかよ」




 はーい、ウソっすー。


 ほんとは恥ずかしかったから心なんて籠めてないっすー。


 でもここまで強気に出ておいて、やっぱウソですとか今更言えぬ。


 なら突き進むのみである。あと、なんかちょっと楽しくなってきたのは否定できなかったりする。




「そ、それは…」




「彼女に疑われるとか悲しいなー。俺、こんなにたまきのこと好きなのになー」




「…………!」




 お、露骨に顔色変わったな。


 ただでさえ白い肌が、なんか青白くなり始めてる。効果はどうやらあったらしい。


 それを確認すると、俺はたまきに見えないよう、ほんの小さく頷いた。




(ここらへんが潮時かな)




 好きな子をいじめるのは正直楽しいが、考えてみれば俺だって悪いところはあったのだ。


 全面的にたまきが悪いわけではなかったし、ここで俺の方から頭を下げて和解する方向に持っていくとしますかね。それが間違いなくベストだろう。




「たま――」




「ごめんなさい!」




 そう考えて声をかけようとした矢先、俺の身体に衝撃が走る。なんだと思い下を見れば、たまきが思い切り抱きついていた。




「え、ちょっ」




「そんなつもりじゃなかったの!疑ってしまってごめんなさい!私だって、誠士郎のこと大好きなの!だから誠士郎にもっと私のこと好きになってもらいたくて、好きって行って欲しくって…だからお願い、嫌いになんてならないで!」




 困惑する俺をよそに、たまきは胸元に頭を押し当て、グイグイと額を擦りつけてくる。


 嫌だ嫌だと駄々を捏ねる子供のような仕草だった。




「あの、たまきさん…?」




「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」




 恐る恐る訪ねてみても、返ってくるのはひたすら呟かれる、ごめんなさいの言葉ばかり。


 スイッチが入ってしまったらしく、これはどうやら長引きそうだ。


 どうしたものかと思いながら、俺はたまきを落ち着かせるべく、しばらくの間恋人の頭をただ撫で続けるのだった。


















「うー!うー!」




 ぽかぽか。ぽかぽか。




 胸に何度も何度も拳が当たる。


 顔を真っ赤にしたたまきが、ひたすら叩いてくるからだ。


 そこまで力があるわけではないけど、こうも連続で叩かれるとそろそろ根負けしてしまう。




「痛い、たまき、ちょっと痛いって」




「だって、だって誠士郎がぁ…」




 涙目になったたまきが俺を見上げる。グルグルと瞳の奥が渦巻いており、混乱真っ最中であることが伝わってきた。




(うーん、まいったなぁ…)




 あれから数十分後。ようやく落ち着いたたまきに事情を話したところ、今の状態に陥っていた。


 それについては俺が確かに悪かったけど、一番の原因は俺に醜態を晒してしまった気恥ずかさにあるらしい。




 まぁ普段俺の方から好意を伝えてくるよう強要してくることが多かったからなぁ。


 要するに攻められると弱いってことだな。うん、ちい覚えた。




「誠士郎、変なこと考えてない…?」




「そんなことないよ」




 ジト目で見てくるたまきに心臓が飛び出しそうになるも、根性で耐える。


 勘が鋭い…あれか、女の直感ってやつか?神様はなんで男にそういう機能をつけてくれなかったんだろう。なかなかに理不尽な話だと切に思う。




「それよりさ。そろそろ機嫌直してくれよ」




「……好きって言って」




 ないものねだりだと思いながら、たまきの機嫌を取ろうとしたのだけど、返ってきたのは聞き取れないほど小さな声だった。




「へ?」




「好きだって、私に言って。今度はちゃんと気持ちを込めて」




 そう告げてきたたまきの顔は、相変わらず真っ赤だ。


 最初はそうでもなかったのに、ここにきて気恥ずかしさが上回ったのかもしれない。


 本当にめんどくさい彼女だと、俺は少しばかり苦笑した。




「ちょっと誠士郎。なに笑って―――」




「好きだよ」




 言い終わると同時に、俺はたまきの身体を抱きしめる。


 言葉だけじゃ伝わらないかもと思ったからだが、正解だったかもしれない。


 こっちのほうが、たまきの体温や心臓の音までハッキリと伝わってきて、なんだかとても安心できる。




「俺は、たまきのこと好きだ」




「……うん、私も、誠士郎のことすきだよ」




 たまきも俺のことを抱き締めてくれて、それがとても嬉しかった。




(たまにはこういう日があってもいいか)




 色々あったけど、こうして恋人と触れ合うだけで、全てどうでもよくなってしまう。


 これが好きっていうことなら、こうして互いの気持ちを確かめ合うのも悪くないと思いながら、俺たちはしばらく抱きしめ合うのだった。

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「好きって言って」と幼馴染に言われたのでひたすら言い続けてたら喧嘩して、でも最後にはなんかイチャイチャして終わった件 くろねこどらごん @dragon1250

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