第2話 この茶の木の正体は?
「茶庵を出たのはいいけど、さてどこへ向かうべきか」
ひとまず抹茶を飲んで落ち着いたので、茶庵から出てみる。
あまり遠く離れすぎると、茶庵に戻れなくなる可能性もあるが……。
そう思った瞬間、視界に『茶庵→』と表示された。
→の方向は当然、茶庵のある方向である。
「女神さま、この世界の情報は分かるようにするって言ってくれたけど、ここまで便利だと本当にありがたいな」
これなら自由に出歩いても問題ないだろう。
それから100メートルほど歩いた地点に、興味を惹かれるものを見つけた。
「これ、茶の木か……!」
茶の木とは、文字通りに粉抹茶の原料になる葉っぱが付く木だ。
顧問の先生の実家で何度か見せてもらったが、そっくりだった。
近寄って触れると、宙に説明欄が浮かんだ。
『抹茶を生成できます。生成しますか? YES/NO』
「おお、やっぱり茶の木じゃないか」
もしかしたら異世界にも抹茶を飲む文化があるのかも、とワクワクしながら宙に浮かんだYESを押す。
すると、茶の木の葉っぱがいくらか取れて、輝いたと思ったら一気に粉抹茶になった。
……俺の手のひらの上で。
「……って、これ入れ物が必要だな……」
粉抹茶が風で飛ばないよう気をつけつつ、茶庵に戻って
それからこの抹茶の味はどんなものだろうかと、試しにお茶を点ててみる。
茶碗を手に取って一口飲むと、思わず目を見開いた。
「なっ、何だこれ!? 美味っ……!?」
抹茶特有の苦味はほどよく残りつつ、飲み味は爽やか。
独特の落ち着く香りはより濃く、しかし飲み干しても口の中には必要以上に残らない。
さらに不思議と体も暖かく、まるで調子が良くなっていくような……そんな感覚さえ覚えた。
「これがこの世界の抹茶の味……! 素晴らしい!」
これまで顧問の先生や部活の友達と、地方の茶会で、様々な抹茶を飲んできた。
しかしこの抹茶は記憶にある全ての抹茶を上回る、いわばパーフェクト抹茶だ。
もっと飲みたい、もっと抹茶を生成しようと立ち上がったが、しかし思いとどまった。
「……いや、あそこにある茶の木はほんの数本。全ての葉を採り尽くしたら、木自体がダメにならないか……?」
となれば、しばらくは我慢するしかない。
……しかし。
「こんなに美味しい抹茶、いくらでも飲んでしまいそうだ……」
我慢できなくなるといけないのと、ひとまず粉抹茶の鮮度を保つため、俺は粉抹茶を封のできる袋に移し替えて冷蔵庫へとしまった。
……だが、この時の俺はあまりの抹茶の美味さに盛り上がりすぎて、視界の端に映った説明欄を完全に見逃していたのだった。
『超高密度魔力の多量摂取により、ラク=タナバタのレベルが上昇しました。
レベル1→レベル50
スキルポイント:10→1500
HP:50→560
MP:0→120
攻撃力:30→150
防御力:20→170
速度:25→110
幸運:1000→1200
固有スキル:女神の加護(幸運値の増加)
汎用スキル:なし(スキルポイントの消費により取得可能)』
***
異世界にやって来てから、何日経過しただろうか。
もしかしたら一週間ほど経ったかもしれないが……。
ふと、自分に起こりつつある変化に、俺は唸っていた。
「は、腹が減らない……!?」
そう、あの抹茶を飲んで以来、全く腹が減らなくなった。
あれ以降も異世界産抹茶は飲んでいるが、やはりその影響ではなかろうか。
……というのも、あの茶の木、葉っぱを摘んだ翌日には葉っぱが全て復活していたのだ。
流石は異世界の茶の木だと思いつつ、俺はほぼ毎日のように粉抹茶を生成しては抹茶を何杯も飲み続けていた。
「でもそのせいで腹が減らないって、俺の体は大丈夫なのか……?」
心なしか、以前よりも体は頑丈になった気はする。
何となく力がついたと、感覚的に理解できるのだ。
それでも自分の身に何が起こりつつあるのかと、俺は必死に解明しようとしていた。
「自分の体について、説明欄とかって出ないのか?」
呟くと、それに合わせて宙に説明欄が浮かび上がった。
……するとそこには、こんなふうに記されていた。
『ラク=タナバタ
レベル9999(MAX)
スキルポイント:9999
HP:9999
MP:9999
攻撃力:9999
防御力:9999
速度:9999
幸運:9999
固有スキル:女神の加護(幸運値の向上)
世界樹の加護(全ステータスの向上、状態異常の無効化)
汎用スキル:なし(スキルポイントの消費により取得可能)』
「……はい?」
えっ、何だこれ。
ゲームのような表記だが、だからこそ明らかに異常だと分かる。
全ステータスが9999、恐らくは上限値だ。
そして『女神の加護』は多分、あの女神さまの力だろう。
キスをされた際に付与されたサービスというのが、この加護なのかもしれない。
しかし、それ以上に疑問なのは……。
「世界樹の加護とは……?」
世界樹、そんな大層なものがこの辺にあったか。
ここ最近は寄って来るアルミラージを愛でたり、腹が減らないのをいいことにのんびり過ごしていたり、強いて言うなら茶の木の葉っぱから粉抹茶を生成するくらいしか……んっ。
「いやいや。まさか、まさかなぁ……」
いやいや、と首を横に振りつつ、俺は茶庵を出て早歩きで100メートル先の茶の木へ向かった。
そして大体使い方が分かってきた説明欄に向かい、一言。
「この茶の木の正体は?」
「世界樹(若木)
この世界の魔力の源となる世界樹、その若木。
世界樹は不死鳥のように転生を繰り返し、決して完全消滅することはない。
秘境の森深くに自生し、その葉を手にした者に大いなる力を授ける」
「何だこれは……」
たまげたなぁ。
葉を手にするどころか、散々抹茶にして飲んでしまったのですがそれは……。
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