第6話

妖怪あやかしの話は続く。


幸福な時間は長く続かなかったと。


ある時日照りが続いた。作物が育たなくなる。

なんとかして欲しいと願う人々。

貢ぎ物を増やすが、日照りは続く。

天候は自分にはどうしようもない。

人々は飢えていく。

貢ぎ物も来なくなった。娘も痩せてしまった。

どうにもしてやれない自分がもどかしかった。


やがて人々は日照りが続くのは、神のせいだと言い出した。

我々は騙されたのだと。

怒りと憎しみを向け始めた。

挙げ句、娘のせいだと言い出した。

社を壊し始める。お止めくださいと泣き叫ぶ娘。


自分にはどうしようもない、いいから君は逃げてくれ!そう言っても、お側におります!と言って離れてようとしない。


ついには、娘に切りかかる。

止めろ!!声にならない叫びを上げても届かない。

倒れる娘。血が流れる。


なんてことだ!大事な人なのに!

抱き起こしてやりたいが叶わない。

しっかりしてくれ!頼む!


娘は震える手を伸ばして、触れられない自分の頬に手を当てる。

ごめんなさい。愚かな我々をお許しください。

貴方と暮らした日々はとても幸福でした。

ずっと守って下さって、ありがとうございました。

息も絶え絶えに言葉をつなぐ。


君が謝る必要なんてないんだ!頼む!生きてくれ!君しかいないんだ!


娘は優しく微笑むと、一筋の涙をこぼして息絶えた。


目の前が真っ赤に染まった。


おのれ人間共!勝手に祀り上げておいて、勝手に願いが叶わないと言って怒り狂う。挙げ句に大事な人まで手にかけた!


許さない。絶対に!


無いはずの体が熱くなり、怒りと憎しみの熱が姿を変える。

気がつくと炎が自分の周りを包み、手のひらからも炎を出している。

全て焼き尽くしてしまえ!


娘に手をかけた人間が、こちらに気づいた。


化け物だ!!


逃げようとするが炎からは逃げられない。

あっという間に焼きつくした。


ここにいた人間も社も全て焼きつくした。


残ったのは娘の亡骸と、初めて自分の姿を映した鏡だけ。

鏡を覗くと、狐の耳に狐の尾が九本。爪は長く伸び、髪は背中を覆うほどに伸びていた。

これが今の自分。妖狐あやかし。そう認識した。


鏡を拾う。

今まで触れられなかったはずの物に触れることができる。

娘にも初めて触れることができた。

痩せ細っても美しい娘。柔らかい髪。

抱きしめる。折れそうに細い。


皮肉にも神ではなくなってから娘に触れることが出来るなんて。


悔しい。悲しい。

やがて人のように涙が溢れた。

そして、娘の亡骸を優しい炎で焼きつくした。


娘が大事にしてくれたのは、神であった自分。

妖狐あやかしになってしまった自分にはもう娘は何も思わないだろう。

声も届かない。


鏡だけを持って、その土地を離れた。






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