第5話

何度目かの満開を迎えた夜。


「立派な藤だな!よし!ここを住処にするか!よろしくな!」


突然現れたは人の姿に似ているが、人ではない。

人の『想い』でもなさそうだ。

頭の上に獣の耳があり、獣の尾が何本も生えている。


「お?なんだお前、妖怪あやかしを見るのは初めてか?」


初めて見た。妖怪あやかしとはなんだろうか。


その妖怪あやかしは自分の話をしてくれた。


元々は神であったと。人々が勝手に祀り上げて神扱いをされたのだと。


最初はよくわからなかったが、徐々に願いを叶えられるようになって行った。

全てが叶うわけではないが、叶う率が高くなると、貢ぎ物が増えた。


悪天候が続いたある時、人々は一人の若い娘を貢ぎ物はなよめとして連れて来た。

その娘は、見えないはずの自分を相手に話かけたり、食事を作ったり、掃除をしたりしていた。

天候に関しては、何もできなかったが、いつの間にか悪天候はおさまっていた。

人々は娘を娶ったからだと言い、大騒ぎで喜んでいた。

それは、ただの偶然だったのに。


それからしばらくすると、自分と娘は意志疎通が出来るようになった。

悪天候が良くなかったのは偶然だと伝えると、それでも我々には救いだったのです。そう言って微笑んだ。


気がつくと、自分も人の姿がとれるようになった。

娘以外に姿は見えないが。


初めて自分の姿を見た時、娘は目を反らした。

自分は醜い姿になってるのだろうかと不安になり尋ねると、真っ赤になりながら、美しい姿に照れてしまっただけだと言った。

自分の姿はよくわからない。そう言うと娘は鏡を持って来た。

金茶の髪に黄金色の瞳。人々の姿とは似て非なるもの。

黒い髪と黒い瞳とは程遠い。

これは美しいと言うのだろうか。

色が人々と違う。

ぽつりと言うと娘は、神様なのですから我々とは違って当たり前です!

力説されてしまった。


この時期が一番幸福で楽しかった。

そう言って、妖怪あやかしは夜空を見上げる。







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