第14節 重要証言

 5日目の朝。



 今日、残りの作業員へのヒアリングを終わらせます。


 しかし、若いエッダたちが付け焼き刃でクロエのようなやり方をできるわけもありません。


 そこで4人は夜の間に話し合いました。


 そして結局、クロエのやり方は追求せず、自分たちらしく誠意でぶつかることに落ち着いたのです。



 特にエッダは4人の中でも若く、普段通りの純粋な人柄で大人たちと対話しました。


 若い彼らが切々とこの調査の必要性を訴え、真剣に事件を解決しようとするのを見るにつけ、作業員たちも悪い気はしません。騎士団の手先という誤解も解けると、みな少しずつ話し始めました。



 この日、クロエはそれを横で見ているだけでした。クロエはヴェルナーのことしか知らずにこの4人を連れてきましたが、今は4人に感心しています。


 いつもふざけたようなクロエですが、地道で誠実な態度を笑うようなタイプではないのです。

 


 そこに、次の人物が現れました。


 ドワーフです。



「おお、ギズさん。この間は色々と仕事を教えてくれてありがと」


「クロエ、あんたか。礼にはおよばん」


「今日はさ、うちの若い奴らが話をぜひ聞かせてほしいってんで頑張ってるんだよ」



 ギズと呼ばれたそのドワーフは、エッダたちに悪い印象は持っていないようです。


「知っておる。すでに質問を受けた同僚から聞いたわ。まあワシは元より、話さえ聞いてくれるならそれでええ。その点、騎士団はなあ」



 ギズは愚痴をこぼします。


「騎士団の仕事も理解しとるがな。しとるが、あいつらはわしらの扱いがぞんざいじゃった。あのバカ共、敵の思うツボじゃ」


 そう語るギズの意図は、こういうことでした。


「敵の思惑通り、騎士団は内輪でのギスギスに拍車をかけよる。そうでなくとも安全が確保できんから仕事も遅れとるのに。クロエ、あんたも呼ばれたはいいが予備調査ばかりじゃろ。幽霊が襲ってこんのは、我らを足止めするのが目的だからじゃろうて。ええように翻弄されとるだけじゃ」


 エッダは、誰による足止めだと思いますかとギズに聞きました。


 それに対して、よう分からんが妬んどる周辺諸国じゃろとギズは返します。みな、考えることは同じです。



「しかし、火災のときにまで幽霊が出たと思うて報告したワシも良くなかったがな」


 ギズの言葉を聞いて、エッダはピンときました。


「ギズさんですか、火災の日に幽霊が出たって報告してくれたのは」


 すると、ギズは報告をきちんと見てくれていることが嬉しかったのか、エッダと真正面から向き合いました。2人のやり取りが続きます。


「うむ。じゃが、騎士団はちゃんと話も聞きよらん。幽霊だと言ったら笑いおった。酒に酔ってる上に怯えとるから何でも幽霊に見えるんだと」


「でも、分隊長なら信じますよ」


「分隊長はな、あれはしっかりしとる。しかし、部下の中には勘違いしとるやつもおる。……まあしかし、さっきも言った通りあれはワシも悪かった。前から幽霊騒ぎがあったもんじゃから、つい幽霊だと」


「その言い方だと、幽霊じゃなかった?」


「後になって考えれば、な。あれから仲間に聞いて回ったが、あの火災の日だけは幽霊を見たという奴はついぞおらんかった。もしあれが幽霊だったとして、どこの世界に人を驚かせもせず、人間のおらん丘の向こうへ消えていく幽霊があるか」


「火災の日だけ幽霊は出なかった? どの方角に行きました?」


「東に。丘の向こうへ消えていったがの。消火活動の片付けで忙しかったし、あの時は幽霊じゃと思ったから、それを追いかける気にはなれん。ただ、これだけは言っておきたい」


 ギズはエッダを見据えました。

 

「騎士団は酒に酔って見間違えたと思うとるようじゃが、ワシに限ってそれはない。あの日は疲れて早めに寝たから、火災の声を聞いてもシャッキリ行動したと思っておる。それにな、ワシは……」


 そう言うと、ギズは急に言い淀みました。


 ドワーフは酒に強いから酔ってなかった、そんな話だとエッダたちは思いましたが、ギズは言いにくそうです。


「騎士団のやつら、話を聞かんから言う暇もなかったが、その、ワシはあれでな」



 しばらく言おうかどうしようか考えていましたが、ギズは恥ずかしそうにこう言いました。


「……実は、ワシは下戸じゃ。一滴も飲めんから酔いようがない。ドワーフのくせしてと思うなら思うがええわ。しかし、酔って見間違えたと思われるのは不愉快じゃ」


 驚くエッダにギズはもう1つ付け足します。


「それにな、騎士団はもう1つ忘れておる。ワシらドワーフは、鉱山で宝石を掘り出しとるじゃろ。つまり、暗い場所でも夜目が利くというわけじゃ。ま、確かに遠かった上に普段の幽霊騒ぎでつい思い込んだが、木の枝と見間違えたなどということはないぞ、確かに動く何かじゃった」



 あれ? とエッダは思いました。


「そういえば、甘いモノをもっと支給するよう要望がありましたけど、もしかして」


「なんじゃ、ジルベールから聞いたのか? そんなことは事件と関係なかろうに。そうじゃ、わしじゃよ。ワシャ酒より甘党でな、おいそこの若いの、この甘党のくだりはメモするな」


 そう言うと、そっぽを向いてしまいました。



     ◇


 

 ギズが出ていった後、エッダたちはこう考えました。


 消火活動の邪魔にならぬよう、気を利かせてコソコソ帰るアンデッドはいません。


 また、ギズの言う通り、アンデッドではなく人間だとして、消火活動中にそんな方向へ行く者もいません。


 となれば、犯人が資料室に忍び込む間、コントロールの利かなくなったアンデッドが間違って騎士団と接触し倒されては困る、だからその日だけはアンデッドが出没しなかった、そう考える余地はあります。


 状況からして、犯人は火災で新拠点に注目が集まるうちに資料室から帰ろうとしてギズに見られたのかもしれません。


 まだハッキリしないものの、やはり4つの事件には関係性があるように思えました。


 

 もしかしたらと、ヴェルナーはもう1つ考えます。


 普段からアンデッド騒ぎを起こしておけば、資料室に忍び込んだ際に誰かに見られても遠目には幽霊と思って怖がり近付かない、そこまで計算していたのではないか? 事実、ギズは丘の向こうへ立ち去る誰かを幽霊だと誤解しました。



 エッダたちは、明朝にもギズが教えてくれた人影の消えた方向を調査するつもりでした。



(次回「最後のアンデッド探索行」に続く)

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