第4節 ギルドマスターの言葉
しばらくして。
4人が必要な装備を買い足すなどして準備を終えると、ギルドマスターから追加で救命用のポーション(薬品)、保存食などが支給されました。
「初の冒険を祝し、これはギルドからの
ハイエルダールがすかさず質問します。
「2千もしくは3千ってどういう意味ですかネ」
それを受けてギルドマスターは、4人に座るよう促すと、自らも席につきました。その所作に隙はなく、音も立てずに座ります。ウェーブのかかった長い髪の毛のみが揺れました。
「まず今回の依頼は、蛮族を何とかしてほしいという話だとお伝えしましたが、これはかなり
そう言うと、ギルドマスターは順序立てて説明していきます。
「まずは規模の確認について。これはあくまでギルドの見立てですが、ごく少数、それも高位の蛮族ではないグループが悪さをしていると想像しています。第一の理由は、家畜が襲われる頻度や一度に奪う数がそう多くはないこと。第二に、まだ人間には手を出していないということ。多数の強力な蛮族がいれば小さな村などひとたまりもないでしょうが、そうなっていないのは、下位の蛮族が様子見をしているか、数が少ないからでしょう」
そこで一呼吸置くと、ギルドマスターは改めて4人の顔を真っ直ぐ見ました。
「とはいえ、ここまでのことはあくまで想像の域。ギルドは実際の現場を見ていません。想像だけで相手を安く見積もることほど、冒険者にとって危険なことはないのです。ですから皆さんは我々の想定を
さらにギルドマスターは続けます。
「なお、これまで人間側から明確な反撃がなかった以上、次第に蛮族も大胆になっている可能性は想定しておいてください。事実、盗まれた家畜の数も最初より増えており、力ずくで器物を損壊してもいます。急いで向かってほしいのはそういう意味もあるのです。その上で、探索における懸念があるとすれば……」
ギルドマスターが次の言葉を言うその前に、ハイエルダールが口を挟みました。
「襲撃範囲が2つの村に分れている以上、たまたま時期が重なっただけで、襲っているのは別々の蛮族グループである、という可能性ですかネ」
ギルドマスターは満足そうに頷きます。
「そうです。その場合、複数のグループの居所を探す必要があるため、捜索範囲が広大となります。また、仮に想定通り弱小蛮族であったとしても、複数の戦いをこなすのは面倒でしょう。しかし……」
初めての冒険に出る4人を不安がらせてはいけないとの思いからか、ギルドマスターは先生が生徒を安心させるような口調でこう言いました。
「楽観すべきでないことは先ほど申し上げたとおりですが、過度に悲観することもまた避けるべきでしょう。もし、複数の蛮族グループが人族の領域に入り込んでいるとしましょう。多数の目撃談や被害の訴えが寄せられそうなものですが、今のところそれはありません」
「また、2つの村は、周期的かつ交互に間隔をあけて被害にあっています。同族意識が少なく好き勝手に動く蛮族ゆえ、2つのグループが別々に動いているのであれば、そのような周期性が偶然にできるとも思えません」
ギルドマスターはそろそろまとめに入ります。
「いずれにせよ、そうしたことも含めた調査料として、総額2千が支払われます。調査の結果、思った以上に蛮族が強力で、自分たちだけで手に負えないと感じた場合、すぐにギルドへ報告してください。言わば、皆さんはまだ状況がはっきりしない中で下調べをする先遣隊です」
「仮に、自分たちだけで蛮族を倒せそうな場合はそのまま討伐をお願いします。その場合が総額3千、ということなのです」
最後に、4人から質問のないことを確認すると、ギルドマスターは期限について触れ、話を締めくくりました。
「いずれの任務にせよ、期限は今日を入れて5日です。5日経ったら、達成できなくともギルドへの報告をお願いします。もし村に重大な危機が迫っている場合は、村人を保護しつつギルドからの応援を待ってください。何より、焦って無謀な戦いを挑むことは最も避けるべきことだと肝に銘じてほしいのです。単独で蛮族を倒せずとも、何も恥ずべきことではありません。無事に帰ってくること、それもまた立派なことなのですから。みな、自らの実力を試したいと
ギルドマスターの言葉には重みがありました。4人は、初仕事にあたってギルドマスターから心構えを教えてもらったのだと理解しました。
(次回「少女との会話」に続く)
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