第18話「妄執と理。そして、それを受け入れる事勿れ侍」

「んでよ、俺は言ってやったわけよ!俺らの時代なら半殺しだぞって!一発で済んでよかったなってよ!」


「マジそれだよな!ほんと最近はどいつもこいつもよ!」


「昔は少しナメてるガキがいたら私刑リンチだったよな!」


「ほんと最近は歳上に敬語もつかわねえ馬鹿共が増え…おいジジイ!なに見てんだ!ババアと一緒にぶっ殺すゾ!」


 揃って青い衣服を身に纏った四人の男達が歩道で話しているところに老夫婦が近くを通り掛かり、四人の内の一人が声を荒らげて二人に言った。


「ひいっ…あ…ごめ……」


「謝る必要などない。悪いのは彼らだ。君達、そうやって徒党を組むのは構わないが通行の妨げになっている。見ろ、周囲まわりの人が避けているじゃないか。歩道は君達岳のものじゃなくみんなのものだ。話をするなら横にずれて小声で話すかどこか別の場所へ移りなさい」


 毅然とした態度で老夫が言った。


「あ?なにチョーシんだジジイ?あ?やんのか?」


「やらん。そうやってすぐに力で解決しようとするのは馬鹿のすることだ。大体君達のその格好はなんだ。揃って同じ格好して周囲を威嚇して楽しいのか?見たところ三十歳さんじゅう半ばを過ぎているだろう。いい年齢とししてそうやって力でしか物事を解決出来ないのは愚かだと思わないのか?それとも、愚連隊でも気取っているのか?」


「うっせえな!カンケーねえだろ!」


「わっ…うごえっ!」


 一人の男が老夫の肩を突き飛ばし、その反動で転倒した老夫はガードレールに後頭部をぶつけて地面に倒れた。


「ぶわはははは!だっせえ!軽く押しただけで倒れてやんの!」


「おいジジイわかったか!てめえらみてえな奴等が俺らに文句言うなんて百年んだよ!そのまま死ね!」


「つか愚連隊とかンだよ!俺らはギャングだ!青なめんな!」


 そして、老夫は帰らぬ人となった。


 ───三日後。


「クソが!なんで俺らがオマワリに行かなきゃなんねんだよ!クソジジイが!」


「あいつマジうぜえよな!エラソーにしてたわりにすぐ死ぬしよ!」


「つかジジイが死んだくれえで騒ぎすぎなんだよ!どーせすぐ死ぬだろうが!」


「ほんと老害だよな!軽く押しただけでコケやがって!勝手に死んでんじゃねえよ!あームカつく!……そうだ…歳上を蔑ろにするのは俺達の時代なら死刑だよなあ…」


「あ?お前急になに…ごえええっ!!」


 老夫を突き飛ばし、死に至らしめた男が不意に隣の男の喉元を力一杯絞め始めた。


「おごごごごごごご………」


 ぐぢゅ…


 湿り気を帯びた音が響き、苦しむ男の抵抗がんだ。

 首を絞められている男の喉元には老夫を突き飛ばした男の両手の指、その十指がことごとく根元まで突き刺さっていた。


「なっ…!?」


「ばっ…馬鹿野郎!なにしてんだ!!」


「遠く浮かんだ泥舟は、近くの彼方へ舞い散った…遥か未来の想い出は昨日の夜に消え去った…時代が許す限りない暴挙は歴史の上に成り立つ平和の旋律を奏でる妄執者達の日常として受け入れられた……」


「おい!マジでどーしたんだよ!」


「馬鹿!んなことよりそいつ死んじま…うわっ!?」


 二人の男は慌ててその行為を制止しようとしたが、その行為が既に一人の男を死に至らしめていたのは明らかであり、二人は制止することすら出来なかった。

 男の指は喉元を抉り出すようにしてそれを握り潰し、その指の間からは赤く滑りを帯びた液体と鮮やかな色彩を放つ肉がいた。

 そして、男は虚ろな眼で譫言うわごとを呟きながら強引に喉元から肉を引きちぎった。


「なななにしてんだよ!?」


「お前!!なんでだよお前!?」


 肉を引きちぎられた男の喉元を見た二人の男は驚きと恐怖が交雑した声で叫ぶように問い掛けた。

 二人の視線の先にある喉元からは赤白あかじろい物体が見えていた。

 それは、人間が生きていく上で凡そ見ることのないだった。


「時代だからゆるされる…時代だからゆるされる…俺らの時代は人を殺していい時代だった…俺らは見ず知らずの人間を殺して当然の戦争時代を生きてきた…時代という言葉を笠に着る妄執者がそれを受け入れるは民衆のことわりとして認定されたさざれ意思が祝おうとする無罪つみ……」


 男は呟きながら他の二人も喉元を抉るようにしてくびり殺し、そして最後に自らも同じく殺した。

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